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第二章 成功と失敗のアクセサリー作り
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瞬君が声をかけて来たのは、そろそろ帰ろうかと思っているときだった。
「なあ、美琴の作ったデザイン画。コピーさせてもらってもいいか?」
「うん、大丈夫だよ。帰りにコンビニ寄ってコピーしよっか」
「助かる」
私たちは並んで伯父さんのお店をあとにする。
今日は新月らしく、夜空に月はなく真っ暗な空に星だけがちりばめられていた。
瞬君も、私につられて星空を見上げてポツリと呟いた。
「星、すげえな」
「ホントに。とっても綺麗」
いつも見ているはずの星空が、月が見えないだけでこんなにも綺麗なんて。
……ううん、もしかしたら。
私は隣を歩く瞬君を見る。
「ん? どうした?」
「な、なんでもない」
慌てて目をそらすけれど、心臓がドキドキと、うるさい。
「変なやつ。あ、コンビニ寄るぞ」
「待ってよ」
一人でコンビニに入っていく瞬君の背中を追いかける。
「いらっしゃいませー」
エアコンの効いた店内に入ると、すぐ左のところにあるプリンターの前に立つ瞬君の姿が見えた。
鞄の中から取りだしたデザイン画のノートを取り出して手渡すと、瞬君はそれをコピーする。普段コピー機なんて使わないから、思わずマジマジと見ちゃって笑われてしまった。
「よし、終わった」
「じゃ、帰ろうか」
「あ、待てよ。こっちこっち」
そう言って瞬君はどこかに向かって歩いて行く。手招きをされてそちらに向かうと、アイスクリーム売り場だった。
「どれがいい?」
「え?」
「奢ってやるよ」
「いいの?」
「いいって言ってるだろ。さっさと選ばないと気が変わるぞ」
「あ、待って待って! じゃあ、これ!」
私はレモンと蜂蜜をあわせた袋入りのアイスを選んだ。瞬君は私が選んだそれと、バニラにチョコがコーティングされたアイスを手にレジへと向かう。
なんとなく手持ちぶさたで、お店の外で瞬君が来るのを待つ。
外はじっとりと暑くて、やっぱりコンビニの中で待ってればよかったな、と思っていると誰かが私に声をかけた。
「ね、何やってんの?」
「え?」
「こんな時間に女の子が一人でいたら危ないよ? 俺、送ってやろうか?」
「だ、大丈夫です」
「えー? 俺、心配してあげてるんだよ? ほら、行こう?」
その人はそう言うと、私の腕を強引に掴む。
振りほどこうとするけれど、がっちりと掴まれた腕はどれだけ力を込めても振りほどけない。
あまりの恐怖に、ギュッと目をつぶって、私は叫び声を上げた。
「やめてくださいっ!」
「美琴!」
必死に叫ぶ私の身体を、後ろから誰かが引っ張った。
「やめろよ」
「なんだよお前」
聞き覚えのあるその声に、そっと目を開けると、そこには瞬君の姿があった。
「お前、何してんの? こいつに何か用?」
「なんだよ、俺は一人で危ないから送っていってやるって言っただけだよ」
「そう? でも、こいつは俺が家まで送るから安心して」
「けっ、そうかよ」
吐き捨てるように言うと、その人はコンビニを通り過ぎどこかへと歩いて行った。
「こっ、怖かったぁ」
「大丈夫か?」
「うん、助けてくれてありがとう」
「別に。と、いうかなんで勝手に外に出てるんだよ。さっきのは俺らとそう年が変わらなかったからよかったけど、もっと大人だったり、それこそ危ない奴らだったりしたらどうするつもりだったんだよ」
「ご、ごめんなさい」
謝る私に、瞬君はため息をつくとしゃがみ込んだ。
「ほんっとうに……寿命が縮むかと思った。頼むから心配させんなよ」
「ごめん……」
瞬君の言葉から、本当に心配してくれたんだと伝わって来て、私は素直に謝った。
「まあ、無事だったからもういいや。帰ろうぜ」
「うん」
歩き出した瞬君は、思い出したようにコンビニの袋からアイスを取り出して私に差し出した。
「これ」
「ありがとう」
無言でアイスを食べる瞬君に、私はずっと気になっていたことを聞いてみた。
「ねえ、どうして年をごまかしてまでバイトをしてるの?」
「……俺んち、親が離婚してるって聞いただろ。俺はお袋に生活能力がないからって親父に引き取られたんだ。でも、あの人身体弱いし一人でなんて生活できそうにないからずっと気になってて。それで生活能力がないなら、俺が稼げるようになればいいんだって思った。それで手に職をつけられればって思ったときに思い浮かんだのがアクセサリー職人になることだったんだ。夢だなんだって言っといて金を稼ぐ道具にするのかよって、な」
「そうだったんだ」
「あんときは悪かったよ。脅すような真似して。それから、黙っててくれてありがとな」
私はなんて言っていいかわからなくて首を振ることしかできなかった。
