16 / 55
血統鑑定士の災難【本編】
16 サヴォイ公爵家の三兄妹②
しおりを挟む
「ノックぐらいしろ」
「煩いですわ、ライナス兄様。・・・ってハロルドお兄様がどうしたんですのっ!?」
涙目で幾分顔色の悪いライナスはふらふらと足元覚束なく二人へと近寄り、力なくソファへと体を沈めるとポツポツと話し始めた。
父からハロルドを見送る事すら禁じられてはいたが、見付からなければ良いと勝手に判断し、自室で休むと言い伝えて密かに屋敷を後にするハロルドを陰から見守っていた。
でかい図体の癖に、気配を消すのは騎士団の仕事で身に着けていた技の一つだろう。
身のまわりの必要最低限の荷物を両手で持ち上げれる位の大きな鞄に入れ、それを抱えながら屋敷を出ていくハロルドに、一人の侍従が手紙と思わしき物を渡しているのが見えたのだ。
ライナスのいるところからハロルドが見えなくなるまで後ろ姿をしっかりと見送ると、先程の侍従を探して問いだした。
兄妹達は手紙の一つすら渡すことを禁じられたのに、誰だ!ハロルドに手紙を渡した奴は!と少し嫉妬交じりの問いかけに、侍従はライナスの剣幕に恐れおののきながらも昨日届いたばかりのハロルド宛の手紙だと答えた。
「差出人を確認したのか?」
「あぁ・・・リードからだった」
「リードって、あの、リード様ですの? あの?」
カーティスの問いに答えたライナスの言葉に、わなわなと震えだしたのはアンジェリカだ。
ギラと見開かれ、視線だけで黙らせるという父そっくりな目元は、既に視線だけで人を射殺せそうである。
「間違いなく、あの、リードだ」
「な、んで!何でですの!リード様からハロルドお兄様への手紙は先に私とライナス兄様で検閲し、不適切な内容が書かれていた場合はそのまま返送するのがルールでしたのに!」
「もうサヴォイ家となんの関わりもない者への手紙など検閲する必要はない。と父から言われたそうだ」
「お父様ぁぁぁああああ!」
今にも父を絞め殺しに行きそうなアンジェリカをどうにか抑えつつ、カーティスは二人の行き過ぎるハロルドへの重い家族愛に少し引いた。
リードとは、隣国であるティヴラン皇国の姫であった母の従弟の長兄だ。
隣国とはいえ、サヴォイ公爵家とは親戚筋でもあり、ライナスと同い年という事でアカデミーの高等学部へ留学生として学生寮を利用して通い、卒業後はティヴラン皇国へ帰ったのを覚えている。
アカデミー在学中にハロルドとも交流をしていたのはライナスと、ハロルド本人からも聞いていた。
まさか、手紙でのやりとりがライナスではなくハロルドと続いていたとは思いもしなかったが。
というより、不適切な内容ってなんだ?とカーティスは疑問に思う。
留学期間中、学生寮住まいとは言え、長期休暇になれば皇国への一時帰国や、我が家にも来訪してはいたが、二人が心配するような人物には見受けられなかったが。とカーティスが言えば
あれは羊の皮を被った狼ですのよ!とアンジェリカが声を荒げた。
多少、スキンシップが多い気はしたが、ティヴラン皇国はそういう国だと聞いたことがあるし、実際ティヴラン皇国からの大使は男女関係なくハグとチークキスが挨拶だったから、気にもしていなかったと言うカーティスに「これだからお義姉様以外は目に入らない人は・・・」とアンジェリカは大きなため息を吐いた。
なんでもハロルドに対するスキンシップはそういうサラりとしたものでなく、こう、ねっとり、じっとりしたものだったとアンジェリカは力強く説明する。
ライナスもそれに苦笑いで肯定し、何と言っても婚約中はオリヴィエ嬢が警戒していたと話した。
が、当のハロルド本人はそんなわけがないと兄妹や婚約者の忠告を真面目に受け取らず、リードを兄のように慕っていた。
強く言うようなものなら、リードを侮辱している!と逆に窘められてもいたから、アンジェリカはハロルドに隠れてリードからのアプローチをそれとなく邪魔していたのであった。
ライナスはリードの想いを本人から相談されており「ハロルドを泣かせたくはない。今が幸せなのならば、婚約者から奪い取るつもりは全くない。だがハロルドを目の前にした自分が暴走しないとは限らないから・・・」と言われてアカデミー在学中はなんとか監視してリードの手綱を握っていたのだが・・・。
手紙の内容も長期休暇を利用してティヴラン皇国へ来てみないか。とか、告白紛いな文などが一文字でも書かれていれば、アンジェリカはハロルドへ渡すことなく、ハロルドは今忙しいから代筆しました。と嘘八百を並べて送り返したりしていた。
何度かリードからの手紙がハロルドに見つかり、全て阻止する事が出来なかったのはアンジェリカ痛恨のミスだったが、プンプンと怒るハロルドが愛おしくて「尊い・・・」と涙し、その涙に勘違いしたハロルドが慌ててアンジェリカを慰めるという事象が数度あったりもした。
それもハロルドがマリアンナに傾倒し始める前までだったが・・・
「煩いですわ、ライナス兄様。・・・ってハロルドお兄様がどうしたんですのっ!?」
涙目で幾分顔色の悪いライナスはふらふらと足元覚束なく二人へと近寄り、力なくソファへと体を沈めるとポツポツと話し始めた。
父からハロルドを見送る事すら禁じられてはいたが、見付からなければ良いと勝手に判断し、自室で休むと言い伝えて密かに屋敷を後にするハロルドを陰から見守っていた。
