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第二章《抜剣・発火・夜光》
真実は紙に綴られる
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ミミクリー・スライムのシャッツ討伐から一日。
工房でエアリーの要望を聞きつつ白夜の魔剣の改良を進めていると、調査から帰還したストックさんが訪ねてくる。
「ストックさん、おかえりなさい」
「ただいまー。二人とも、調査結果を報告するから来なさい」
ストックさんは少し、疲れたような表情をしていた。
私とエアリー、シャーロットがシャッツの討伐をしている頃、ストックさんとアレクさんはシャッツが潜伏していたオークの巣へ調査に向かっていた。
調査結果は残酷なもので、オークの骨すら残っておらず、誰の死体もなかった。
捕食中、足掻こうとして土を引っ掻いた痕跡や溶かされる前に自害を試みた形跡があったと、アレクさんが言う。
シャーロットは、エイデンハイトの顔を二度と見れないのか……。
「フィア、気にするな」
「で、でも……」
「エイデンハイトがただ食われて終わるわけがない」
シャーロットの言葉に、ストックさんは麻の袋をテーブルに置く。
「そう、彼は優秀な冒険者だった。この袋は土の中に埋まっていたエイデンハイトの遺品だ。捕らわれても私達調査隊が発見してくれると信じ、手がかりを残してくれていた」
袋が開かれると、そこには一枚の手紙と――血の色をした赤い結晶。
そう、罪結晶だった。
「おや……これはどういうことでしょうか? これはフィアさんのシェダーハーツの欠片ではありませんか」
「……っ」
なんでオークの巣に結晶が……!?
くっ、ダメだ。喉がつっかえて声が出ない。
「ストック、そっち紙はなんだ」
「実はまだ読んでないのよ。アレク、読み上げて」
「了解です」
血が滲んだ紙を広げ、アレクさんが読み上げる。
『オレは冒険者エイデンハイト、いずれ勇者となるもの。
だが、しくじっちまった。
この手紙が見つかる頃にはあのスライムにオレは食われているだろう。
だからせめて、奴が大勢の人を殺さないように、出来る限りの情報を残す――――
シャッツは魔石の力で高い擬態能力を得ていた。
赤い血の結晶だ。オレが負けて巣に持ち帰られた時、一人の男が巣にこの結晶を投げ込んだ。
逆光で顔は見えなかったが、男だ。それは間違いない。
奴が「それを使って街に行け。もっと多くの人を食えるぞ」と、そう言って去った。
結晶は相当高濃度の魔力が秘められているようだ。
使い捨てられた結晶だが、何か手がかりになるかもしれないから一緒に残しておく。
結晶の力で完全模倣できるようになったなら、完全に人の体となったシャッツには斬撃が効くだろう。
問題はこの結晶と謎の男だ。真に危険な人物はあの男なんだ。
どうか、奴を止めてほしい。
これは野生の勘だが、奴を野放しにしていると何もかも無意味に終わってしまう気がするんだ』
アレクさんは読み終えた手紙を畳む。
――――私は素直に驚いていた。
こんなこと、一度だって起こったことはなかった。
彼は、エイデンハイトは呪いを突破した。
いや、正確には……元凶の姿を完全に見ていないから、呪いが上手く発動しなかったんだ。
「――ずっと思ってたのよ。事象を改竄できてしまうほどの力、周囲の罪を一人に着せるこの呪い……これだけの規模があるなら、どこかに隙間があるはずだって」
「つまり、呪いは不完全ということですか」
