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過去と今

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「風呂使ったのか」
「う、うん。お借りしました」

 言いながら、すっぴんで会うのをなんだか恥ずかしく思い、濡れた髪を乾かす振りをしながらタオルで顔を隠す。
 それを気にすることなく、ヴァンくんは座ったままジッとこっちを見つめてきていた。

「昨日も言ったが、ここをアンタの家だと思ってくれて構わねぇ」

 頬杖をついて喋るヴァンくんに、こちらもチラリと少しだけ視線を向ける。
 ……頬に大きな傷はあるものの、鼻が高くて彫りも深く目も切れ長の重い二重。
 子供の時と変わらない煤色と銀の混ざった髪が短く刈り上げられており、筋肉質で大きな身体は、まるで洋画の俳優っぽいなと言いたくなるも口に出さず心に留める。
 二枚目、ともイケメン、とも違う。言うなればハンサム、男前だと、ついつい感動してしまう。

「ま、あの家よりかは広いかもだけどよ?」
「え、あ……そ、そりゃ確かに広いけど……私の部屋より全然居心地いいかもだけど……」

 悪戯っぽくニヒルに笑いながら言われるそれに、なんと返して良いか分からず口をもごもごと動かすしかできない。
 昔は、もっとうまく相手の冗談も軽口も言い返せていたのに。
 何を言ってもダメ出しをされ、否定され、最後は罵倒されて。傷付いた心が癒える前にその穴を抉られてからは、もう穴の塞ぎ方を忘れてしまった。
 酷い返答に呆れていないかと不安になりながらヴァンくんの方へ視線だけを向けると、どうしてか、とても険しい顔をしていて。

「あの、ヴァンくん?」
「……冗談だよ。オレにとっちゃ、あの狭い家が一番居心地よかったわ」

 立ち上がり、わしゃわしゃとタオルごと私の髪を掻き混ぜるヴァンくんにポカンとしてしまう。
 言動の意味が分からずまた言葉に詰まるけれど、ただ、その表情や口調が、まだ彼が少年の時。
 悪いことをしてしまい叱られたあとと同じで、その空気に不安だった感情がスゥっと消えていった。

「……うん。ありがとうヴァンくん」
「礼を言われることはしてねぇ」
「私が言いたかったからいいの……えっと。それであの、実はね、ヴァンくん」
「なんだ?」

 もう乾いたからとタオルを返してもらい、上にあるヴァンくんの顔を覗き見た。
 ヴァンくんになら、少しの我が儘を言っても許してもらえる。
 優しい彼は自分を怒鳴ったりしないと思えたから、ほんの少しだけ我が儘を伝えて見ようと思えた。

「私、ちょっとここだと広すぎて……もう少し狭い部屋とかない?」

 すると、細く切れ長だった目を見開くものだから、どうしてそんなに驚いているのかと首を傾げる。

「……生憎だが、ここより狭い部屋はねぇな」
「あ、そっか……え、そうなの?」
「ああ」

 まさか、この部屋で一番狭いだなんて。
 他の部屋はどれだけ広いのか……あ、なら、使用人さんの部屋とかならいいかもしれない。
 むしろその方が分相応だと思う。この部屋が分不相応すぎるのだ、うん。

「あのさ、ヴァンくん」
「ここより狭い部屋はねぇが、でけぇ奴がいれば狭く感じるんじゃねぇか?」
「……ん?」
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