恋文らいたー

misaka

文字の大きさ
上 下
3 / 6
裏話:恋文屋の話

与太郎と浅葱

しおりを挟む
静かな恋文屋みせの中で与太郎がお客を待っている。

「与太郎さん、そろそろお茶にしないかい?待っているだけじゃつまらないよ。」
浅葱は笑っていう。与太郎もつられて笑う。
「…お客は来ないもんだね。浅葱は暇かい?」

与太郎は浅葱を気に掛けるように問う。浅葱は横に首を振って言った。

「暇じゃあないよ。ただ、そんなに気を張っていると与太郎さんが疲れるから、と思ってねぇ。」
浅葱は優しく微笑んでいう。浅葱は町に出たりはあまりしない。もし町に出た時はあの団子屋のおフミより美しいとすぐ評判になるだろう。浅葱は与太郎の家の隣の娘で、病弱なため、嫁にも行けず親からはあまり良く思われてはいない。そんな浅葱を心配して与太郎は親の元から引き取り恋文屋の手伝いをさせている。

「そうか。悪かったね。恋文屋も大変なこった。待ちすぎて時間もわからなくなりそうだ。」
なんて与太郎は調子のいいことを言って浅葱を笑わせる。浅葱は与太郎といる事が何より楽しいのだ。

「…そう言えば、末吉さんとおフミさんの御依頼はどうなさったの?」
浅葱はいい手伝いをする。与太郎が忘れないように時々仕事の話をする。

「おフミに末吉の事を聞いたら満更でもないようなことを言う。あの2人は大丈夫だ。おフミが店を辞めるかもと、佐助に唆せと言ってある。」
与太郎は仕事が上手い。末吉が知らない間におフミの気持ちも探っているのだから。
唆すことは末吉さんのことをよく知っているから出来ることなんだろうけれど。

「佐助さん?…もしかして一子さんの…?」
浅葱が思い出したように言う。

「あぁ。一子さんが「時が来るから」と言って相手を教えてくれなかったから探るのが大変難しかったが、佐助が相手のようだ。なぁに、佐助は背中を押すだけできっと一子に伝えられる。」
与太郎は空を見上げながら一子と佐助の事を話す。浅葱はその姿を見て優しく微笑んだ。

「一子さんからのお手紙、一体何が書かれているのでしょうか…」
浅葱が問うと与太郎は言った。

「秘密だ。だが、恋文屋なんだ。恋文に決まっている。」
浅葱は、やっぱりこの人には勝てないと思った。恋文屋として店を開いてすぐから与太郎の才能は開花していた。人の気持ちと季節、香り、タイミング何かを絶妙にバランスをとって次々と恋を成功に導いている。

「そうですね…。」
そろそろわたくしの気持ちにも気付いてほしいものだわ、と与太郎を少し睨む。それでもやっぱり気が付かないものだから与太郎は損をしていると思う。

小さな恋がここにまだあるというのに。

自分の周りより町民の恋を手助けする恋文屋の一人店主与太郎。
こんな与太郎があなた様の恋を手助け致します。きっと恋が叶うことでしょう。

町の裏路地にひっそりと佇む恋文屋、あなたは見つけられるでしょうか。

いつでもお待ちしております。  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

空蝉

横山美香
歴史・時代
薩摩藩島津家の分家の娘として生まれながら、将軍家御台所となった天璋院篤姫。孝明天皇の妹という高貴な生まれから、第十四代将軍・徳川家定の妻となった和宮親子内親王。 二人の女性と二組の夫婦の恋と人生の物語です。

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

江戸の夕映え

大麦 ふみ
歴史・時代
江戸時代にはたくさんの随筆が書かれました。 「のどやかな気分が漲っていて、読んでいると、己れもその時代に生きているような気持ちになる」(森 銑三) そういったものを選んで、小説としてお届けしたく思います。 同じ江戸時代を生きていても、その暮らしぶり、境遇、ライフコース、そして考え方には、たいへんな幅、違いがあったことでしょう。 しかし、夕焼けがみなにひとしく差し込んでくるような、そんな目線であの時代の人々を描ければと存じます。

家康、江戸を捨てる

結城藍人
歴史・時代
//徳川家康が幕府を開いて早々に江戸を捨てて駿府へ移った真の理由とは? 第5回歴史・時代小説大賞での応援ありがとうございました。 ※「小説家になろう」「カクヨム」にも重複投稿しました(2019/6/1)。

妖怪引幕

句外
歴史・時代
稀代の天才画師・河鍋暁斎と、小説家・仮名垣魯文。その二人の数奇な交友を描いた短編。(フィクション)

黒の敵娼~あいかた

オボロ・ツキーヨ
歴史・時代
己の色を求めてさまよう旅路。 土方歳三と行く武州多摩。

劉縯

橘誠治
歴史・時代
古代中国・後漢王朝の始祖、光武帝の兄・劉縯(りゅうえん)の短編小説です。 もともとは彼の方が皇帝に近い立場でしたが、様々な理由からそれはかなわず…それを正史『後漢書』に肉付けする形で描いていきたいと思っています。 -------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 歴史小説家では宮城谷昌光さんや司馬遼太郎さんが好きです。 歴史上の人物のことを知るにはやっぱり物語がある方が覚えやすい。 上記のお二人の他にもいろんな作家さんや、大和和紀さんの「あさきゆめみし」に代表される漫画家さんにぼくもたくさんお世話になりました。 ぼくは特に古代中国史が好きなので題材はそこに求めることが多いですが、その恩返しの気持ちも込めて、自分もいろんな人に、あまり詳しく知られていない歴史上の人物について物語を通して伝えてゆきたい。 そんな風に思いながら書いています。

近江の轍

藤瀬 慶久
歴史・時代
全ては楽市楽座から始まった――― 『経済は一流、政治は三流』と言われる日本 世界有数の経済大国の礎を築いた商人達 その戦いの歴史を描いた一大叙事詩 『皆の暮らしを豊かにしたい』 信長・秀吉・家康の天下取りの傍らで、理想を抱いて歩き出した男がいた その名は西川甚左衛門 彼が残した足跡は、現在(いま)の日本に一体何をもたらしたのか ※この小説は『小説家になろう』『カクヨム』『アルファポリス』で掲載しています

処理中です...