「えぇ。そもそも完全なら、私の魔眼も誤認したままで違和感を覚えなかったわ。それに今の騎士団を見れば分かるけど、よく考えればフィアが犯人じゃないって理解できるのよ」
すると、エアリーが首を傾げる。
「でもなんでだ? 魔剣を作ったのはフィアだ。その男はなんで罪結晶がどんな力を持ってるのか分かってる。呪いを知ってるってことは、そいつは自力で改竄能力を突破したのか?」
違う。それは――
「……あの、俺……凄く大切なことを忘れていたよ」
「なんだよ副隊長。勿体ぶってないで早く言えよ!」
「いや……魔剣って普通の剣と比べて作成が困難だろ? エアリーは白夜の魔剣を作ってるところ見てるからよく分かるはずだ。魔剣を作れる奴は数十人ぽっち。だから……さ、普通……技術を絶やさないために作り方、教えるだろ……? 俺はまだ魔剣持ってないし、詳しくはないが……」
アレクさんが何を言いたいのか、数秒の静寂の末に、その場の全員がハッと表情を変えた。
時を同じくして、部屋の扉が勢いよく開かれる。
部屋に入ってきた白衣姿の男は息を切らし、書類を掲げた。
「――――ざ、罪結晶の魔剣、調査結果出ました! こ、これを……!」
憶測が確信に変わっていく。
アレクさんは書類を受け取り、目を通すと手を震わせた。
「お、おい、どうなんだよ! 勿体ぶるなって!」
「さ……作剣した鍛冶師はフィア・マギアグリフ……だがっ! もうひとつ、フィアの魔力と違う性質の……別人の魔力が感知されている!」
それは、罪が剥がれていく瞬間。
濡れ衣が燃えカスになる瞬間だった。
「おや……おやおや、これはおかしいですね。魔剣鍛冶師が自分の身を守るために作る魔剣に、別人の魔力が混入しているなんて……まるで守られているようではありませんか」
「許せない。フィア、利用されてる」
「未だ特定は出来ていないが、罪結晶の主な魔力供給元はその別人の魔力! 罪を魔力変換する性質を考えるに、その者がこれまでの事件を――」
「…………ねぇ、アレク」
ストックさんは頭を抱え、声を低く、唸るように呟く。
声に怒りを滲ませて。
「弟子殺しの被害者――鍛冶師クラフト……クラフト・マギアグリフは、いま、どこに居るの」
工房でエアリーの要望を聞きつつ白夜の魔剣の改良を進めていると、調査から帰還したストックさんが訪ねてくる。
「ストックさん、おかえりなさい」
「ただいまー。二人とも、調査結果を報告するから来なさい」
ストックさんは少し、疲れたような表情をしていた。
私とエアリー、シャーロットがシャッツの討伐をしている頃、ストックさんとアレクさんはシャッツが潜伏していたオークの巣へ調査に向かっていた。
調査結果は残酷なもので、オークの骨すら残っておらず、誰の死体もなかった。
捕食中、足掻こうとして土を引っ掻いた痕跡や溶かされる前に自害を試みた形跡があったと、アレクさんが言う。
シャーロットは、エイデンハイトの顔を二度と見れないのか……。
「フィア、気にするな」
「で、でも……」
「エイデンハイトがただ食われて終わるわけがない」
シャーロットの言葉に、ストックさんは麻の袋をテーブルに置く。
「そう、彼は優秀な冒険者だった。この袋は土の中に埋まっていたエイデンハイトの遺品だ。捕らわれても私達調査隊が発見してくれると信じ、手がかりを残してくれていた」
袋が開かれると、そこには一枚の手紙と――血の色をした赤い結晶。
そう、罪結晶だった。
「おや……これはどういうことでしょうか? これはフィアさんのシェダーハーツの欠片ではありませんか」
「……っ」
なんでオークの巣に結晶が……!?
