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我が子として育てた子供から溺愛される魔女は惚れさせてみせろと課題を出した 5幕間
しおりを挟む『洞窟からの脱出』――なんてテレビでもあまり見かけない。そもそも日本には洞窟なんてあったんだろうか。それすらも知らないし、聞いたことがない。
そんな馴染みのない場所からの脱出なんて、正直無理だと思う。
とはいえ、ここから動かないと獣に襲われるだろうし、仮に獣がいなくてもすぐに餓死するか、あるいは脱水で野垂れ死にすることが目に見えている。
「おーい、さっきの転職ロボットさーん?」
俺は歩きながら虚空に話しかけた。
もちろん返事はない。
さっきのゲームのウィンドウみたいな、あれが出てきてくれたら異世界の攻略も簡単そうなんだけどな……。
こういうファンタジー世界では定番の単語。
ここは格好つけて『開放』……なんて言ってみる。
「――っ! 開くなら開くって言えよ! ぶつかるじゃねぇか!」
歩きながら唱えたせいか、突然目の前に現れたウィンドウに危うくぶつかりそうになる。
どうやら正解だったらしい。
トリセツはないけど、予備知識でなんとかできているのはこの世界の神様があっちの世界のオタクか何かだからか?
「お前らはこれ見える?」
後ろで群れを成すこむぎ率いる狼(仮)たちにそう問いかけるが、みんなぶんぶんと首を横に振った。
これが見えるのは俺だけなのか。
触っても感触は無いし、急停止しなくてもぶつかる事はなかったらしい。
俺は視界に広がるウィンドウに目をやった。
【 アルト・エンリア 15
天職(ギフテッド・ワークス)
『死霊術師』 《固有スキル:無からの覚醒》
職業一覧
・『付与術師』《固有スキル:魔力付与》 】
この名前の隣にある数字がこの子の歳だろうか?
小学生くらいかと体を見て予想していたけど、あっちの世界では高校生くらいの年齢みたいだ。
「付与術師か……ほんと馴染みないなぁ」
こういう時、異世界転生で強みが一つある。
元いた世界での知識だ。
確か俺が見た漫画では石ころに魔力的なのを流していた。
この世界の《付与術師》も同じだろうか。
俺がこの世界で目を覚ました時、アルトの周りには首のないこむぎたちがいた。周りに敵がいないところからして、やったのはアルトだろう。
確実な致命傷になるであろう頭だけを狙っての攻撃、猟師と攻撃方法がどこか似ている気がする。
「……うーん」
物は試し。
とりあえず地面に転がっている石ころを手にした。
「はっ! 念力!……さすがにだめか」
《死霊術師》の能力の使い方を教えてくれた案内人も、これに関しては黙っている。
それもそうだ。ゲームでも説明は必要なことを最初のうちに終わらせる。そのあとは自分で解決しろとでも言わんばかりの放置プレイがお決まりだ。
「まったく、この世界に呼んでおきながらなんて仕打ちだ。洞窟ん中で生き埋めにさせたいならそう言えよ!」
使い方が分からない以上、《付与術師》の能力はまだ使えなさそうだな。
案内ロボットへの愚痴を吐きながら、俺は暗がりの道を進んだ。
匂いもなく、音もしない。気配どころか、痕跡すら見当たらない。こむぎたちの仲間は他にいないんだろうか。
獣がいないならそれはそれで助かる。
だが、今自分が洞窟のどこを歩いているのかが分からない。斜面が上りなのか下りなのかすらも暗すぎて感覚的に分からない。
さっきの場所に戻るわけにも行かないので、不安を拭ってそのまま進む。
「はぁ、なんか一人は寂しいな。部屋でずっと一人だったし、独りには慣れているはずなんだけどな。異世界に来たってのに、こんなところに一人ってなんか違うよなぁ……」
「わふん」
「お前たちはペットみたいなもんだろ?」
「わふん……」
「そんな悲しがるなよ、冗談だよ。友達? お前らは人間じゃないけど、人間の友達もできたことない俺にとって種族違いは些末な差か?」
自分で言ってて悲しくなってきた。
けど、こむぎたちは友達と言う単語を少しは理解しているのか、心なしか歩きながら尻尾を横に振っていた。
分かりやすい。本当に犬みたいだ。
この大きさじゃなければ家でも飼いたい。
大型犬一匹でも大変とよく聞くが、仮に大型犬サイズでも五匹はキツいよな。餌代もすごそうだし。
「餌とかって食べるのか?」
こむぎが首を横に振った。
食事は必要ないらしい。
「あー、なら飼えないこともないか。――あ、そういえば、お前らって一時的に姿を消すこととかできる?」
「わふん」
