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過去と今

なにもそこまでしなくても

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「なんでだ」
「え? いや、自分たちが一番だと思ってる人が、こう……知らない女に動かされるのなんて、嫌でしょ? それに私、ヴァンくんに頼りすぎというか」
「それは良いっつっただろうが」
「で、でも、他の人がいる前ではやっぱりやめた方がいいと思う、から」

 ヴァンくんが良くても周りの人は全く良くないんだし、つまり周りのことを考えると私は敬語に戻して、部屋から出ないようにするのが正解なんじゃないかなって。

「……アンタはオレの母親なんだろう」
「え?」
「なら、屋敷じゃオレより偉いっつーことで、今の状況は何ら問題ねぇな」

 さっき言ってた話を持ち出され、いや、そうかもだけどと一瞬悩む。
 でも、私はあくまで他の国から連れて来られた異世界人で、武功を挙げてこの家を起こしたヴァンくんより偉いわけがないのは変わらないと思うんだけど。

「それはまた話が違うんじゃ」
「美味かった。また作ってくれ」
「え、あっ、おそまつさまです……? っじゃなくて」

 作ること自体はいいけど、またあの厨房に行くのは気が重い。
 だから軽率に『いつでも作ってあげる』と言えなくて申し訳ないけど……そこじゃない。

 母親って、それは気持ち的な意味だから。ていうかここのお屋敷の人達に急に年下の異世界人が『私はヴァンくんの母親です』とか言ってくるとかホラーだから。
 その言葉の齟齬を正そうと、手に持ってたお皿を一度テーブルに置いて向かい合う。

「あのね、私が言ってるのはそうじゃなくて……ヴァンくん?」
「あっちみてぇな過ごしやすい世界じゃねぇが、それでも、アンタがオレにしてくれたみたい居心地よくなって欲しいんだよ」

 私が向き直ったのと同時に、隣に腰掛けてたヴァンくんも近付いて、膝同士が触れ合う距離に。
 膝同士、というか脚の長さも太さも違い過ぎて、私の膝とヴァンくんの太腿だけど。
 成長し過ぎじゃないかなって、そっちに意識が向いてしまった一瞬の隙に。
 ソファの背凭れにヴァンくんの腕が回って、覆いかぶさるみたいに包囲される。

「っあ、え……?」
「どうして欲しい? 料理を作るのは嫌いじゃねぇって昔も言ってたよな。アイツが嫌ならクビにしたって構わねぇぞ」
「っだ、だめ! 私情で他人の人生左右しちゃダメだからね?!」
「なら、専用の厨房でも作るか。それでどうだ」

 まさかの発言に震えながら声を上げてしまったけど、ヴァンくんは全く気にした素振りを見せない。
 クビって、料理長さんだって善意で言ってくれたんだろうし、彼にだって生活があるのだ。そんな簡単に言うヴァンくんに怖くなる。
 専用の厨房だって、そんなの作ってもらう義理は流石にないと反論しないと。
 そう、思ってたけど。

「いっそ庭にちいせぇ家でも作って、そこで暮らすのもありかもな」
「えっ?」
「あ?」
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