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第四章

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「あれって解体したんやっけ?」
「いや、うちの学科毎年あれ使ってる言うてたからどっか置いてるんちゃうかな。あれ使って俺らでお化け屋敷やるっていうんはどうや? めっちゃ楽しない?」

 テンポよく話を進めていく男子たちに香澄はついて行けずにいる。せっかくアイデアを出してくれているのだから何かまとめなければと思うけれど、いつの間にか早瀬が鞄からノートを取り出しメモを取っていってくれている。

「あ、あの」
「大丈夫ですよ、あいつらああいうの好きなんで」
「でも、元はといえば猫神社に持ちかけられたお願いだし」
「んー、じゃあ例えばですけどあれが実際に企画になったときに、あいつらに何かリターンは出ますか?」
「リターン?」

 たしかに、お化け屋敷の入場料なんかは発生するとしてもそれ以外で彼らには何も得はない。

「例えば……どこかのお店の料理が食べ放題になるとか」
「あ、俺カレーがええ! ほら、そこにカレー屋あるやろ? あそこ前に一回行ったらめっちゃ美味かってんな」
「カレーって、雲井さんのところ? 相談してみないとわからないけど、もしかしたら……」
「ほんまです? したらみんなでやろうぜ」
「ちょ、ちょっと待って。とりあえず一度雲井さん呼んでくるね」

 香澄は慌てて店の外に出た。ドアにかけてあった札を『クローズ』へと替えると、雲井の店へと急いだ。

「あ、あの」
「香澄ちゃん? どないしたん?」

 ドアを開けると中には客の姿はなく、カウンター席に座りため息を吐いている雲井の姿があった。

 香澄は「ちょっと来て欲しいんです」と伝え、雲井をレインボウへと連れて行く。道すがら、先程青崎たちから言われた話を伝えた。

「ほんまに? え、せやけどなんでそないなこと」
「とりあえずみんなから話、聞いてみてもらってもいいですか?」
「そ、それはかまへんけど」

 レインボウに連れて行くと、店内でああでもないこうでもないと話す青崎や早瀬、その友人たちの姿に雲井は声を失っていた。

「なんや、この光景は……」
「あ、カレー屋のおっちゃんや!」
「え? お、おお」
「ちょっとこれ見てくれません?」

 早瀬が差し出した先程まで出たアイデアが書かれたノートに、今度こそ雲井は目を丸くして口元を押さえた。

「こんなに考えてくれたんか?」
「まあでも実現できそうなんと無理なんがあると思いますけどね。とりあえず俺らお化け屋敷やりたいんですけどどうです?」
「シャッター店舗を利用したお化け屋敷、か」

 雲井は少し考える素振りを見せたあと「面白いやん」と呟いた。

「せやな、別に商店街のお祭りやからって商店街の人間しか出店したらあかんわけやないからな。大学生が出店してくれて、友達とか呼んでくれたら盛り上がるやろし」
「そんなサクラみたいなことせえへんで。普通にちゃんとお化け屋敷やっていろんな人に来てもらう方が絶対ええわ」
「でも、大学にチラシ貼らせてもらうのはありじゃないか? 先生に頼んでさ」
「ええやん、それ。めっちゃええ!」

 追加でアイデアを出していく大学生たちを雲井は眩しそうに目を細めて見つめていた。

「俺はな、こんなふうに商店街も笑顔で溢れる場所に戻したいねん。名前のとおり、たくさんの人の笑顔がいっぱいの商店街に」
「きっと戻りますよ」
「せやとええなあ」

 資材の使用許可など確認しなければならないことはあるらしいけれど、ある程度の道筋はできた。あとは。

「これを持って商工会議所の会合に行かんなんな」
「会合……」

 弥生が生きていた頃は弥生が会合に参加をしていた。香澄が参加することがあったとしても基本的には弥生と一緒だった。だからだろうか。一人で参加しなければならないことが不安だ。

 そんな香澄に雲井は微笑む。

「俺もついとるし、なんも怖いとこやない。どっちにしても弥生さんが亡くなったからな。そろそろ香澄ちゃんに会合に出てもらわなって思ってたんや。レインボウを継いだんやしな」
「そう、ですよね」

 香澄もこのまま会合に参加しなくていいと思っていたわけではない。本当ならきちんと参加して、生前弥生が世話になったことの礼を言い、これからは自分が継ぐのでよろしくお願いしますと伝えなければいけないことはわかっていた。

 ただ黒田の一件のせいでレインボウがどうなるかわからなかった。遺言状はあると信じている。けれどそれを本当に期日までに見つけられるのか不安が付き纏っていた。

 ただ三ヶ月に一度の会合は今週の土曜だ。いつまでも逃げているわけにはいかない。きっと大丈夫。全てが上手くいく。

 香澄は不安を隠すように手のひらをぎゅっと握りしめた。
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