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我が子として育てた子供から溺愛される魔女は惚れさせてみせろと課題を出した 8

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お互いに飽きた。そう嘘を言って、課題は無かったことにした。それでも不仲というワケでは無かった。いや、それでも変化は現れた。
「それじゃ支度はしたのでいってきますね。」
「ええ。」
あれだけ毎日一緒にしていた食事は別々になった。どうしても研究やら解析やら忙しい時は別だったが。
「…………………………。」
会話もなくカチャカチャと響く食器の音が小さく虚しく響く。モクモクと黙って食べる蘭夏は
「……………………。」
こんなに味気なかったかしら。と機械的に済ませる。毎日3食食べる必要は無いのだし、どうしても空腹な時だけ最低限で済ませようと決めた。
食事を済ませて何かしようとしたが気力が起きない。まるであの頃みたいねと小さく笑う。
「…………。」
私の選択は、間違えていたのかしら。と思う。しかし
「ハッ……。何を考えて!」
そうよ。私はあの子の幸せを願ってああ言ったのよ。喜ぶべき事じゃない。人間でも子離れ、親離れって言葉があるんだから。これで良いのよ。それにその内にこの胸の痛みも虚しさも無くなるし慣れてくるわ。そう思い直す。
だが
「それ、までの……。我慢よ。」
どのくらい経てば。この胸の痛みも虚しさも無くなる?苦しみも、いつ無くなるのかしら。これではダメね。買い物行こうかしら。たまには気晴らしでもしようと思った私は行かなきゃ良かったと後悔する。

「え?随分と先生に似てるなと思ったら。あの人のとこにいた頃の先生の姿なのか。」
「そう。まあ私はあくまでも幻影だけれどね?作り出したあの人からしたら容易いものよ。あれ?ふふ。」
何かに気付いてニヤリと笑うと腕に胸を押し付けてきた。なんだ?と思ったら
「愛しのあの人見てるよ?ほらほら、楽しそうにしないと!」
チラリと視線をずらして見たのは、間違いなく先生だった。明らかにショックを受けて立ち尽くしている。
「これはチャンスだって!」
「かも、な。それであの人のとこにいた先生は何して過ごしてたの?」
「ホント、現実の私が好きね~!さっきからそればっかり聞いてきてさ。」
好き?いや、先生の事は好きじゃないな。そう思うと幻影の蘭夏に
「好きではない。愛してるんだ。未来永劫いたいくらいにはな。」
「うわぁ~、聞いてて恥ずかしい。って。いなくなった。ううーん。お。」
「なに?」
「ううん?かなり効果覿面!それじゃ帰るね~。」
「ああ。…………。」
「それじゃ帰りは。これを付けて~っと!じゃね~!聞かれてもアンタには関係ないって顔すんのよ?」
「分かってる。…………。」
結局、昨夜は寝付けなくて起きてた。そしたらあの幻影の蘭夏がやってきて
『お困りみたいだね?』
勝手に入るなよ。と冷たく言うと。
『ええ~?作戦考えてきたのに、教えないよ?』
『作戦?』
『そうそう。あの人の事だから親離れするには丁度いいって思うわけ。だから。あんたは食事の支度だけしてご飯は別々に食べる。それだけ。あんたも私の話をしながらご飯食べても何かボロ出るといけないじゃない?』
『なるほど……。』
『それで支度したらさっさと出かけるのよ。私に会うフリしてね。』
そして会ったら帰りには彼女から偽物のキスマークを付けて、俺は俺で適当に時間を潰して帰る。ただそれだけらしい。何もしてない、してはいないけれど。酷く罪悪感を感じるのは無視できない。
「はっ、はっ、は…………。…………。」
息抜き、気晴らしのつもりだった。賑やかな街に行って、色んなものを吟味したら少しは楽しめるから。
次はあのお菓子でも買おうと出店に行こうとした。その先に
「…………………………。」
足が、息が止まった。喉もカラカラになってく。何も言えない。地面に縫い付けられたように、その場から動けない。見たくもないのに視線も反らせない。視線の先にいたのはジャック君と昔の私に瓜二つな魔女だった。ジャック君と喋ってたら見せ付けるみたいに笑って、腕に胸を押し付けてきた。ジャック君もチラリと見ただけで拒絶しない。ああ。そうか。彼女とは本当にそういう仲なのかと思ってしまった。そしてジャック君は彼女に真剣に何かを言ったのを見て駆け出した。頭と心がぐちゃぐちゃで、今日と昨日に見たもの全てが受け入れられなくて。たった1人で涙を流した。
「…………。はぁ。」
どのくらいボンヤリしてたかしら。ずっと床に座り込んでたから膝が痛いわね。
「いけないわね、これじゃ。」
このくらいで胸を痛めていたらいけないわ。とはいえ、食欲も無いから。水だけ飲んだら眠ろう。なんだか。この前まで確かに愛されたのに。愛されたのが夢みたいで、遠く感じるわ。
「…………。忘れなきゃ。さてと。」
ダイニングに行くとジャック君が帰ってきてた。一応お帰りくらいは言わないとね。
「おかえ……。」
「帰りました。」
マントの隙間から覗く赤い痕。そして今は外は暗い。彼がさっきまで何してきたのか直ぐに分かった。
「…………。ジャック君。」
さっきまであの子といたの?と聞きたくもないのに聞いてた。その問いかけにジャック君はため息付いたら
「そうですけど?だけどそんなの先生には関係ないじゃないですか。」
関係ない。ため息と同時に放たれた言葉。これで良かった筈なのに。なのに私は絶望して。目の前が真っ暗になって身体が冷たくなってく。
「そうね……。」
私には関係無かった。そうよ、このまま。現実では彼もこのまま幸せになればいいわ。私は
「私は、夢想の中で永遠に……。」
ジャック君に愛された、幸せだった頃を永遠に過ごせばいいもの。そう願った。遠くで誰かが先生と叫ぶ声が聞こえたけれど。そんなの、もうどうでもいいわ……。

