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異世界に召喚された日

聞こえなかった声

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「で、そのまま騎士になって、気付いたらこんな地位までもらってよ」
「……素朴な疑問なんだけど」

 ヴァンくんは貴族なの? そう問えば、今は領地を統べる伯爵位ではあると告げられた。
 しかし、専ら自身の領地は代官を置いて任せきりであり、王国騎士団の副団長の任に就いているのだという。

「爵位っつーのは益のある人間を縛るもんだ。お前の世界で見たあの道具たちのおかげでこの国が潤ったのは事実だし、他所に流されたくなかったんだろうな」

 陛下は辺境伯になって欲しいと言っていたが、それは断り今の地位に。
 そして、王都にいるのなら騎士団に剣の指南をして欲しいこと。何より先ほどのアルマ隊長さんを支えて欲しいということで、領主の仕事をせずとも許されているらしい。
 日本生まれ日本育ち、世界史も日本史も適当にしか学んでこなくて、爵位に全く縁がない私にはさっぱり分からない話ばかりだった。
 それでもヴァンくんが真剣に話してくれているからと聞いていたけど……難しい話が多すぎて。
 なにより、隣に感じる他人ひとの体温に、強張っていた身体が弛緩し、久しぶりに眠気を覚えた。

「……ミユキ?」

 小さく名を呼ばれても、もう閉じた目が開かない。
 夢と現の境を揺蕩う気持ち良さを味わっていると、背中を撫でてくれていた手がゆっくり離れ、ぐちゃぐちゃになっていた布団が掛け直される。
 その手が優しくて、顔の近くに来た時、思わず頬を寄せてしまった。

「っ……はぁ、ったく。人の気も知らねぇで、安心した顔で寝やがって」

 まだまだ聞きたいことは山ほどあったけど、もう明日にしてもらおう。
 離れてしまいそうなヴァンくんの温かさを惜しむように伸ばした指先は、しかしゆっくり剥がされ布団の中へ。

「……ようやくだ。ようやく、お前を……………」

 この時、ヴァンくんは他の誰に見せる表情とも違う。
 欲の滲んだ笑みを湛えながら、月が傾くまでずっと私の寝顔を見つめていたらしいけど、それは夢の世界に旅たった私は知らない話。



 一章 終わり
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