ほう、できるのか。
仮に洞窟から生還したとして、こんな獣の形をした黒い生物を見たら、普通の人間はまず怖がると思う。正直俺でもまだ怖いし。
それにこの世界にどんなルールがあるのか分かるまでは、下手に動くのも良くない気がする。
街に着いた瞬間捕まって、敵認定された挙句に牢屋になんて放り込まれたくないしな。
「じゃあ少し消えてみてくれる?」
「わふ」
小さく鳴いた後、こむぎの体は気体となり消えた。数秒の出来事だった。
「うわ、ほんとに消えた。こむぎ、もう一度出てこい」
その呼び掛けに応じるように、地面から再び黒い煙が立ち、あの大きな体が構築されていった。
それも数秒。つまり出し入れは簡単にできるということらしい。
ここで生じる問題が一つある。こむぎは名前をつけているから分かりやすいが、ほかの四匹を呼び出すときだ。
まぁ四匹くらいなら頭の中で想像できるが、数が増えると忘れてしまう奴もいるかもしれない。
「やっぱり名前をつけるしかないのか? 簡単に呼び出せないよなぁ……」
まぁ、今いる五匹には全員名前をつけといてあげよう。候補は歩いている間に考えておいた。
「よし、じゃあとりあえず右のお前から、ひまわり、あじさい、こすもす、あさがお、だ!」
「「「わふん!」」」
よし、納得してくれたみたいだ。
あっちの世界の人間が聞いたら安直すぎるとバカにされるかもしれないが、まぁ綺麗な花の名前だし、悪い気はしないよな。
四匹にはそれぞれ特徴もある。
まず一番右に座っている『ひまわり』。爪より牙の方が長く太い。噛む力に長けているのだろうか。その力はまた試すとしよう。
その左隣が『あじさい』。こむぎには劣るが、他の三匹より大きい体をしている。こむぎと一緒に巨躯を活かした戦い方ができるかもしれない。
次に『こすもす』。一番毛並みがもふもふしていて、尻尾まで毛量がすごい。戦闘には役立たないであろう特徴だが、もし野宿することになったらベッドとして利用させてもらうとする。
最後に『あさがお』。他の四匹より一回り、いや二回りほど体が小さい。末っ子みたいな感じだが、歩幅は大きく常に俺の前を歩いている。体が小さい分、俊敏に動いてくれそうな感じがする。
とまぁ、俺の分析はこんな感じか。こむぎがリーダーなのは変わらずだが、他の四匹も十分な働きをしてくれそうな感じがする。
こすもすのもふもふで戯れようとした瞬間だった。
進んでいた方向から頭痛を催すほどの異様な空気が俺の体を突き抜けていくのを感じた。
「わふっ!」
「あぁ、さすがに俺も気付いた。なんだ今の、お前たちの元仲間か?」
こむぎたちもその異変にいち早く気付いたのか、警戒心を顕にして、暗闇に向かって戦闘態勢に入っていた。
「――回復をしてやってくれっ!」
聞こえてきたのは人間の声だった。
エコーがかかったように聞こえるのは洞窟で声が反響しているからだろうか。
おそらく声の発信元は異様な空気が流れてきた方向と同じ。
「こむぎ、戦えるか?」
「わふん」
俺自体になんの能力もない。無理だと思ったら逃げる。何かがいる場所へ進む必要自体そもそもないけど。
これは第二の人生だ。面白い能力を得たのに隠居生活なんてしたって面白くないだろう。
それに医者になりたかったのは親に指図されたからではない。
人を助けるっていう職業に、少なからず憧れた俺がいたから――、
「よし、いくか。人間がいるみたいだし、お前たちは一時的に消えろ」
俺よりも先に他の人間がこちらを認識する可能性も考慮して、こむぎたちには消えといてもらう。
少し寂しいが、再び一人に戻った。先程の空気に気圧されるも、その震える膝を押さえて俺は歩を進めた。
そんな馴染みのない場所からの脱出なんて、正直無理だと思う。
とはいえ、ここから動かないと獣に襲われるだろうし、仮に獣がいなくてもすぐに餓死するか、あるいは脱水で野垂れ死にすることが目に見えている。
「おーい、さっきの転職ロボットさーん?」
俺は歩きながら虚空に話しかけた。
もちろん返事はない。
さっきのゲームのウィンドウみたいな、あれが出てきてくれたら異世界の攻略も簡単そうなんだけどな……。
こういうファンタジー世界では定番の単語。
ここは格好つけて『開放』……なんて言ってみる。
「――っ! 開くなら開くって言えよ! ぶつかるじゃねぇか!」
歩きながら唱えたせいか、突然目の前に現れたウィンドウに危うくぶつかりそうになる。
どうやら正解だったらしい。
トリセツはないけど、予備知識でなんとかできているのはこの世界の神様があっちの世界のオタクか何かだからか?