くっ、ダメだ。喉がつっかえて声が出ない。
「ストック、そっち紙はなんだ」
「実はまだ読んでないのよ。アレク、読み上げて」
「了解です」
血が滲んだ紙を広げ、アレクさんが読み上げる。
『オレは冒険者エイデンハイト、いずれ勇者となるもの。
だが、しくじっちまった。
この手紙が見つかる頃にはあのスライムにオレは食われているだろう。
だからせめて、奴が大勢の人を殺さないように、出来る限りの情報を残す――――
シャッツは魔石の力で高い擬態能力を得ていた。
赤い血の結晶だ。オレが負けて巣に持ち帰られた時、一人の男が巣にこの結晶を投げ込んだ。
逆光で顔は見えなかったが、男だ。それは間違いない。
奴が「それを使って街に行け。もっと多くの人を食えるぞ」と、そう言って去った。
結晶は相当高濃度の魔力が秘められているようだ。
使い捨てられた結晶だが、何か手がかりになるかもしれないから一緒に残しておく。
結晶の力で完全模倣できるようになったなら、完全に人の体となったシャッツには斬撃が効くだろう。
問題はこの結晶と謎の男だ。真に危険な人物はあの男なんだ。
どうか、奴を止めてほしい。
これは野生の勘だが、奴を野放しにしていると何もかも無意味に終わってしまう気がするんだ』
アレクさんは読み終えた手紙を畳む。
――――私は素直に驚いていた。
こんなこと、一度だって起こったことはなかった。
彼は、エイデンハイトは呪いを突破した。
いや、正確には……元凶の姿を完全に見ていないから、呪いが上手く発動しなかったんだ。
「――ずっと思ってたのよ。事象を改竄できてしまうほどの力、周囲の罪を一人に着せるこの呪い……これだけの規模があるなら、どこかに隙間があるはずだって」
「つまり、呪いは不完全ということですか」
「えぇ。そもそも完全なら、私の魔眼も誤認したままで違和感を覚えなかったわ。それに今の騎士団を見れば分かるけど、よく考えればフィアが犯人じゃないって理解できるのよ」
すると、エアリーが首を傾げる。
「でもなんでだ? 魔剣を作ったのはフィアだ。その男はなんで罪結晶がどんな力を持ってるのか分かってる。呪いを知ってるってことは、そいつは自力で改竄能力を突破したのか?」
違う。それは――
「……あの、俺……凄く大切なことを忘れていたよ」
「なんだよ副隊長。勿体ぶってないで早く言えよ!」
「いや……魔剣って普通の剣と比べて作成が困難だろ? エアリーは白夜の魔剣を作ってるところ見てるからよく分かるはずだ。魔剣を作れる奴は数十人ぽっち。だから……さ、普通……技術を絶やさないために作り方、教えるだろ……? 俺はまだ魔剣持ってないし、詳しくはないが……」
アレクさんが何を言いたいのか、数秒の静寂の末に、その場の全員がハッと表情を変えた。
時を同じくして、部屋の扉が勢いよく開かれる。
部屋に入ってきた白衣姿の男は息を切らし、書類を掲げた。
「――――ざ、罪結晶の魔剣、調査結果出ました! こ、これを……!」
憶測が確信に変わっていく。
アレクさんは書類を受け取り、目を通すと手を震わせた。
「お、おい、どうなんだよ! 勿体ぶるなって!」
「さ……作剣した鍛冶師はフィア・マギアグリフ……だがっ! もうひとつ、フィアの魔力と違う性質の……別人の魔力が感知されている!」
それは、罪が剥がれていく瞬間。
濡れ衣が燃えカスになる瞬間だった。
「おや……おやおや、これはおかしいですね。魔剣鍛冶師が自分の身を守るために作る魔剣に、別人の魔力が混入しているなんて……まるで守られているようではありませんか」
「許せない。フィア、利用されてる」
「未だ特定は出来ていないが、罪結晶の主な魔力供給元はその別人の魔力! 罪を魔力変換する性質を考えるに、その者がこれまでの事件を――」
「…………ねぇ、アレク」
ストックさんは頭を抱え、声を低く、唸るように呟く。
声に怒りを滲ませて。
「弟子殺しの被害者――鍛冶師クラフト……クラフト・マギアグリフは、いま、どこに居るの」
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