上 下
2 / 13

我が子として育てた子供から溺愛される魔女は惚れさせてみせろと課題を出した 2

しおりを挟む
惚れさせるなら手段選ばない。と言ったジャック君の言葉は今さらだけれど本気だったわね。
早速使ってきたわ。何をしてきたのかというと。
「…………。」
「お味はどうですか?」
「まあまあね。」
美味しい物でも食べさせたら落とせると思ったのかしら。と思いつつ、一緒に朝食を食べる。そんなの何時もの事だったのに。
なにこれ、スゴい美味しいんだけど。しかもよ。食べてる私を見詰める視線が違ってた。自分の作った食事を食べてくれて嬉しいって。愛しさいっぱいな目を遠慮なしに向けてくるもの。
態度には出さない。出さないけど。ハッキリ言って顔に出さないだけで精一杯ね。
モグモグと黙って食べてる私を見詰めてたジャック君は
「先生。」
「なに?って。」
ふいにテーブルごしに腕を伸ばしてきて、少し骨張った手が見えた。
「ソースが口元に付いてましたよ。可愛いですね、先生。」
そう言って長い指で口元に付いていたソースを取るとそのまま舐めた。
「可愛いって、私のどこが可愛いのかしら。やっぱり分からないわね。」
とか何とか言ってるけど。認めたくはない。断じて無いけれど。胸がドキドキして止まらない。私このまま殺されるんじゃないかしら。
「…………。」
そもそも、何故私なのかしら。これまでのジャック君を思い出すけれど。人間の言う思春期に入っても。そんな素振りは見せなかった。幼い頃だって母親に甘える子供のような態度だったのに。この際よ。聞こうかしら。
「ねえ。」
「はい。」
「何故私なの?言ったわよね。一目惚れだったって。それにあなたなら選り取り見取りじゃない。」
さて、なんて答えるのかしら。するとジャック君は瞬きして、コーヒーを一口飲んで。
「そうですね。敢えて言うなら、幼い俺が一目惚れした、愛してたと言っても先生。あなたは子供の言うことだからと本気にしないでしょう?だから俺は待ったんです。あなたが見て良い男と判断してから言おうって。言いましたよね?」
俺はしつこいって。そう言ったジャック君の目は見たことなんて無い男の目をしてた。
「この際です。俺からも言いますけれど。ずっと我慢してたので。覚悟しておいて下さいね?それに他の魔女とか興味ないし眼中にもないので。」
「そう。それにしても言うようになったわね。10年くらい前は私の後ろ付いてきて可愛かったのにね?」
本当に良い男になったものね。何も私じゃなくても選び放題な筈なのに。現に若い魔女たちのジャック君が素敵と見詰める視線と、声は年々多くなっていった。
魔女はより実力がある魔法使いが魅力的だもの。見た目と性格も良いなら尚更。そんな魔女たちの声を聞いて
こんな良い男、私が育てたんだから。と優越感に浸っていたわね。それがどういう訳なのか長い間私に好意を寄せてたのかが。
「…………。」
ジャック君には悪いけど。やっぱり諦めてもらおう。どうやっても私は我が子以上には見れないのよね。私に好意を向けたって時間の無駄よ。
そう思ってたのに。私が思ってた以上にジャック君の私に対する想いとしつこさはスゴかった。