でかい図体の癖に、気配を消すのは騎士団の仕事で身に着けていた技の一つだろう。
身のまわりの必要最低限の荷物を両手で持ち上げれる位の大きな鞄に入れ、それを抱えながら屋敷を出ていくハロルドに、一人の侍従が手紙と思わしき物を渡しているのが見えたのだ。
ライナスのいるところからハロルドが見えなくなるまで後ろ姿をしっかりと見送ると、先程の侍従を探して問いだした。
兄妹達は手紙の一つすら渡すことを禁じられたのに、誰だ!ハロルドに手紙を渡した奴は!と少し嫉妬交じりの問いかけに、侍従はライナスの剣幕に恐れおののきながらも昨日届いたばかりのハロルド宛の手紙だと答えた。
「差出人を確認したのか?」
「あぁ・・・リードからだった」
「リードって、あの、リード様ですの? あの?」
カーティスの問いに答えたライナスの言葉に、わなわなと震えだしたのはアンジェリカだ。
ギラと見開かれ、視線だけで黙らせるという父そっくりな目元は、既に視線だけで人を射殺せそうである。
「間違いなく、あの、リードだ」
「な、んで!何でですの!リード様からハロルドお兄様への手紙は先に私とライナス兄様で検閲し、不適切な内容が書かれていた場合はそのまま返送するのがルールでしたのに!」
「もうサヴォイ家となんの関わりもない者への手紙など検閲する必要はない。と父から言われたそうだ」
「お父様ぁぁぁああああ!」
今にも父を絞め殺しに行きそうなアンジェリカをどうにか抑えつつ、カーティスは二人の行き過ぎるハロルドへの重い家族愛に少し引いた。
リードとは、隣国であるティヴラン皇国の姫であった母の従弟の長兄だ。
隣国とはいえ、サヴォイ公爵家とは親戚筋でもあり、ライナスと同い年という事でアカデミーの高等学部へ留学生として学生寮を利用して通い、卒業後はティヴラン皇国へ帰ったのを覚えている。
アカデミー在学中にハロルドとも交流をしていたのはライナスと、ハロルド本人からも聞いていた。
まさか、手紙でのやりとりがライナスではなくハロルドと続いていたとは思いもしなかったが。
というより、不適切な内容ってなんだ?とカーティスは疑問に思う。
留学期間中、学生寮住まいとは言え、長期休暇になれば皇国への一時帰国や、我が家にも来訪してはいたが、二人が心配するような人物には見受けられなかったが。とカーティスが言えば
あれは羊の皮を被った狼ですのよ!とアンジェリカが声を荒げた。
多少、スキンシップが多い気はしたが、ティヴラン皇国はそういう国だと聞いたことがあるし、実際ティヴラン皇国からの大使は男女関係なくハグとチークキスが挨拶だったから、気にもしていなかったと言うカーティスに「これだからお義姉様以外は目に入らない人は・・・」とアンジェリカは大きなため息を吐いた。
なんでもハロルドに対するスキンシップはそういうサラりとしたものでなく、こう、ねっとり、じっとりしたものだったとアンジェリカは力強く説明する。
ライナスもそれに苦笑いで肯定し、何と言っても婚約中はオリヴィエ嬢が警戒していたと話した。
が、当のハロルド本人はそんなわけがないと兄妹や婚約者の忠告を真面目に受け取らず、リードを兄のように慕っていた。
強く言うようなものなら、リードを侮辱している!と逆に窘められてもいたから、アンジェリカはハロルドに隠れてリードからのアプローチをそれとなく邪魔していたのであった。
ライナスはリードの想いを本人から相談されており「ハロルドを泣かせたくはない。今が幸せなのならば、婚約者から奪い取るつもりは全くない。だがハロルドを目の前にした自分が暴走しないとは限らないから・・・」と言われてアカデミー在学中はなんとか監視してリードの手綱を握っていたのだが・・・。
手紙の内容も長期休暇を利用してティヴラン皇国へ来てみないか。とか、告白紛いな文などが一文字でも書かれていれば、アンジェリカはハロルドへ渡すことなく、ハロルドは今忙しいから代筆しました。と嘘八百を並べて送り返したりしていた。
何度かリードからの手紙がハロルドに見つかり、全て阻止する事が出来なかったのはアンジェリカ痛恨のミスだったが、プンプンと怒るハロルドが愛おしくて「尊い・・・」と涙し、その涙に勘違いしたハロルドが慌ててアンジェリカを慰めるという事象が数度あったりもした。
それもハロルドがマリアンナに傾倒し始める前までだったが・・・
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
嘘の日の言葉を信じてはいけない
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
嘘の日--それは一年に一度だけユイさんに会える日。ユイさんは毎年僕を選んでくれるけど、毎回首筋を噛んでもらえずに施設に返される。それでも去り際に彼が「来年も選ぶから」と言ってくれるからその言葉を信じてまた一年待ち続ける。待ったところで選ばれる保証はどこにもない。オメガは相手を選べない。アルファに選んでもらうしかない。今年もモニター越しにユイさんの姿を見つけ、選んで欲しい気持ちでアピールをするけれど……。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる