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過去と今
ずっと考えていたこと
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ジッと見つめてくる視線が離れない。
でけぇ奴、というのは……多分、ヴァンくんのことだろうけど。
つまり、一緒にこの部屋にいる、ということ?
え? 確かに彼を拾った時は、そもそも私の家がワンルームだったから寝食を一緒にしたけど……もう、ヴァンくんも大人で、私より年上で、おまけにここ部屋がいっぱいあるんだけど……?
「え、でも……えーっと、ヴァンくんはそれでいいの?」
「むしろその方が都合がいいんでね」
どうやってこの疑問を言語化すれば失礼じゃないか分からず、ふわっとした質問をしてみたら、また曖昧な返事。
その意図を探っていると、あることに気が付いた。
そういえば……私は、元々は皇帝陛下が言っていた離れの塔に住むはずだったのだ。
なのに、昨日のアルマ隊長さんの発言的に、ヴァンくんは私を勝手にここへ連れてきた。
だから、できるかぎりヴァンくんが見張っていられるように、と……なるほど。この部屋ならトイレもお風呂も付いてるし、廊下にも出なくていいんだもんね。そういう意味か。
「うん、わかった。ヴァンくんに従うよ」
「悪いな」
「気にしないで、見張りはやっぱり大事だもん」
「……あ?」
「私が敵国から貸し出されてるからでしょ? 下手なことしないように気を付けるから安心して」
笑いかければ、片眉をピクっと上げるヴァンくん。
何か疑問があったのかと首を傾げるも、こめかみに手を当てて溜め息を吐いていた。
「……全然分かってねぇな」
「え?」
「なんでもねぇ。ところで、腹減ってるだろ?」
何か間違えてしまったかと血の気が引きかけたところで、そういえばとお腹に手を当てた。
すると、先ほどまでずっと静かだったお腹がぐうぅと一気に大きな音を立てるから、血の気が引くところか顔が真っ赤になる。
「ックク、腹減ったんだな? 安心しろ、用意するよう伝えといたからよ」
そんな私に心底楽しそうに笑うヴァンくん。
屈託のない、昨日から一度も見ていなかった心からの笑顔に、なんだか胸の奥が変な音を立てる。
「……あ、あの、ヴァンくん」
「なんだ」
「えーっと……ヴァンくんにとっての私ってさ、なに?」
カラカラと笑うヴァンくんに、つい、魔が差してしまった。
今聞くタイミングじゃないとは思っていたけど、口から出た言葉をなかったことにはできない。
案の定私の発言に笑っていた顔が真顔になってしまったけど、今聞くしかないと腹を括る。
「……どういう意味だ?」
「えっと……自分で言うのもなんだけど、命の恩人だからってこんなに色々してもらうの、なんか申し訳なくてね……? だって、本当にその、三日間しか面倒見てあげられてないんだよ?」
そう、たった三日間。家の中でお世話をしただけなのだ。
少しだけ外にも出たりはしたが、何をしたかと言えばなにもできていない。怪我の手当てだって中途半端であったし、料理は作ったが家庭料理程度だった。
それが、今私はいつまでここに世話になるのかも、どれだけ迷惑を掛けるかも分からないのだ。
全く釣り合いが取れないと思いながら、ずっと胸の中にわだかまっていたことを問えば、ヴァンくんは溜め息を吐きながらまたソファに座り直した。
「ヴァンくん?」
「アンタにしたら三日しかだろうが、オレにとっちゃその三日で全部変わったんだよ」
ぽんぽんとソファの隣を叩くので、そこに私も座る。
隣に座ると、脚の長さも身体の厚みも全然違うことにまた気付いてしまう。
本当に成長したんだなぁって、なんか感慨深い。
「あの三日で見える世界が広がって、戦奴で明日の食い物の心配しかできなかったオレが、将来を考えるようになった」
世界がひっくり返ったような感覚を、一身に受けたのだと。
その衝撃は一瞬であったけど、でも、その一瞬のおかげで全てが変わったのだと、ヴァンくんは淡々と口にする。
「人生を変えた存在だぞ? そりゃ丁重に扱うだろうが」
……あまりにも真剣なその顔に、納得はできないけど理解はできた。
つまり、ヴァンくんにとって私は……大袈裟な言い方だけど、神様みたいな存在、ってことかな?
