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過去と今

気にしないように

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 何かしでかしてしまったのかと嫌な汗が滲むと、思った通り。
 私の態度を咎めるその言葉に、反論しようにもなんと言っていいのか分からず声が出ない。

「異世界の方でこちらの世界の作法には詳しくないかもしれませんが、旦那様は非常に気難しく苛烈なお方です。これはあなたのためでもあるんですよ、良いですね?」

 ……気難しい、のはそうなのかもだけど。言えば分かってくれるし、私に気を遣ってはくれるし、いい人だと思うけど……でも、そうだよね。
 ここの当主であるヴァンくんが、客人とも言えない私の指示に従ってるのって、ここで働いてる人からしたら意味分からなくて不快だよね。

「はい……すみません。ご指摘、ありがとうございます」
「いえ。あなたは私に対しては適切な距離を取れていますよね? 旦那様に対してだけは近く見えたのですが、出会ってすぐのあなたがそれを許されているのは異世界からの人間だからです。それが当たり前だと思わないでください」

『ゆめゆめ、お忘れなきように』
 そう告げる料理長さんの目は真剣で、私のためを思って言ってくれてるんだしと素直に受け止める。
 料理長さんの溜め息にまた肩が揺れてしまう、本当に、ダメだなぁ。

「悪い、待たせた」
「っあ、ううん。大丈夫」
「じゃ、行くか。他に必要なもんはねぇか?」

 オムライスを私用の小さいのと一緒に持ち上げてくれたヴァンくん。
 飲み物は部屋に常備されてるらしいので、あとはカトラリーだけ。

「ヴァン、くん。あの、オムライス、私の分は持てるから」
「気にすんな。そっちのだけ頼むわ」

 料理長さんの視線が痛くて私がするって言ったのに、ヴァンくんの方から却下されてしまった。
 というか、ヴァンくんって呼ぶのも大丈夫なのか分からなくて口ごもる。
 また怒られるかもしれないっていう恐怖から、料理長さんから受け取ったカトラリーを握る手が震えるけど、それをどうにか抑えて私の横を歩くヴァンくんに歩幅を合わせる。

「ああ、この香りだ。ずっと食べたかったんだよ」

 部屋に戻る道すがら、手に持ったオムライスの匂いを嗅いで嬉しそうに口にするヴァンくんに、しおしおだった感情が少しだけ回復する。

「……こっちの世界って、食材とかは同じなのに料理の幅は少なめなんだね?」
「食えて腹が膨れりゃいいって考えの奴が多いからな。味付けもメインにゃ塩程度だしよ」

 そういえば、元の世界でも食に興味がない国ってあったかも。
 てことは今日出されたスープも、もしかして昨日何も食べられなかった私を慮ってではなくて、普通の食事だった?
 日本人としては美味しい食事で活力を得るって考えだから、お腹が膨れても味気ない物ばかりを食べると気が滅入りそう。

「ミユキも食べろ、うめぇぞ」
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