二人並んで歩いた帰り道。
食べたレモンのアイスは、甘酸っぱくて、それでいて少しだけほろ苦く感じた。
「なあ、美琴の作ったデザイン画。コピーさせてもらってもいいか?」
「うん、大丈夫だよ。帰りにコンビニ寄ってコピーしよっか」
「助かる」
私たちは並んで伯父さんのお店をあとにする。
今日は新月らしく、夜空に月はなく真っ暗な空に星だけがちりばめられていた。
瞬君も、私につられて星空を見上げてポツリと呟いた。
「星、すげえな」
「ホントに。とっても綺麗」
いつも見ているはずの星空が、月が見えないだけでこんなにも綺麗なんて。
……ううん、もしかしたら。
私は隣を歩く瞬君を見る。
「ん? どうした?」
「な、なんでもない」
慌てて目をそらすけれど、心臓がドキドキと、うるさい。
「変なやつ。あ、コンビニ寄るぞ」
「待ってよ」
一人でコンビニに入っていく瞬君の背中を追いかける。
「いらっしゃいませー」
エアコンの効いた店内に入ると、すぐ左のところにあるプリンターの前に立つ瞬君の姿が見えた。
鞄の中から取りだしたデザイン画のノートを取り出して手渡すと、瞬君はそれをコピーする。普段コピー機なんて使わないから、思わずマジマジと見ちゃって笑われてしまった。
「よし、終わった」
「じゃ、帰ろうか」
「あ、待てよ。こっちこっち」
そう言って瞬君はどこかに向かって歩いて行く。手招きをされてそちらに向かうと、アイスクリーム売り場だった。
「どれがいい?」
「え?」
「奢ってやるよ」
「いいの?」
「いいって言ってるだろ。さっさと選ばないと気が変わるぞ」
「あ、待って待って! じゃあ、これ!」
私はレモンと蜂蜜をあわせた袋入りのアイスを選んだ。瞬君は私が選んだそれと、バニラにチョコがコーティングされたアイスを手にレジへと向かう。
なんとなく手持ちぶさたで、お店の外で瞬君が来るのを待つ。
外はじっとりと暑くて、やっぱりコンビニの中で待ってればよかったな、と思っていると誰かが私に声をかけた。
「ね、何やってんの?」
「え?」
「こんな時間に女の子が一人でいたら危ないよ? 俺、送ってやろうか?」
「だ、大丈夫です」
「えー? 俺、心配してあげてるんだよ? ほら、行こう?」
その人はそう言うと、私の腕を強引に掴む。
振りほどこうとするけれど、がっちりと掴まれた腕はどれだけ力を込めても振りほどけない。
あまりの恐怖に、ギュッと目をつぶって、私は叫び声を上げた。
「やめてくださいっ!」
「美琴!」
必死に叫ぶ私の身体を、後ろから誰かが引っ張った。
「やめろよ」
「なんだよお前」
聞き覚えのあるその声に、そっと目を開けると、そこには瞬君の姿があった。
「お前、何してんの? こいつに何か用?」
「なんだよ、俺は一人で危ないから送っていってやるって言っただけだよ」
「そう? でも、こいつは俺が家まで送るから安心して」
「けっ、そうかよ」
吐き捨てるように言うと、その人はコンビニを通り過ぎどこかへと歩いて行った。
「こっ、怖かったぁ」
「大丈夫か?」
「うん、助けてくれてありがとう」
「別に。と、いうかなんで勝手に外に出てるんだよ。さっきのは俺らとそう年が変わらなかったからよかったけど、もっと大人だったり、それこそ危ない奴らだったりしたらどうするつもりだったんだよ」
「ご、ごめんなさい」
謝る私に、瞬君はため息をつくとしゃがみ込んだ。
「ほんっとうに……寿命が縮むかと思った。頼むから心配させんなよ」
「ごめん……」
瞬君の言葉から、本当に心配してくれたんだと伝わって来て、私は素直に謝った。
「まあ、無事だったからもういいや。帰ろうぜ」
「うん」
歩き出した瞬君は、思い出したようにコンビニの袋からアイスを取り出して私に差し出した。
「これ」
「ありがとう」
無言でアイスを食べる瞬君に、私はずっと気になっていたことを聞いてみた。
「ねえ、どうして年をごまかしてまでバイトをしてるの?」
「……俺んち、親が離婚してるって聞いただろ。俺はお袋に生活能力がないからって親父に引き取られたんだ。でも、あの人身体弱いし一人でなんて生活できそうにないからずっと気になってて。それで生活能力がないなら、俺が稼げるようになればいいんだって思った。それで手に職をつけられればって思ったときに思い浮かんだのがアクセサリー職人になることだったんだ。夢だなんだって言っといて金を稼ぐ道具にするのかよって、な」
「そうだったんだ」
「あんときは悪かったよ。脅すような真似して。それから、黙っててくれてありがとな」
私はなんて言っていいかわからなくて首を振ることしかできなかった。
二人並んで歩いた帰り道。
食べたレモンのアイスは、甘酸っぱくて、それでいて少しだけほろ苦く感じた。
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