「っ!?な、なんだと。」
「?どうしました?」
「蘭夏がっ……!!」
自らと胡蝶が言いかけたその時。勢いよくドアが開かれた。現れたのはジャックと
「すみません!先生がっ、先生がっ!大変なんです!!」
「分かってる。直ぐにベッドに。」
「…………………………。」
蘭夏はというと、ジャックがあれほど大声を出しているにも関わらずピクリとも動かない。息をしてるのかさえ分からない。ベッドに寝かせても相変わらず人形のように目を開いたまま動かない蘭夏にジャックは
「先生っ!先生っ!俺謝ります!いくらでも謝りますから!だからっ!だから何か言って下さいっ!!起きて下さいっ!!」
「……………………………………………………………………。」
「せん、せ。うぁ……。」
うあああああぁぁぁぁぁああああああああああああああっっっっ!!!!
大声で泣きじゃくっているのになんの反応も示さない蘭夏に胡蝶は。
『やっぱりそうか……!!』
「アンタは相手をしておきな!」
「は、はい!大丈夫よ!禁術の魔女って呼ばれてるけどやり手な魔女よ?何とかするって!」
寝かせたベッドを陣にして蘭夏の精神状態を見た胡蝶は
「……っ。やはり。自らっ!」
永久の夢想へと堕としたのか。こうなってしまっては。このままでは蘭夏は永遠に目覚めない。甘い永遠の夢に自ら囚われて。そして現実を、何もかも拒絶する。
「っ。現実のアイツには自分以外の魔女で幸せになってもらって、自分は。自分を愛したアイツに愛される夢を見る、か。それが。蘭夏が望んだ事。」
「…………。ジャック、君。」
もっとシてと吐息混じりに呟く蘭夏の瞳は虚ろだった。もう現実なんていらない。見たくもないと拒絶してるように。
「ねぇ、何が……。」
「……。突然倒れたんだ。」
「え……?」
ジャックが言うには適当に時間を潰して帰ったら蘭夏と会ったらしい。
「アンタと、さっきまでいたのって聞かれて。言われた通りに。関係ないって。言ったら。先生の目が、変わったんだよ。」
「その話、詳しく聞かせな。今の私ではどうにもならないが、もしかしたらどうにかなるかもしれない。」
「は、はい。それで。関係ないって俺が言ったら、先生はそうねって。そう言った時点で、目はあんな風に虚ろでした。それから。私は、夢想の中で永遠に……。って。そう俺に言ってから倒れたんです。あのっ!どうしたら先生は起きますか!?」
「やっぱりそうか。だから現実を拒絶して。これから話す事を受け入れられるか?」
「現実を、拒絶……?…………。はい。」
受け入れますと答えたジャック。答えを聞いた胡蝶は
「そうか。先ずは現実を見るんだな。」
そう言って蘭夏を寝かせてる部屋に連れていった。
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