ホントのキモチ!

望月くらげ

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第二章

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 ゲームセンターからの帰り道、私たちは二人並んで歩道を歩いていた。いつの間にか秋が深まっていて、街路樹が赤や黄色に染まっている。
 今は過ごしやすい気候だけれど、そのうち肌寒くなって冬が来る。冬が来れば樹くんと蒼くんの誕生日だ。
 本当ならあんな勢いじゃなくて、おめでとうを言ってそれから告白するつもりだった。
 でも、今の私じゃ……。
「あっ」
「は?」
 ボーッとしていた私は、足下にあった溝のくぼみに足を取られて転んでしまう。
「いった……」
 思いっきり転んだ私はアスファルトに膝を打ち付けた。みるみるうちに血が滲み始めた。
「何やってんだよ」
 蒼くんの怒鳴るような声にビクッとなる。そんなに怒らなくてもいいじゃない。
「こっちこい」
「わっ」
 腕を引っ張られ起き上がらされると、すぐ近くにあった古びた公園のベンチに座らされた。
「ここで待ってろ」
「あ……」
 雑草が生い茂るこんなところに置いて行かれてしまうなんて。
 涙が溢れそうになるのを必死で堪える。
 きっとこんなとき樹くんなら優しい言葉をかけてくれる。「大丈夫?」って聞いて、「痛かったね」ってよりそって、それで……。
 やっぱり私、樹くんが好きだ。蒼くんじゃない。樹くんのことが好きなんだ。
「ちゃんと、言わなきゃ」
 間違いだったんだって。それで……。
「おい」
「え?」
 声をかけられて顔を上げると、そこには息を切らせた蒼くんの姿があった。手には何か小さな箱を持っている。
「泣くほど痛いのか? 大丈夫か?」
「え、あ、あの」
「くそ。ってか、なんで水で洗ってねえんだよ。そこに水道があるから洗っとけって言っただろ」
 指さされた先には、たしかに水飲み場と手洗いが一緒になったタイプの水道があった。
 で、でも。
「そんなこと、言わなかったよ」
「は? ……俺、言ってなかった? マジか」
 はぁとため息を吐くと、蒼くんはその場にしゃがみ込んだ。おでこには薄らと汗をかいているのが見える。
 そして、手に持っているのは近くのコンビニのシールが貼られた絆創膏の箱だった。
 もしかして、これを買いに行くために走ってくれたの……?
「足、洗うぞ」
 しゃがんだまま上目遣いで私を見ると、蒼くんはそう言った。
 手を引かれ、水道へと向かう。
「あー……ハンカチとかあるか?」
「うん、これでいい?」
「さんきゅ」
 ふっと微笑むその笑顔に思わず見入ってしまう。そんな私を気にすることなく、蒼くんは受け取ったハンカチを水に濡らすと、私の足に当てた。
「いたっ」
「わりい。でも、ちゃんと洗っておかねえと雑菌入ったら困るから」
 水を含ませたハンカチでそっと優しく傷口を拭ってくれる。
「血は結構出てっけど、傷自体はたいしたことねえみたいだな」
 絆創膏を取りだし、私の足に貼ると蒼くんは立ち上がって手を差し出した。
「え?」
「……その足じゃ、歩くの辛いだろ。手、貸せよ」
「う、うん」
 さっきまでの引っ張られて歩くんじゃなくて、ゆっくりと手を繋ぎながら私たちは帰り道を歩く。
 会話なんて一つもないのに、どうしてか気まずくない。
 隣を歩く蒼くんの顔をこっそりと見上げる。樹くんと同じようで全然違う。
「なんだよ」
「え?」
「今俺のことみてただろ」
「み、見てないよ」
「嘘つけ。どうせお前も俺のこと、怖いとか思ってんだろ。……ま、別にいいけど」
 ポツリと呟いた『別にいいけど』が全然いいと思っているようには聞こえない。どこか寂しげに聞こえて思わず私は。
「怖くなんかないよ」
「は?」
「蒼くんのこと、怖くなんか、ない。さっきも絆創膏買ってきてくれて足も治療してくれた。……ありがと」
 ニッコリと笑った私に、蒼くんは一瞬驚いたような表情を見せた。でもすぐに顔を背けると、頭をかきむしった。
「あんた、変わってるな」
「そうかな?」
「そうだよ。……でも、そういうの嫌いじゃねえよ」
「え?」
 言われた言葉の意味が理解できず、思わず聞き返してしまう。でも。
「なんでもねえよ。つーかさ、絆創膏買ってくるぐらい当たり前だろ。……彼女なんだし」
「え、あ……」
「ほら、さっさと帰るぞ」
 そう言った蒼くんの耳がほんの少しだけ赤く見えたのは、夕日のせい、だけじゃないのかもしれない。
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