上 下
7 / 104
第一章

猛獣か珍獣か

しおりを挟む
 「姉様見ーつけたぁ!」

 とびきりの笑顔でセステオはフォルガイアにしがみつき、その後からジョーンズが現れた。

 「いらっしゃい、セステオ。今日はどうしたの?まさか一人で来たの?」

 笑顔でフォリーはセステオに声をかけた。

 「昨夜ね、姉様の笑顔が見たくなったの。でもアレックスあにうえが時間が遅いって。だから今日来ちゃった♪」

 この子は大人になったら周りの女性に勘違いをさせそうだわ(汗)

 今から一抹の不安を感じる姉である。

 「フォリー様、そのまさかです。テオ様、一人でここまで来たようです。王都の人々が見守ってるから無事にここまで来られてますが、まだ幼いので一人で抜けて出てくるのは・・・。」

 ジョーンズが小言を言い始め、セステオはプーっと頬を膨らませた。

 「そうね。この国だからこそ街へ抜け出しても居場所はわかりやすいけど、でもね、テオ。これは何度目かな?微笑ましいと思われてるうちはいいけど、あなた一応王子よ?これが他国だとかなり大騒ぎよ。幼い王子が一人で街を歩いてるって有り得ないってなるわよ?まぁ、一人で来たと言いつつも実際は過保護な怪しいおにーさんが・・・。」

 そこまで言うと慌てて庭の隅からアレックスが姿を見せた。

 「こんにちは、フォリー。怪しいおにーさんって酷いよ。あれ?やだなぁ、何故だろう。凄くダークなオーラがフォリーの後ろから。」

 「後ろ?」

 笑顔のまま怒りの青筋を浮かべていたフォリーが振り返る。

 「・・・アレックス様。過保護に影から付き添うのは結構ですが、何故庭に隠れていたんです?」

 クトニオスが口をヒクヒクさせながら無理矢理笑顔を作っていた。

 「うーん、どのタイミングで驚かそうかなぁと。」

 クトニオスとジョーンズが同時に額に手を当て、ため息をついた。

 「公式の場では凛々しく王子らしい振る舞いであるのに。どうして西の若様も東の若様も普段はこんな感じに。」

 二人とも同時に同じことを呟いたため、思わず『すご~い』と拍手をしてしまう王子二人と姫一人。三人の返しに二人はいじけてしまった。

 「フォリー様。ジョーンズは今日、走るテオ様を追いかけて体が悲鳴をあげております。ああ、あの美味しいパンが食べたい。あれを食べれば体も途端に悲鳴を忘れてきっとパワーがみなぎって・・・。」

 「ジョーンズ、お前何歳だよ。俺たちとそんなに歳が離れてないだろうが。いじけさせたのは悪かったけどドサクサに紛れて何フォリーに甘えてるの。油断も隙もない。」

 アレックスが突っ込みを入れはじめたが、フォリーが大きく眼を開いて右手を握り、開いた左手をポンっと打って頷いた。

 「そうね、久しぶりにリタおば様の店のパンを食べたいわね。今から買いに行きましょう。セステオも好きよね?持って帰りなさい。それから皆の夕食にも出せるように注文してきましょうよ。うちの屋敷内全員とすると量が凄いから、店が急に大量だと困ってしまうわ。おば様に何日後の夕食なら用意できるか確認しましょう・・・あら、どうしたの?アレックス?」

 「別に。」

 「すねてむくれてますね、あにうえ。」

 「たまには俺も拗ねる。」

 「「ところで」」アレックスとフォリーが当時にクトニオスに声をかけ、彼に視線を向けた。

 ピーンと緊張したものがクトニオスから醸し出されていた。クトニオスが頭を下げる。

 「買いに行くことを止めるつもりはございません。ルーカス王子からの言伝をお伝え致します。
 セステオ王子を歩いて帰らせるな
 とのことです。よって御三方は乗り物での移動を。」

 「何が起きた?」

 真剣な表情でアレックスが質問した。

 「王都にネズミどころか猛獣が侵入した可能性がであると情報が入りました。東王にも伝達しております、アレックス殿下。」

 「・・・猛獣?珍獣ではなく?」

 口に出したのはフォリーだった。

 ルーカスの顔を浮かべ、この兄にしてこの妹ありだなと思ってしまったことは絶対に口に出さないぞと思うクトニオスであった。

 セステオは姉が勘違いをしていることに気付いていた。

 姉様、人だと思ってないよね。あのお顔、本当に森から生き物が紛れ込んだと思ってる(汗)


 ともあれ、一行はパン屋に向かった。

 無事に注文を終え、土産のパンをセステオに持たせ、店を出てきた時にそれは起きた。

 ドスン!

 「ジョーンズ、大丈夫?!」

 慌ててフォリーが駆け寄ると、ぶつかった相手がイテテっとジョーンズとほぼ当時に起き上がった。

 「お嬢様、大丈夫です。こう見えて私は胸板厚いんです。それよりこちらのお人が。申し訳ありません。大丈夫でしたか?」

 「ああ、大丈夫です。自分の方こそ申し訳ありませんでした・・・あぁ、綺麗な可愛らしい女性ですね。ここでこのような女性に会えるとは。運がいい。」

 アレックスがフォリーの前に立ち、牽制する。

 「無事なら良かった。こちらのものが申し訳なかった。だが、彼女に粉かけるのはやめてくれないかな?」

 「これはこれは。初対面で失礼しました。あなた方はどうやら良いお育ちの人達らしい。ちょうど良かった、ここの王都の人に聞きたいことがあったんです。これも何かのご縁だと思って。」

 「聞きたいことですか?」

 フォリーが尋ねた。

 「はい、この国の姫君の事です。良いお育ちの方ならば姫君と面識があるのではないかと思って。」

 不安を感じてセステオがジョーンズの服を後ろから握る。アレックス、フォリー、ジョーンズは一見表情に変化は見られない。一言で姫と言っても、どの姫のことを聞こうとしているのかわからなかったのでそのままの姿勢を保っていた。

 「大地の姫と呼ばれてるそうですが、昔何か困難なめにあったと風の噂で聞いております。その事について確認したいことがありまして。少しお話伺えませんか?あれ?何か顔が怖いですよ。ああ、それとも大地の姫は今もお人形さんみたいで、皆様の前には姿を見せてないのでしょうか?」

 言いながら男は最後の方でフッと笑った。
 アレックスが怒りを表すより先に、男に向けて周囲から殺気のようなものが感じられる。
と同時に

 バシャ!!

 水が男の顔めがけてかけられた。パン屋横の花屋の女将さんがぶっ掛けたのだ。

 「どこの誰だか知らないけど、失礼だよ!!姫さんは人形なんかじゃない!いつも皆に心を寄せてる働きもんさ!
 さぁ!そこのお坊ちゃん、嬢ちゃん達、こんなの相手にせず帰りな。帰って親に話すといいよ。変なやつに会ったと!」
 
 通りすがり王都の人々も女将さんも、お育ちの良い子達が誰なのか勿論承知している。

 「いささかこのままにはできないわ。こんなハンカチでは拭ききれないけどごめんなさいね。」

 ハンカチを渡し、嬢ちゃんはお坊ちゃん達のところへ戻る。
 頬に跳ね返った水の雫を手で拭いながら、周囲に聞こえない小声で大きな方のお坊ちゃんは呟いた。

 「あいつがもしかして・・?猛・・・いや、珍獣?」




 その頃東の城の近くで一人の男が佇んでいた。

 男の目の前にはある看板が立っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...