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第四章
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「これを、くれるんか?」
雲井の問いかけにテンテンは「なあぁ」と鳴いた。未だに戸惑いはあるようだったけれど「ありがとうな」とテンテンの頭を撫でると栞をポケットに入れた。
翌日、香澄は雲井が置いて行った『ほほえみ秋祭り』の用紙を見ながらため息を吐いた。何の因果か、祭りの日は十一月二十日。まさに黒田との約束の日だった。
つまり、この雲井の願いを叶えることができなければ、弥生から遺言状のありかを聞くことができず、祭りは失敗。家もレインボウも取り上げられてしまう。
けれども、反対に祭りを上手くいくよう導くことができれば、テンテンの力も戻り、弥生から遺言状の隠し場所を聞くことができるのだ。つまりこの店と香澄の住まいがどうなるかは、秋祭りしだいということになる。
「はぁ」
香澄は何度目かのため息を吐いた。そんな香澄に気づいたのか友人たちとレインボウを訪れていた青崎がカウンター席へとやってくる。
「何かあったんですか?」
「え?」
「や、その。心配事があるような、そんな顔をしてたから気になって」
客である青崎にわかってしまうほど露骨に表情へと出ていたのだろうか。慌てて顔を引き締めるけれど、そんな香澄を見て青崎は笑う。
「今さらそんな顔しても意味ないですよ。何かあったんですか? もしかして猫神社関係?」
「どうして」
わかったの、と尋ねようとした香澄に青崎はふっと優しく微笑んだ。
「わかりますよ」
いつもの青崎と同じはずなのに、あまりにも優しく微笑まれ、香澄はなぜか戸惑いを隠せない。いつの間に青崎はこんなふうに自分のことを見るようになっていたのだろう。
「香澄さん?」
「え、あ、えっと」
なんとなく落ち着かない気持ちを必死に堪え、香澄は先程まで見ていた秋祭りの用紙を青崎に差し出した。青崎はざっと読むと「ああ」と呟く。
「夏祭りを秋にやるっていうあれですね。田神さんが「うちは今年は不参加だ」って言ってました」
「そうなの。今のところ屋台は二店舗しかでないらしいの」
「二店舗……」
青崎も驚きを隠せないようでもう一度「二店舗……」と呟いていた。
「や、それ無理ですよね」
「成功させなきゃいけないの」
「え、でも二店舗って。……まさかと思いますが、それが今回の猫神社へのお願い、ですか?」
頷く香澄に「マジかよ」と青崎は天を仰ぐ。その口調に笑ってしまう。
「なんですか?」
「え、なんか青崎君がそんなふうに言ってるの珍しくて」
「そう、です? 普段はこんな感じですよ」
恥ずかしそうに言うと青崎は頭を掻いた。いつもはどこか大人っぽい落ち着いた印象の青崎の子どもっぽい一面を可愛く思う。
けれど思わず笑ってしまった香澄を、青崎は不服そうに見た。
「今笑いました?」
「え、うん。ごめんね」
「いいですけど。あーあ、香澄さんの前では大人っぽくいたかったのに」
「……なんで?」
「なんでって……」
香澄の問いかけに、青崎は一瞬目を逸らし、それから「なんででしょうね」と口をもごつかせながら言った。
理由側からないまま、けれどそれ以上は何も言いそうのない青崎に首をかしげていると、青崎の肩を抱くようにして早瀬が現れた。
「青崎ー。何、香澄さんとイチャイチャしてんねん」
「なっ、してねえよ!」
「ほんまかー?」
「うるさいな。もう離せよ」
早瀬の腕をわざとらしく振り払うと、青崎は秋祭りの用紙を早瀬の顔に押しつけた。
「な、なんやねん」
「これを盛り上げる方法を考えろよ」
「は? なんでや」
「香澄さんが困ってるから。今、これに出店予定の出店が二店舗しかないんだって。どうしたらいいと思う?」
「そうなんです? 二店舗?」
香澄が頷くのを見ると、早瀬は少し考えたように用紙を見つめ、それから「おーい」と一緒に来ていた友人たちに声をかけた。
「あんな、こういうんがあるんやって」
「へえ、面白そうじゃん」
「せやろ? でも今のところ出店が二個しか出えへんらしいねん」
「いや、それは無理ちゃう?」
「まあ、無理言わんとさ。盛り上がる方法考えてくれへん?」
早瀬の言葉に各々がアイデアを次々と出していく。
「んー、出店出せない代わりに店先で売ってくれるとことかあったらいいのにな」
「青崎のバイト先、何かできねえの?」
「あ、そうや。お化け屋敷は?」
「お化け屋敷? この季節にか?」
お化け屋敷、と言い出したのはソファーに座ったままこちらを見ていた男子だった。
「そ。うちの地元にもシャッター商店街があるんやけどな、この夏帰ったときにそこのシャッター下りてる店舗を利用してお化け屋敷やっとってん。子どももやけど大人とかあとカップルにも大人気やったで」
