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第四章

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 ――そのあとは騒ぎも揉め事も起きることなく、大盛況の中秋祭りは無事終わりを迎えた。

 レインボウ前を手早く片付けると香澄は青崎とともに、用意しておいたジュースを入れたクーラーボックスを手にお化け屋敷へと向かう。商店街のあちらこちらで片付けが始まっている。みんなどこか興奮冷めやらぬ中にいるのか、疲れているはずだというのに商店街には楽しげな空気が漂っている。

 お化け屋敷の大学生組も同様のようで、撤去作業をしながらも先程までと変わらないぐらいの賑やかさだった。

「お疲れさまー」
「お疲れさまです。あ、それなんです?」

 入り口で看板を片付けていた早瀬は、青崎の持つクーラーボックスを目敏く見つけると駆け寄ってきた。

「ジュースだよ」
「もらってええんです? ありがとうございますー。みんな、香澄さんからの差し入れやって」

 店舗の内外から「ありがとうございますー」という元気のいい声が聞こえてきて、香澄は笑みを浮かべた。

「片付け順調? 私も手伝うよ」
「大丈夫ですよ。もうほとんど終わったし。こういうんは終わる前からちょっとずつ片付けといて、時間が来たらでっかいもん片付けるだけっていうんが俺らのセオリーですから」

 そう言われてもう一度見ると、たしかに早瀬の言うとおり大きなものは残っているけれど、辺りに付けられていた飾りや置かれていた小物などはすでに撤去済みだった。

 これなら香澄の手伝いはいらないな、そう思っているところに誰かが近づいてくるのを感じた。

「お疲れ」
「あ……お疲れ、さまです」

 そこにいたのは辻だった。先程助けてもらったこともあり、前のような苦手意識は若干薄らいだ気がするけれど、それでも恰幅のいい辻に隣に立たれると威圧感が凄い。

 ムスッと黙ったままの辻をどうすればいいかわからない。青崎に助けを求めようにも、クーラーボックスを持っているため大学生たちに囲まれていてこちらが見えるはずもなかった。

 何か言わなければと思えば思うほど口からは何もついて出ず、固まったまま立ち尽くしてしまう。そうしているうちに、辻がわざとらしく咳払いをして香澄の肩が震えた。理由はない。けれど怒られる、と思い反射的に肩をすくめる香澄に、辻は頭を下げた。

「すまんかった」
「え?」

 その言葉の意味が一瞬、香澄には理解できなかった。すまなかった? 今、辻は香澄に謝ったのだろうか。それも頭を下げて。なぜ?

 グルグルと疑問が頭を過る香澄を余所に、辻は頭を上げると口を開いた。

「あんとき、頭ごなしに否定してすまんかった。こうやって秋祭りが成功に終わったんは、あんたたちのおかげやって思っとる」
「辻さん……そ、そんなこと……」
「この商店街にこないに人がおったんは何十年ぶりやろか。ほんまに感謝しとる。……それから、助けを求めて来たときに、なんもしてやれんですまんかったな」

 助けを求めて来たとき――。それが黒田の一件で商工会議所に電話をかけたときのことを言っているのはすぐにわかった。あのとき、事務員が対応してくれてはいるけれど、話は辻の元まできちんと上がっていたらしい。

 香澄はぎゅっと手のひらを握りしめると、首を振った。

「いえ……」
「なんぞ助けられることがあるならいつでも言うてくれ。今度こそ、ちゃんと力になるさかいに」
「ありがとう、ござい、ます」

 辻の言葉に香澄は曖昧な笑みを浮かべることしかできなかった。

 もう全ては遅いのだ。黒田との約束の日は今日だ。

 このあと、猫神社に香澄は向かう。そこで全てが決まる。早瀬たちの元へと辻が向かうのを見送りながら、香澄は背中を嫌な汗が伝うのを感じた。
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