「お前らはこれ見える?」
後ろで群れを成すこむぎ率いる狼(仮)たちにそう問いかけるが、みんなぶんぶんと首を横に振った。
これが見えるのは俺だけなのか。
触っても感触は無いし、急停止しなくてもぶつかる事はなかったらしい。
俺は視界に広がるウィンドウに目をやった。
【 アルト・エンリア 15
天職(ギフテッド・ワークス)
『死霊術師』 《固有スキル:無からの覚醒》
職業一覧
・『付与術師』《固有スキル:魔力付与》 】
この名前の隣にある数字がこの子の歳だろうか?
小学生くらいかと体を見て予想していたけど、あっちの世界では高校生くらいの年齢みたいだ。
「付与術師か……ほんと馴染みないなぁ」
こういう時、異世界転生で強みが一つある。
元いた世界での知識だ。
確か俺が見た漫画では石ころに魔力的なのを流していた。
この世界の《付与術師》も同じだろうか。
俺がこの世界で目を覚ました時、アルトの周りには首のないこむぎたちがいた。周りに敵がいないところからして、やったのはアルトだろう。
確実な致命傷になるであろう頭だけを狙っての攻撃、猟師と攻撃方法がどこか似ている気がする。
「……うーん」
物は試し。
とりあえず地面に転がっている石ころを手にした。
「はっ! 念力!……さすがにだめか」
《死霊術師》の能力の使い方を教えてくれた案内人も、これに関しては黙っている。
それもそうだ。ゲームでも説明は必要なことを最初のうちに終わらせる。そのあとは自分で解決しろとでも言わんばかりの放置プレイがお決まりだ。
「まったく、この世界に呼んでおきながらなんて仕打ちだ。洞窟ん中で生き埋めにさせたいならそう言えよ!」
使い方が分からない以上、《付与術師》の能力はまだ使えなさそうだな。
案内ロボットへの愚痴を吐きながら、俺は暗がりの道を進んだ。
匂いもなく、音もしない。気配どころか、痕跡すら見当たらない。こむぎたちの仲間は他にいないんだろうか。
獣がいないならそれはそれで助かる。
だが、今自分が洞窟のどこを歩いているのかが分からない。斜面が上りなのか下りなのかすらも暗すぎて感覚的に分からない。
さっきの場所に戻るわけにも行かないので、不安を拭ってそのまま進む。
「はぁ、なんか一人は寂しいな。部屋でずっと一人だったし、独りには慣れているはずなんだけどな。異世界に来たってのに、こんなところに一人ってなんか違うよなぁ……」
「わふん」
「お前たちはペットみたいなもんだろ?」
「わふん……」
「そんな悲しがるなよ、冗談だよ。友達? お前らは人間じゃないけど、人間の友達もできたことない俺にとって種族違いは些末な差か?」
自分で言ってて悲しくなってきた。
けど、こむぎたちは友達と言う単語を少しは理解しているのか、心なしか歩きながら尻尾を横に振っていた。
分かりやすい。本当に犬みたいだ。
この大きさじゃなければ家でも飼いたい。
大型犬一匹でも大変とよく聞くが、仮に大型犬サイズでも五匹はキツいよな。餌代もすごそうだし。
「餌とかって食べるのか?」
こむぎが首を横に振った。
食事は必要ないらしい。
「あー、なら飼えないこともないか。――あ、そういえば、お前らって一時的に姿を消すこととかできる?」
「わふん」
ほう、できるのか。
仮に洞窟から生還したとして、こんな獣の形をした黒い生物を見たら、普通の人間はまず怖がると思う。正直俺でもまだ怖いし。
それにこの世界にどんなルールがあるのか分かるまでは、下手に動くのも良くない気がする。