「お化け屋敷かー。そういや、大学祭でやったな」
雲井の問いかけにテンテンは「なあぁ」と鳴いた。未だに戸惑いはあるようだったけれど「ありがとうな」とテンテンの頭を撫でると栞をポケットに入れた。
翌日、香澄は雲井が置いて行った『ほほえみ秋祭り』の用紙を見ながらため息を吐いた。何の因果か、祭りの日は十一月二十日。まさに黒田との約束の日だった。
つまり、この雲井の願いを叶えることができなければ、弥生から遺言状のありかを聞くことができず、祭りは失敗。家もレインボウも取り上げられてしまう。
けれども、反対に祭りを上手くいくよう導くことができれば、テンテンの力も戻り、弥生から遺言状の隠し場所を聞くことができるのだ。つまりこの店と香澄の住まいがどうなるかは、秋祭りしだいということになる。
「はぁ」
香澄は何度目かのため息を吐いた。そんな香澄に気づいたのか友人たちとレインボウを訪れていた青崎がカウンター席へとやってくる。
「何かあったんですか?」
「え?」
「や、その。心配事があるような、そんな顔をしてたから気になって」
客である青崎にわかってしまうほど露骨に表情へと出ていたのだろうか。慌てて顔を引き締めるけれど、そんな香澄を見て青崎は笑う。
「今さらそんな顔しても意味ないですよ。何かあったんですか? もしかして猫神社関係?」
「どうして」
わかったの、と尋ねようとした香澄に青崎はふっと優しく微笑んだ。
「わかりますよ」
いつもの青崎と同じはずなのに、あまりにも優しく微笑まれ、香澄はなぜか戸惑いを隠せない。いつの間に青崎はこんなふうに自分のことを見るようになっていたのだろう。
「香澄さん?」
「え、あ、えっと」
なんとなく落ち着かない気持ちを必死に堪え、香澄は先程まで見ていた秋祭りの用紙を青崎に差し出した。青崎はざっと読むと「ああ」と呟く。
「夏祭りを秋にやるっていうあれですね。田神さんが「うちは今年は不参加だ」って言ってました」
「そうなの。今のところ屋台は二店舗しかでないらしいの」
「二店舗……」
青崎も驚きを隠せないようでもう一度「二店舗……」と呟いていた。
「や、それ無理ですよね」
「成功させなきゃいけないの」
「え、でも二店舗って。……まさかと思いますが、それが今回の猫神社へのお願い、ですか?」
頷く香澄に「マジかよ」と青崎は天を仰ぐ。その口調に笑ってしまう。
「なんですか?」
「え、なんか青崎君がそんなふうに言ってるの珍しくて」
「そう、です? 普段はこんな感じですよ」
恥ずかしそうに言うと青崎は頭を掻いた。いつもはどこか大人っぽい落ち着いた印象の青崎の子どもっぽい一面を可愛く思う。
けれど思わず笑ってしまった香澄を、青崎は不服そうに見た。
「今笑いました?」
「え、うん。ごめんね」
「いいですけど。あーあ、香澄さんの前では大人っぽくいたかったのに」
「……なんで?」
「なんでって……」
香澄の問いかけに、青崎は一瞬目を逸らし、それから「なんででしょうね」と口をもごつかせながら言った。
理由側からないまま、けれどそれ以上は何も言いそうのない青崎に首をかしげていると、青崎の肩を抱くようにして早瀬が現れた。
「青崎ー。何、香澄さんとイチャイチャしてんねん」
「なっ、してねえよ!」
「ほんまかー?」
「うるさいな。もう離せよ」
早瀬の腕をわざとらしく振り払うと、青崎は秋祭りの用紙を早瀬の顔に押しつけた。
「な、なんやねん」
「これを盛り上げる方法を考えろよ」
「は? なんでや」
「香澄さんが困ってるから。今、これに出店予定の出店が二店舗しかないんだって。どうしたらいいと思う?」
「そうなんです? 二店舗?」
香澄が頷くのを見ると、早瀬は少し考えたように用紙を見つめ、それから「おーい」と一緒に来ていた友人たちに声をかけた。
「あんな、こういうんがあるんやって」
「へえ、面白そうじゃん」
「せやろ? でも今のところ出店が二個しか出えへんらしいねん」
「いや、それは無理ちゃう?」
「まあ、無理言わんとさ。盛り上がる方法考えてくれへん?」
早瀬の言葉に各々がアイデアを次々と出していく。
「んー、出店出せない代わりに店先で売ってくれるとことかあったらいいのにな」
「青崎のバイト先、何かできねえの?」
「あ、そうや。お化け屋敷は?」
「お化け屋敷? この季節にか?」
お化け屋敷、と言い出したのはソファーに座ったままこちらを見ていた男子だった。
「そ。うちの地元にもシャッター商店街があるんやけどな、この夏帰ったときにそこのシャッター下りてる店舗を利用してお化け屋敷やっとってん。子どももやけど大人とかあとカップルにも大人気やったで」
「お化け屋敷かー。そういや、大学祭でやったな」
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