血統鑑定士の災難

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血統鑑定士の災難【本編】

16 サヴォイ公爵家の三兄妹②

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「ノックぐらいしろ」
「煩いですわ、ライナス兄様。・・・ってハロルドお兄様がどうしたんですのっ!?」

涙目で幾分顔色の悪いライナスはふらふらと足元覚束なく二人へと近寄り、力なくソファへと体を沈めるとポツポツと話し始めた。

父からハロルドを見送る事すら禁じられてはいたが、見付からなければ良いと勝手に判断し、自室で休むと言い伝えて密かに屋敷を後にするハロルドを陰から見守っていた。

でかい図体の癖に、気配を消すのは騎士団の仕事で身に着けていた技の一つだろう。

身のまわりの必要最低限の荷物を両手で持ち上げれる位の大きな鞄に入れ、それを抱えながら屋敷を出ていくハロルドに、一人の侍従が手紙と思わしき物を渡しているのが見えたのだ。

ライナスのいるところからハロルドが見えなくなるまで後ろ姿をしっかりと見送ると、先程の侍従を探して問いだした。

兄妹達は手紙の一つすら渡すことを禁じられたのに、誰だ!ハロルドに手紙を渡した奴は!と少し嫉妬交じりの問いかけに、侍従はライナスの剣幕に恐れおののきながらも昨日届いたばかりのハロルド宛の手紙だと答えた。

「差出人を確認したのか?」
「あぁ・・・リードからだった」
「リードって、あの、リード様ですの? ?」

カーティスの問いに答えたライナスの言葉に、わなわなと震えだしたのはアンジェリカだ。

ギラと見開かれ、視線だけで黙らせるという父そっくりな目元は、既に視線だけで人を射殺せそうである。

「間違いなく、あの、リードだ」
「な、んで!何でですの!リード様からハロルドお兄様への手紙は先に私とライナス兄様で検閲し、不適切な内容が書かれていた場合はそのまま返送するのがルールでしたのに!」
「もうサヴォイ家となんの関わりもない者への手紙など検閲する必要はない。と父から言われたそうだ」
「お父様ぁぁぁああああ!」

今にも父を絞め殺しに行きそうなアンジェリカをどうにか抑えつつ、カーティスは二人の行き過ぎるハロルドへの重い家族愛に少し引いた。

リードとは、隣国であるティヴラン皇国の姫であった母の従弟の長兄だ。

隣国とはいえ、サヴォイ公爵家とは親戚筋でもあり、ライナスと同い年という事でアカデミーの高等学部へ留学生として学生寮を利用して通い、卒業後はティヴラン皇国へ帰ったのを覚えている。

アカデミー在学中にハロルドとも交流をしていたのはライナスと、ハロルド本人からも聞いていた。

まさか、手紙でのやりとりがライナスではなくハロルドと続いていたとは思いもしなかったが。

というより、不適切な内容ってなんだ?とカーティスは疑問に思う。

留学期間中、学生寮住まいとは言え、長期休暇になれば皇国への一時帰国や、我が家にも来訪してはいたが、二人が心配するような人物には見受けられなかったが。とカーティスが言えば

あれは羊の皮を被った狼ですのよ!とアンジェリカが声を荒げた。

多少、スキンシップが多い気はしたが、ティヴラン皇国はそういう国だと聞いたことがあるし、実際ティヴラン皇国からの大使は男女関係なくハグとチークキスが挨拶だったから、気にもしていなかったと言うカーティスに「これだからお義姉様以外は目に入らない人は・・・」とアンジェリカは大きなため息を吐いた。

なんでもハロルドに対するスキンシップはそういうサラりとしたものでなく、こう、ねっとり、じっとりしたものだったとアンジェリカは力強く説明する。

ライナスもそれに苦笑いで肯定し、何と言っても婚約中はオリヴィエ嬢が警戒していたと話した。

が、当のハロルド本人はそんなわけがないと兄妹や婚約者の忠告を真面目に受け取らず、リードを兄のように慕っていた。

強く言うようなものなら、リードを侮辱している!と逆に窘められてもいたから、アンジェリカはハロルドに隠れてリードからのアプローチをそれとなく邪魔していたのであった。

ライナスはリードの想いを本人から相談されており「ハロルドを泣かせたくはない。今が幸せなのならば、婚約者から奪い取るつもりは全くない。だがハロルドを目の前にした自分が暴走しないとは限らないから・・・」と言われてアカデミー在学中はなんとか監視してリードの手綱を握っていたのだが・・・。

手紙の内容も長期休暇を利用してティヴラン皇国へ来てみないか。とか、告白紛いな文などが一文字でも書かれていれば、アンジェリカはハロルドへ渡すことなく、ハロルドは今忙しいから代筆しました。と嘘八百を並べて送り返したりしていた。

何度かリードからの手紙がハロルドに見つかり、全て阻止する事が出来なかったのはアンジェリカ痛恨のミスだったが、プンプンと怒るハロルドが愛おしくて「尊い・・・」と涙し、その涙に勘違いしたハロルドが慌ててアンジェリカを慰めるという事象が数度あったりもした。

それもハロルドがマリアンナくそビッチに傾倒し始める前までだったが・・・
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