「先生、大丈夫ですか?」
「ええ。」
翡翠の谷という場所には貴重な採取物がある。まあ、魔物も危険だけれど問題は無かった。ただ、谷には人が乗っただけで落盤するような脆い場所ばかり。私は分かってたのに、その落盤する場所に誤って乗ってしまって地下に落ちて足を怪我したわけ。
目的の貴重な採取物は取れたけれど。
痛み止め塗ったし、歩けないほど酷くないのに。おんぶすると言って聞かなかったのよね。歩いて悪化するのはいけないからって理由で大人しくおんぶされるけど。
「…………。」
こんなに彼の背中広かったかしら。それに広いだけじゃない。マントごしでも分かる筋肉と身体の温かさ。昔は
『ぐす……。』
『ほら、今痛み止め塗るから。』
『はい……。』
昔からこの谷には何度か行ってた。けど落盤して怪我するのはジャック君ばかりで、私は何時も持ち歩いてる痛み止めを塗ってはおんぶしていたわね。
「先生、足は痛くないですか?」
「ええ、大丈夫よ。」
「帰ったら包帯交換しますね。」
「あなたが言うならお願いしようかしら。」
どうかしてるわ。心配されて嬉しいなんて。本当に私はどうかしてる。このままだといけないわね。
それからもジャック君は食事の用意しては私と一緒に食べたり、怪我したら手当てして心配したり、魔道解析して疲れて寝てる私にベッドに運んだりして優しくしたりと。本当に健全なまでの手段を使ってきた。
「…………。ううーん……。」
彼、年頃よね。好意を持つ女が同じ屋根の下で暮らしているのに。何故抱こうとはしないのかしら。
確かに私はそれなりに忙しいけれど。
私、言ったわよね。惚れ薬使っても構わないって。彼、聞いてなかったのかしら。あんまり気になって仕方ないから確かめに行ったら
「ああ、惚れ薬だとか使っても構わないのは聞いてますし覚えてますよ。」
「…………。そう。」
なら、なんで……。私を。
「……。ねえ、先生。」
俺に抱いて欲しかったんですか?と囁いてきた。それで気付いた。これが彼の、ジャック君の作戦だった事に。
「な、訳無いじゃない。」
そうよ。私は抱かれることを望んでるんじゃない。彼は私と違って年頃の男だから我慢するのは辛い筈。そう思ってただけなのよ。
「勘違いしないで。あなたは男なんだからこういう欲を我慢するのは辛いだろうから言っただけよ。」
そう強がっても。まるで分かってるみたいに声に出して笑って
「そうですか?てっきり。同じ城に住んでて、しかも未だに隣の部屋で寝てるのに俺が手を出してこないからどうしてなのかなと思ったんですが。違ったんですね。けど、嬉しいです。」
え?って思ってた時には。熱の籠った声で
「先生、あなたが。こんなに俺の事考えてくれてるのが嬉しいです。今夜あなたの部屋に行きますね。」
俺もそろそろ限界なんで。なんて言われて。何も言えなくなった。ただ。顔に身体に熱が溜まるのを感じてくるだけで。
「先生。まだ」
俺に惚れていないんですか?って聞かれた。
「違うわ。」
そうよ。身体を許しても、心まで抱かれるつもりは。委ねるつもりなんて無いんだから。逆に諦めてもらえるチャンスじゃないかしら。いくら私を抱いても自分を想ってはくれないと思わせられたら、いくら彼でも諦める筈よ。
けれど私は何も、自分を心から想ってる相手から抱かれる事の。求められる悦びを1つも分かってはいなかった。
「…………。」
「失礼します。」
「いいわよ、入って。」
湯上がりで来たみたいで半分湿り気のある髪の毛をした彼にドキリとした。もちろん気のせいよと思ったけれど。
ベッドの上に座ってる私を凝視して固まってる。作戦どおりね。
「…………。」
「何かしら。」
「いえ、ただ。綺麗すぎて見とれたのと。先生は何時もこんな下着着てるんですか?」
「っ。そうよと言ったら?」
そう言うやいなや。ベッドの上に座ってた私は押し倒されてた。獣の目をした彼は
「あんなドレスの下にこんな下着着けて生活してたなんて。随分やらしいんですね。」
思わず想像して興奮しましたよ。って言った彼に私は。これは誤算だったと思い知る。
こんないやらしい下着を何時も着けてる訳無いじゃない。私の作戦はこうだった。布が少なくて派手な下着を何時も着けてると思わせる。間違いなく彼は私が男好きな女だと勘違いすると思ってた。まさかの逆効果だったなんて。何とか押し退けて
「違うわよ!こんな恥ずかしいのを何時も着けてる訳無いじゃない。」
「そうなんですか?……。」
「そ、そうよ。」
「……。俺に見せたいからですか?」
なんでそうなるの!?違うわよ!だけどもう聞く耳なんて無いジャック君は
「まあ、どんな理由でも。好きな女がこんな下着着てるだけで興奮するだけですけど。」
大人しく抱かれて下さい。と優しく頬を撫でられてもう何も言えなくなったし、何も抵抗も出来なかった。何もしてこないのを良いように捉えたのか
「蘭夏。」
「…………。」
初めて私を、先生じゃなくて。名前で呼んだ彼は。優しく唇を塞いできた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる

佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます 「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」 なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。 彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。 私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。 それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。 そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。 ただ。 婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。 切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。 彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。 「どうか、私と結婚してください」 「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」 私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。 彼のことはよく知っている。 彼もまた、私のことをよく知っている。 でも彼は『それ』が私だとは知らない。 まったくの別人に見えているはずなのだから。 なのに、何故私にプロポーズを? しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。 どういうこと? ============ 「番外編 相変わらずな日常」 いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。   ※転載・複写はお断りいたします。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

無慈悲な悪魔の騎士団長に迫られて困ってます!〜下っ端騎士団員(男爵令嬢)クビの危機!〜

楠ノ木雫
恋愛
 朝目が覚めたら、自分の隣に知らない男が寝ていた。  テレシアは、男爵令嬢でありつつも騎士団員の道を選び日々精進していた。ある日先輩方と城下町でお酒を飲みべろんべろんになって帰ってきた次の日、ベッドに一糸まとわぬ姿の自分と知らない男性が横たわっていた。朝の鍛錬の時間が迫っていたため眠っていた男性を放置して鍛錬場に向かったのだが、ちらりと見えた男性の服の一枚。それ、もしかして超エリート騎士団である近衛騎士団の制服……!? ※他の投稿サイトにも掲載しています。

大好きだけど、結婚はできません!〜強面彼氏に強引に溺愛されて、困っています〜

楠結衣
恋愛
冷たい川に落ちてしまったリス獣人のミーナは、薄れゆく意識の中、水中を飛ぶような速さで泳いできた一人の青年に助け出される。 ミーナを助けてくれた鍛冶屋のリュークは、鋭く睨むワイルドな人で。思わず身をすくませたけど、見た目と違って優しいリュークに次第に心惹かれていく。 さらに結婚を前提の告白をされてしまうのだけど、リュークの夢は故郷で鍛冶屋をひらくことだと告げられて。 (リュークのことは好きだけど、彼が住むのは北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまう私には無理!) と断ったのに、なぜか諦めないリュークと期限付きでお試しの恋人に?! 「泊まっていい?」 「今日、泊まってけ」 「俺の故郷で結婚してほしい!」 あまく溺愛してくるリュークに、ミーナの好きの気持ちは加速していく。 やっぱり、氷の国に一緒に行きたい!寒さに慣れると決意したミーナはある行動に出る……。 ミーナの一途な想いの行方は?二人の恋の結末は?! 健気でかわいいリス獣人と、見た目が怖いのに甘々なペンギン獣人の恋物語。 一途で溺愛なハッピーエンドストーリーです。 *小説家になろう様でも掲載しています

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

転生モブは分岐点に立つ〜悪役令嬢かヒロインか、それが問題だ!〜

みおな
恋愛
 転生したら、乙女ゲームのモブ令嬢でした。って、どれだけラノベの世界なの?  だけど、ありがたいことに悪役令嬢でもヒロインでもなく、完全なモブ!!  これは離れたところから、乙女ゲームの展開を楽しもうと思っていたのに、どうして私が巻き込まれるの?  私ってモブですよね? さて、選択です。悪役令嬢ルート?ヒロインルート?

処理中です...