街に着いた瞬間捕まって、敵認定された挙句に牢屋になんて放り込まれたくないしな。
「じゃあ少し消えてみてくれる?」
「わふ」
小さく鳴いた後、こむぎの体は気体となり消えた。数秒の出来事だった。
「うわ、ほんとに消えた。こむぎ、もう一度出てこい」
その呼び掛けに応じるように、地面から再び黒い煙が立ち、あの大きな体が構築されていった。
それも数秒。つまり出し入れは簡単にできるということらしい。
ここで生じる問題が一つある。こむぎは名前をつけているから分かりやすいが、ほかの四匹を呼び出すときだ。
まぁ四匹くらいなら頭の中で想像できるが、数が増えると忘れてしまう奴もいるかもしれない。
「やっぱり名前をつけるしかないのか? 簡単に呼び出せないよなぁ……」
まぁ、今いる五匹には全員名前をつけといてあげよう。候補は歩いている間に考えておいた。
「よし、じゃあとりあえず右のお前から、ひまわり、あじさい、こすもす、あさがお、だ!」
「「「わふん!」」」
よし、納得してくれたみたいだ。
あっちの世界の人間が聞いたら安直すぎるとバカにされるかもしれないが、まぁ綺麗な花の名前だし、悪い気はしないよな。
四匹にはそれぞれ特徴もある。
まず一番右に座っている『ひまわり』。爪より牙の方が長く太い。噛む力に長けているのだろうか。その力はまた試すとしよう。
その左隣が『あじさい』。こむぎには劣るが、他の三匹より大きい体をしている。こむぎと一緒に巨躯を活かした戦い方ができるかもしれない。
次に『こすもす』。一番毛並みがもふもふしていて、尻尾まで毛量がすごい。戦闘には役立たないであろう特徴だが、もし野宿することになったらベッドとして利用させてもらうとする。
最後に『あさがお』。他の四匹より一回り、いや二回りほど体が小さい。末っ子みたいな感じだが、歩幅は大きく常に俺の前を歩いている。体が小さい分、俊敏に動いてくれそうな感じがする。
とまぁ、俺の分析はこんな感じか。こむぎがリーダーなのは変わらずだが、他の四匹も十分な働きをしてくれそうな感じがする。
こすもすのもふもふで戯れようとした瞬間だった。
進んでいた方向から頭痛を催すほどの異様な空気が俺の体を突き抜けていくのを感じた。
「わふっ!」
「あぁ、さすがに俺も気付いた。なんだ今の、お前たちの元仲間か?」
こむぎたちもその異変にいち早く気付いたのか、警戒心を顕にして、暗闇に向かって戦闘態勢に入っていた。
「――回復をしてやってくれっ!」
聞こえてきたのは人間の声だった。
エコーがかかったように聞こえるのは洞窟で声が反響しているからだろうか。
おそらく声の発信元は異様な空気が流れてきた方向と同じ。
「こむぎ、戦えるか?」
「わふん」
俺自体になんの能力もない。無理だと思ったら逃げる。何かがいる場所へ進む必要自体そもそもないけど。
これは第二の人生だ。面白い能力を得たのに隠居生活なんてしたって面白くないだろう。
それに医者になりたかったのは親に指図されたからではない。
人を助けるっていう職業に、少なからず憧れた俺がいたから――、
「よし、いくか。人間がいるみたいだし、お前たちは一時的に消えろ」
俺よりも先に他の人間がこちらを認識する可能性も考慮して、こむぎたちには消えといてもらう。
少し寂しいが、再び一人に戻った。先程の空気に気圧されるも、その震える膝を押さえて俺は歩を進めた。
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