幼少期の恩をここまで糧にしているのは、ひとえにヴァンくんの努力のおかげだろうけど……でも、今は彼を頼っていいのかもって、ちょっと思えたのだ。
でけぇ奴、というのは……多分、ヴァンくんのことだろうけど。
つまり、一緒にこの部屋にいる、ということ?
え? 確かに彼を拾った時は、そもそも私の家がワンルームだったから寝食を一緒にしたけど……もう、ヴァンくんも大人で、私より年上で、おまけにここ部屋がいっぱいあるんだけど……?
「え、でも……えーっと、ヴァンくんはそれでいいの?」
「むしろその方が都合がいいんでね」
どうやってこの疑問を言語化すれば失礼じゃないか分からず、ふわっとした質問をしてみたら、また曖昧な返事。
その意図を探っていると、あることに気が付いた。
そういえば……私は、元々は皇帝陛下が言っていた離れの塔に住むはずだったのだ。
なのに、昨日のアルマ隊長さんの発言的に、ヴァンくんは私を勝手にここへ連れてきた。
だから、できるかぎりヴァンくんが見張っていられるように、と……なるほど。この部屋ならトイレもお風呂も付いてるし、廊下にも出なくていいんだもんね。そういう意味か。
「うん、わかった。ヴァンくんに従うよ」
「悪いな」
「気にしないで、見張りはやっぱり大事だもん」
「……あ?」
「私が敵国から貸し出されてるからでしょ? 下手なことしないように気を付けるから安心して」
笑いかければ、片眉をピクっと上げるヴァンくん。
何か疑問があったのかと首を傾げるも、こめかみに手を当てて溜め息を吐いていた。
「……全然分かってねぇな」
「え?」
「なんでもねぇ。ところで、腹減ってるだろ?」
何か間違えてしまったかと血の気が引きかけたところで、そういえばとお腹に手を当てた。
すると、先ほどまでずっと静かだったお腹がぐうぅと一気に大きな音を立てるから、血の気が引くところか顔が真っ赤になる。
「ックク、腹減ったんだな? 安心しろ、用意するよう伝えといたからよ」
そんな私に心底楽しそうに笑うヴァンくん。
屈託のない、昨日から一度も見ていなかった心からの笑顔に、なんだか胸の奥が変な音を立てる。
「……あ、あの、ヴァンくん」
「なんだ」
「えーっと……ヴァンくんにとっての私ってさ、なに?」
カラカラと笑うヴァンくんに、つい、魔が差してしまった。
今聞くタイミングじゃないとは思っていたけど、口から出た言葉をなかったことにはできない。
案の定私の発言に笑っていた顔が真顔になってしまったけど、今聞くしかないと腹を括る。
「……どういう意味だ?」
「えっと……自分で言うのもなんだけど、命の恩人だからってこんなに色々してもらうの、なんか申し訳なくてね……? だって、本当にその、三日間しか面倒見てあげられてないんだよ?」
そう、たった三日間。家の中でお世話をしただけなのだ。
少しだけ外にも出たりはしたが、何をしたかと言えばなにもできていない。怪我の手当てだって中途半端であったし、料理は作ったが家庭料理程度だった。
それが、今私はいつまでここに世話になるのかも、どれだけ迷惑を掛けるかも分からないのだ。
全く釣り合いが取れないと思いながら、ずっと胸の中にわだかまっていたことを問えば、ヴァンくんは溜め息を吐きながらまたソファに座り直した。
「ヴァンくん?」
「アンタにしたら三日しかだろうが、オレにとっちゃその三日で全部変わったんだよ」
ぽんぽんとソファの隣を叩くので、そこに私も座る。
隣に座ると、脚の長さも身体の厚みも全然違うことにまた気付いてしまう。
本当に成長したんだなぁって、なんか感慨深い。
「あの三日で見える世界が広がって、戦奴で明日の食い物の心配しかできなかったオレが、将来を考えるようになった」
世界がひっくり返ったような感覚を、一身に受けたのだと。
その衝撃は一瞬であったけど、でも、その一瞬のおかげで全てが変わったのだと、ヴァンくんは淡々と口にする。
「人生を変えた存在だぞ? そりゃ丁重に扱うだろうが」
……あまりにも真剣なその顔に、納得はできないけど理解はできた。
つまり、ヴァンくんにとって私は……大袈裟な言い方だけど、神様みたいな存在、ってことかな?
幼少期の恩をここまで糧にしているのは、ひとえにヴァンくんの努力のおかげだろうけど……でも、今は彼を頼っていいのかもって、ちょっと思えたのだ。
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