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変化 2
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「ああ、もちろんいいぞ」
笑うその顔は優しく穏やかで、今では腕同士が触れ合う距離が心地よく感じられる。当然、早野の言うような寒いからという理由ではないのも理解していた。
そうではなくて、ただ、ケインとであれば真夏の茹だるような暑さの中でも、触れ合っていたいときっと思えるだろう。
「うーわ、フリスペ激混みじゃん……こんな混んでるのも珍しいな」
「確かに。どうする? 近くのファミレスか、教授に空いている部屋を借りるか」
優等生らしい模範解答に、優吾は悩む素振りを見せる。
もし、行った先のファミレスも混んでいたら。
空いている教室を借りようとしたところで、他の生徒に声を掛けられたら。
心配性なフリを装って、チラチラとケインの表情を窺った。
「あんま時間取られたくねぇし、長い時間外歩くのも……あ! なぁ、ケインの家って行ったらダメ?」
「……は?」
「この辺りに住んでるんだろ? 俺ン家ちょっと大学からは離れてるし、周りも住宅街だからさ。もし人あげるのがダメなら別にいいんだけど、できたら頼むよ。な?」
言いながら、口の中がパサパサに乾燥していくのが分かる。
普段であれば、優吾はもっと相手に気を遣って断りやすいような言葉を選んでいたのに。
そんな考えも浮かばないほどに緊張し、心臓の音によって耳鳴りまでしてきた。
ケインが驚いたように口を開いていたが、すぐに目線を泳がせて動揺を隠そうとしているようだった。
「……ダメでは、ない、が」
「おっ! 助かる~! いやさ、今週末高校の同窓会がこっちであるんだよな。酒飲んで夜に解散だと課題できる気がしなくて。昼間も冬だと起きられないからさぁ」
裏返った返答の声に、優吾は意図して気にしていないかのようにぺらぺらと話を続ける。
間を持たせたくなかった、沈黙が落ちたのと同時に、もし己の心音が聞かれたらと思うと泣いてしまいそうだった。
「……優吾」
「ん~?」
「……ハァ、部屋を片付ける時間を少しくれ」
「もちろん!」
一瞬考えこむような素振りを見せていたが、それも照れ隠しだと勝手に解釈する。
大丈夫、冬休みの間もケインからの連絡は途絶えず、その文面も優吾への恋情で溢れていた。
そんな彼に何を返せるかと考えていた優吾は、この機会を逃すまいと意気込み、荷物をまとめて大学の表階段を下りていく。
後ろを歩こうとするケインに、それでは道が分からないだろうと言って前を歩かせ、冬の寒さのせいではない耳の赤みを隠すようにマフラーに顔を埋めた。
緊張のあまり彼の家への道順は覚えていなかったが、別にいいだろう。
笑うその顔は優しく穏やかで、今では腕同士が触れ合う距離が心地よく感じられる。当然、早野の言うような寒いからという理由ではないのも理解していた。
そうではなくて、ただ、ケインとであれば真夏の茹だるような暑さの中でも、触れ合っていたいときっと思えるだろう。
「うーわ、フリスペ激混みじゃん……こんな混んでるのも珍しいな」
「確かに。どうする? 近くのファミレスか、教授に空いている部屋を借りるか」
優等生らしい模範解答に、優吾は悩む素振りを見せる。
もし、行った先のファミレスも混んでいたら。
空いている教室を借りようとしたところで、他の生徒に声を掛けられたら。
心配性なフリを装って、チラチラとケインの表情を窺った。
「あんま時間取られたくねぇし、長い時間外歩くのも……あ! なぁ、ケインの家って行ったらダメ?」
「……は?」
「この辺りに住んでるんだろ? 俺ン家ちょっと大学からは離れてるし、周りも住宅街だからさ。もし人あげるのがダメなら別にいいんだけど、できたら頼むよ。な?」
言いながら、口の中がパサパサに乾燥していくのが分かる。
普段であれば、優吾はもっと相手に気を遣って断りやすいような言葉を選んでいたのに。
そんな考えも浮かばないほどに緊張し、心臓の音によって耳鳴りまでしてきた。
ケインが驚いたように口を開いていたが、すぐに目線を泳がせて動揺を隠そうとしているようだった。
「……ダメでは、ない、が」
「おっ! 助かる~! いやさ、今週末高校の同窓会がこっちであるんだよな。酒飲んで夜に解散だと課題できる気がしなくて。昼間も冬だと起きられないからさぁ」
裏返った返答の声に、優吾は意図して気にしていないかのようにぺらぺらと話を続ける。
間を持たせたくなかった、沈黙が落ちたのと同時に、もし己の心音が聞かれたらと思うと泣いてしまいそうだった。
「……優吾」
「ん~?」
「……ハァ、部屋を片付ける時間を少しくれ」
「もちろん!」
一瞬考えこむような素振りを見せていたが、それも照れ隠しだと勝手に解釈する。
大丈夫、冬休みの間もケインからの連絡は途絶えず、その文面も優吾への恋情で溢れていた。
そんな彼に何を返せるかと考えていた優吾は、この機会を逃すまいと意気込み、荷物をまとめて大学の表階段を下りていく。
後ろを歩こうとするケインに、それでは道が分からないだろうと言って前を歩かせ、冬の寒さのせいではない耳の赤みを隠すようにマフラーに顔を埋めた。
緊張のあまり彼の家への道順は覚えていなかったが、別にいいだろう。
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