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第一章

暗い緑と謎の声

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 ファイアル国地下の間に置かれていたクリスタルは確かに暗い緑色だった。
 ファイアル王との謁見の後、直ぐに王妃と対面し、その後クルーとディラン、フォリーは地下へ。護衛としてともに入国したクトニオスは地上で待機。クルーと国賓の護衛として兵士が5名、ともに地下へ降りた。

 「色は確かにこんな感じだったと思うけど、こんなに濁っていたかしら?」

 中の人物の顔が濁りではっきり見えない。だが、服装はフォリーが気持ち悪くなってくるには十分すぎる程、あの人物であることを物語っていた。

 「この間の姫の話とこの石があらわれた時の記録と合わせると、こいつは動けなくなる前に何とかしてファイアルに戻ろうと、何かの方法で転移したんだと考えられます。だが、転移できたところで石に飲まれた状態で、ある橋の下で見つかったんだ。」

 クルーが語った。

 「ただ、濁りはここまでではなく、徐々に濁ってきました。」

 そして男のズボンのポケットから落ちかけている袋に目を向けた。

 「ワイスの花。風土病にそう苦しまずに早めに治せる薬の材料なのですが、数年前の気候変動で絶滅寸前まで追いやられました。保護したワイスから採れた貴重な種。ワイスを復活させるためにも、治療のためにも大切にされてました。
 こいつは名を偽り、その保護施設に掃除担当で入り込んでました。そして金になると思ったのか、盗んだ。いや、盗むために入り込んだのか。そこはわかりません。
 隣に逃げたとの情報が入って直ぐの頃に、何かしらトラブルがあって森で戦ったのでしょう。」

 クルーはディランのほうを向いた。

 「貴方の力が必要かもしれないという理由を、教えて頂けますか?」

 ディランはセステオがどうやってクリスタルから開放されたのか、そして自分がどうやって力を使ったのかわからないことをクルーに話した。

 「研究施設でも未だにどういった力なのかわからないんだ。もしかしたら自分達の知らない何かが重なっていったのかもしれない。でも、『声』が聞こえたのは空耳なんかじゃない。」

 ディランの話にフォリーが反応した。

 「その声は私に力を貸そうとした声と同じなのかもしれません。それに・・。」

 「「それに?」」

 2人が同時にフォリーに言葉を返した。

 「よくわからないのですが、この石、怒ってるような気がするんです。何故かそう感じるんです。」

 ディランがそっとクリスタルに触れた。
 冷たく、深い水の底をイメージしたらこんな感じなのではないかと思える程波動は静かだった。
だが、『無』ではない。確かに怒りのイメージが触れてると湧いてくる気がする。

 そっと魔力を手のひらから流してみたが反応はない。。神力も同じ。コントロールが難しいができるだけあの時のように、と、両方同じ位の量を流してみるが結果は同じだった。
ならば、とディランは強く“出てこい”と念じながら力を流す。次に“こいつを開放して”と念じたが反応はない。

 フォリーが近寄り、クリスタルに触れた。その時、声が聞こえた。その場にいる全員に。

 許さない、お前を許さない。返して、あの人を返して。僕から温かい場所を奪ったのは許さない!
お前は自由にさせないさせないさせない!

 兵士が剣を構え、自分達の周辺に目を向ける。

 フォリー、ディランは声があの時の声に似ていると気付いた。だが、こんな冷たい印象はあの時の声にはなかった。

 クルーが思わずクリスタルに話しかけた。

 「頼む、そいつの持ってる種が必要なんだ。もし裁けというならば間違いなくこいつを法にのって裁くから!」

 法?違う。こいつはあの人を傷つけた!小さい子達も!こんなやつ!

 「あの時の子供の一人は私です!私が貴方に触れて、何か感じたから喋ってくれたのでしょう?!」

 沈黙が訪れた。しばし待つが、会話を再開する気配もない。

 「ごめんなさい。貴方の仰るあの人とはこの人と戦っていた人ですよね?私達を助けようともしてくれていたあの人。本当にごめんなさい、私が最後に覺えてる中ではかすかに息をしていたの。でも、地面から光があらわれて、光とともに消えてしまったの。その後はわからないの。」

 フォリーが肩を震わせながらそれでもクリスタルから手を話さずに語りかけた。

 返事はない。

 続いてクルーが語りかける。

 「その男の持ってる種は絶滅に近い。いいえ、その種が駄目になっていたとしたら本当の絶滅です。1つの種族が終わりとなります。それに、その種…ワイスの花はこの国の風土病の治療材料として過去使われてきました。私の母も必要としております。勿論他の材料でも薬は作れますが、ワイス程有効ではなく、長期の戦いを強いられます。その中で体力を落とせば命取りになりえるんです。協力してくれないのならば私からみて貴方は『許せない相手』になります。」

 僕が許せない相手になる?

 返事が返ってきた。

 「あの時の子供、ひとりはここにいるフォリー、もうひとりは我が弟のアレックス、そしてもっと小さかった子供は当時テオと呼ばれていた。みんな無事だ。それに貴方がテオを守っていたクリスタルと同じものならば、貴方は優しいのではないのか?」

 ディランがやはりクリスタルから手を離さず語る。

 また沈黙。

 フォリーがまだディランにも西王にも東王にも話したことがない、この間夢で気付いた事をクリスタルに語った。

 「私は少なくともあの人に繋がっていると思われる、雰囲気の似た人を知ってます。少なくともここではない、おそらく私達がカズム・テルーと呼ぶところに居ます。時折お墓参りされてるようなのです。誰のお墓かはわかりませんが。」

 「もしかしてチビのフォリーが・・・。」

ディランが呟いた。

 「ええ。今度アレックスに確認してみますが、アレックスは似てることにまだ気付いてないのかも。」

 カズム・テルー、似ている?まさか、まさか

謎の声は混乱している様子。

 ディランがそこへ声をあげた。

 「貴方が望むならばこちらにあるその人の墓へ案内します。いや、本人がまだ生きてるとしたら申し訳ないが、消えたあとに残された腕は丁寧に埋葬してあるから。」

 畳み掛けるようにフォリーが話しかけた。

 「あの時の私は金髪だったはずです。私の一部はおそらくその人とともにあちらへ。私は白髪になりました。私が向こうで見たものは夢にあらわれます。疑うのならば今からあなたにビジョンを送ります!」

 フォリーはクリスタル向けて映像を伝えようと魔力を流した。ほぼ同時にディランが再度テオの時の感覚を可能な限り再現しようと力を流す。すると、映像とは別に、半透明の金髪の少女、チビのフォリーが姿を見せ、クリスタルの中に入っていった。それに気付いたディラン同様に当のフォリーも予想外といった感じで驚いた表情をしていたが、映像をクリスタルの中に送るのを止めない。
 するとディランの手のひらからあのときと同じ、無理をしなくても自然に力の流れが出てきた。

 様子をみていたクルーがたまらず、大きな声でクリスタルに再度話しかけた。

 「頼むから、僕達を、母上を助けて!!!」

 バキっと大きな音がクリスタルから聞こえた。
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