血統鑑定士の災難

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血統鑑定士の災難【本編】

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「おい、横から搔っ攫うなよ」

まったく、油断も隙も無いと鑑定士長は私の背後でふふふと嫣然と笑うトゥマエレ教皇を睨む。

「人がゆっくりと開いていこうとしてたのに、捻じ込むなんて性急すぎるだろ」
「あら、リリちゃんみたいな奥手さんはここぞという時にグイグイいかないと。エドもエドよね?リリちゃんがこうして慕ってくれていた事を露わにした途端、手を出そうなんて現金よねぇ」

足りない酸素のせいでぼんやりしている私に、ね?と背後から同意を求められたが、何を言っているのか理解できておらず、乱れた息を整えるために呼吸を繰り返しながら「?」と首を傾げる。

トゥマエレ教皇の放たれた言葉に鑑定士長は悔しそうに顔を歪めつつも、直ぐに気を取り直して両手で私の顔を挟むように持ち上げるとスリ、とノーズキスをして私の目を覗き込んできた。

「エドゥバルド、おじさん・・・?」
「おっと、懐かしい呼ばれ方だ。どうした?」

アカデミー高等学部入学前後からエドゥバルドを役職名で呼ぶようになった私に少し寂しさを覚えていたらしく、名前で呼ばれた事に嬉しそうに相好を崩して笑った。

その笑顔に私も嬉しくなり、ふわりと笑みを零せば「ぐぅ」と喉の奥で何かを我慢したような声が目の前で漏れた。

「わ、私・・・、良いんでしょうか?」
「なにが?」
「年齢も、性別も・・・何もかもが、貴方に釣りわない・・・」

そう思って想いに蓋をしたのだと、ぼそぼそと伝える。

それにエドゥバルドは笑うと唇を重ねてきた。

ちゅ、ちゅっと音をさせてバードキスを数回すると、初めの時と同じように私の唇を覆うように唇を重ね合わせてそろりと舌先で唇を舐めた。

まるで伺いを立てるように優しく。

先程までトゥマエレ教皇との深い口づけを思い出し、ふる・・・と無意識に身体が震える。

そっと唇を開けばすかさず舌を差し入れられ、トゥマエレ教皇よりも熱く感じられる舌が口内を味わうように動いた。

その動きに翻弄されて、息がつけずにふぅふぅと息と声にもならない声が漏れる。

「鼻で息をするのよ。・・・そう、そうやって呼吸をしながら・・・エドの舌に自分の舌を絡めるの。ふふ、上手ね」

トゥマエレ教皇の導くような声の通りに動くとエドゥバルドが喉で笑い、更に舌が奥へと入り込んだ。

とろ・・・と注ぎ込まれる唾液を思わず飲み込み、コクンと喉を小さく鳴らせば、顔を包み込むように持ち上げられていた大きな両手の指先で良い子とばかりに耳の後ろを撫でられた。

その行為に心が擽ったくなり、もっとして欲しくて舌を自ら絡めにいった。

たっぷりと重なり合った唇は名残惜し気に離れ、また触れるだけのキスが落とされた。

音を立てて、熱を持った頬に、目尻にとキスを落とされ、この間にも私の下腹部には熱が籠もっていく。

下腹の異変を隠すのに、もじ・・・と両足を動かせばスルリとトゥマエレ教皇の指先が太ももを撫でた。

「ひっ・・・ふ・・・うぅ・・・」
「このままにするのは、ちょっとかわいそうなんだけど、リリちゃんのさっきの質問の答えね?」
「だから、トゥマは触るなって」
「何でよう~。いいじゃない。私だってリリちゃん可愛いもの。愛でたいの」
「トゥマエレ教皇様・・・?んんっ、や・・・そこ、触らない、で・・・」
「やん、リリちゃん、絶対トゥマちゃんて呼んでくれない~」

姿勢を変えられ、エドゥバルドに左肩を抱かれて引き寄せられ、それに抵抗することなく身体を預ければ、左側からトゥマエレ教皇の手が伸びてくると太ももの内側を撫で上げられて声が漏れる。

「さっきの続きね。・・・サマリティシア教の教義は愛の名の下に産めよ育てよ・・・よね?『産めよ』というのは別に子供を産むというだけではないの。女神は愛と豊穣、つまり作物も然りなのね。そして、愛の名の下に。というのは勿論男女間の愛もあるわね、家族の愛、親愛もそうね。友を想う心、友愛よね?己よりも弱いもの、赤ん坊や幼子、ペットなどの動物を慈しむ愛、慈愛があるわね。様々な愛によって何かが産まれ、それを育む。それが教会の教えよ。だから、愛し合うのに性別は関係ないの。寧ろ同性の方が尊いとされる事もあるわ。年齢や立場も同様に愛の名の下では意味のないものとされるの。惹かれ合い、愛がそこに生まれるのならば、教会はそれを決して否定しないわ」
「で、でも・・・私は・・・」

話しながら撫で続けられるトゥマエレ教皇の手を止めるように震える手で掴めば、するりとその手を撫でられて指を絡めとられる。

その感触でさえ、下腹部へとぞわぞわとした感覚が伝わり、その感覚を振り払うかのように頭を左右に小さく振ってから、スリ・・・とエドゥバルドの胸に擦りついた。

よしよしと大きな手に撫でられて思わずうっとりと目を閉じる。

「リリちゃんは、性につながる愛が怖いのかしら?」
「ロアンはあのマリアンナ嬢に嫌悪感を向けていたな。・・・ああいう手合いは嫌いか?」
「性愛もまた、愛の一つだと教会は教えているわ。まぁ、マリアンナ嬢のは極端ではあるのだけれどね。お互いに納得をして性交をすることは、いけないことではないの」
「だが、周りを無視して巻き込み、傷つけるのは論外だがな」
「そうね。独りよがりな愛は身を亡ぼす。とも教えているわ。だから、相互同意の下に。と付け加えられるの」
「マリアンナ嬢たちの愛の形は違ったんですか?」
「あの子たちは、ううん、マリアンナ嬢の愛は独り善がりだったの。禁書に踊らされて愛を捧げる相手の心を見ていなかった。自分だけが幸せになるための、幼稚な愛だわ。・・・愛の名の下に全てが許されるわけではない。とも教えているのよ。それを忘れてしまったのね。残念なことだわ」

マリアンナ嬢の独り善がりな愛は、まさに身を滅ぼした。

そう、トゥマエレ教皇は話した。

今思えば確かにマリアンナ嬢は目の前の相手を見ていなかった様に思えた。

抱き合っているのに、背後の何かを見ていたマリアンナ嬢が気持ち悪かったのだ。

マリアンナ嬢の相手も相手で、それに気づかずに己の欲を叩きつけている様に見えた。

嚙み合わない、何かがすれ違ったままで絡み合う身体に違和感を感じて、ただただ、気持ちが悪かったのだ。

それなのに、自分の身体が浅ましく熱を持ったことに嫌悪を抱いた。

元々、性に対してそこまで興味がなかったから、意図せず生み出された己の欲が気持ち悪いものに思えたのだった。

そうポツポツと話したことでトゥマエレ教皇はそうだったのね。と深く頷いて太ももを撫でていた指でチョンと私の鼻先を突いた。
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