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第二章

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 ※※※

 夢を見た。不思議な夢を。真っ白な空間に、奈津は一人佇んでいた。
 どこだろう、ここは。そう思いながら歩こうとするのだけれど、なぜか足が動かない。
 どうすれば、と思っていると、どこからか声が聞こえた。

「奈津」

 そう呼ばれたことはないはずなのに、その声の主が誰なのか、すぐにわかった。

「ハルちゃん?」
「そうだよ、奈津」

 声の主は、奈津のすぐそばにいた。足が動かない奈津はしゃがみ込んでハルと視線を合わせた。ハルに触れようと手を伸ばしてみるけれど、どうしても届かない。

「ハル、会いたかった」
「僕も会いたかったよ、奈津」
「でも、どうして? これは夢、だよね」
「そう、夢。猫宮司が力を貸してくれたんだ。僕が奈津にさよならを言うために」

 ハルはそう言うとその場にちょこんと座った。前足を胸の方へと折り曲げる香箱座りだ。ああ、そうだ。部屋でもよくああやって座っていた。
 ハルの居場所はいつだって、奈津の座るソファーの横に置いたクッションだった。膝の上においでよと言っても、いつだってクッションの上にハルはいた。

「ねえ、ハル。こっちに来て」

 けれど夢の中でまでそうやっていなくてもいいじゃないか。そう思って奈津はハルを呼ぶけれど、ハルは目を伏せると悲しそうに首を振った。

「それはできないんだ。……奈津、一人にして、ごめんね」
「謝らないで! 私……!」

 何か伝えようとするけれど上手く言葉にならない。ハルに謝ってなんか欲しくない。

「私の前からいなくなったのは、私を悲しませないため、だよね」
「……バレてたんだ」
「わかるよ。……ずっと一緒にいたんだもん。当たり前でしょ」
「そっか。……ごめんね。僕は奈津の泣き顔を、見たくなかったんだ。泣かせたくなかった。なのに結局、こんなにも悲しませてる」
「違う! そんなことないよ! ハルが私を悲しませるなんて、そんなことありえない!」
「奈津……」

 ハルは奈津の名前を呼ぶと、顔を上げた。一歩、また一歩と奈津に近寄ると、その頬をざらついた舌で優しく舐めた。

「ねえ、奈津。忘れないで。僕は奈津のそばからいなくなるけれど、でもずっと奈津のことを想ってる。ずっとずっと大好きだよ」
「ハル! ねえ、ハル!」

 薄らと透け始めたハルの姿に奈津は必死に声を上げる。そんな奈津にハルは目を細め、柔らかい笑みを浮かべた。

「奈津。僕は、あなたの飼い猫で幸せだった。あなたの家族になれて、嬉しかった。ありがとう」
「私も、私もハルの家族になれて嬉しかった。今までありがとう。ずっと、ずっと大好きだよ。私は、ハルのことが大好きだよ!」

 奈津の言葉にハルは「にゃぁ」と一鳴きすると――静かに姿を消した。


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