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異世界に召喚された日
疲れてしまったみたいで
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もう、とにかく脳も身体も疲れてしまい、考えることができない。
ていうかヴァンくん頭良くなり過ぎだよ、びっくり。
ぐるぐる目を回して黙っていたら、ヴァンくんは先ほどまでの圧を潜め、屈んで顔を近付けてきた。
「疲れたか」
「え……? あっ、う、うん。ごめん、ちょっと休ませてほしいかも」
「分かった。何かあったらこのベルを鳴らせ、あとバスとトイレはあっちの部屋に隣接してる。好きに使え」
最初に通された部屋のベッドに腰掛けていれば、テキパキと寝間着や飲み物を用意してサイドテーブルに置いてくれた。
もう日も落ちてきたから寝てもいいと明かりを小さくし、部屋を出ていくヴァンくん。
ここ、ヴァンくんの部屋じゃなかったっけ。なのに私に何も言わずに貸してくれて。ずっと傍にいてくれて、気を遣ってくれる彼に対し、ありがとうも言えない自分が嫌になる。
「……ゔっ、ゔぅ~……」
この世界に来る前から今までのことを考え、ボロボロと涙が零れ落ちていく。
いつも、夜になるとこうなのだ。
苦しい辛い情けない、嫌な感情が全部湧き出し、己の不甲斐なさが精神を蝕む。
疲れて眠いのに目を閉じると嫌なことばかりが思い出され、眠ることができない。
そうして疲れ切ったまま出社し、回らない頭でミスをしないかと肝を冷やし、何もなくても周りから責められる。
そんな毎日が嫌で、苦しくて、でも逃げだすことができなくて……だから、こんな世界に飛ばされたのだろうか?
新しくやり直せるように? なら、ちゃんとしないと。今度こそ、嫌な自分にならないように。
涙と鼻水でうまく息ができない中、結局こうなったのは全て自分のせいなんだという考えに至った、その時。
「ミユキ、入るぞ」
扉越しに声を掛けられ、返事をしていないにもかかわらずズカズカと入ってきたヴァンくん。この部屋はそもそもヴァンくんのものなので拒否権はないけど、今は入ってきてほしくなかった。
ジッと顔を枕に埋めたまま黙っていれば、ベッドが軋む。
「どうした」
「……なんでも、ないよ」
「そうか」
ベッドに腰掛け、頭をゆっくり撫でられる。
その仕草に面映ゆい気持ちが湧き、ちらりと後ろに目を向けた。
「……あのさ」
「オレを寝かせるって時、毎回こうしてただろうが」
薄暗い室内であったが、それでも、彼の瞳が優しいのは分かった。
掛けられていたシーツをぎゅっと握り、涙で赤くなった目元を見られるのが恥ずかしく視線を逸らす。
「……子ども扱い」
「じゃねぇよ。ただ借りを返してるだけだ」
寝ていた身体を横にずらされ、何故か隣で寝転んできたヴァンくんに驚くも、不思議と嫌悪感はなかった。
疑うつもりはなかったが、もう私の中で、彼があの日の少年だと理解できているからだろうな。
「あの日、オレは魔物に襲われててな」
私が緊張していないと分かったからか、ヴァンくんはゆっくりと、まるで絵本を読み聞かせるように出会った日のことを語ってくれた。
ていうかヴァンくん頭良くなり過ぎだよ、びっくり。
ぐるぐる目を回して黙っていたら、ヴァンくんは先ほどまでの圧を潜め、屈んで顔を近付けてきた。
「疲れたか」
「え……? あっ、う、うん。ごめん、ちょっと休ませてほしいかも」
「分かった。何かあったらこのベルを鳴らせ、あとバスとトイレはあっちの部屋に隣接してる。好きに使え」
最初に通された部屋のベッドに腰掛けていれば、テキパキと寝間着や飲み物を用意してサイドテーブルに置いてくれた。
もう日も落ちてきたから寝てもいいと明かりを小さくし、部屋を出ていくヴァンくん。
ここ、ヴァンくんの部屋じゃなかったっけ。なのに私に何も言わずに貸してくれて。ずっと傍にいてくれて、気を遣ってくれる彼に対し、ありがとうも言えない自分が嫌になる。
「……ゔっ、ゔぅ~……」
この世界に来る前から今までのことを考え、ボロボロと涙が零れ落ちていく。
いつも、夜になるとこうなのだ。
苦しい辛い情けない、嫌な感情が全部湧き出し、己の不甲斐なさが精神を蝕む。
疲れて眠いのに目を閉じると嫌なことばかりが思い出され、眠ることができない。
そうして疲れ切ったまま出社し、回らない頭でミスをしないかと肝を冷やし、何もなくても周りから責められる。
そんな毎日が嫌で、苦しくて、でも逃げだすことができなくて……だから、こんな世界に飛ばされたのだろうか?
新しくやり直せるように? なら、ちゃんとしないと。今度こそ、嫌な自分にならないように。
涙と鼻水でうまく息ができない中、結局こうなったのは全て自分のせいなんだという考えに至った、その時。
「ミユキ、入るぞ」
扉越しに声を掛けられ、返事をしていないにもかかわらずズカズカと入ってきたヴァンくん。この部屋はそもそもヴァンくんのものなので拒否権はないけど、今は入ってきてほしくなかった。
ジッと顔を枕に埋めたまま黙っていれば、ベッドが軋む。
「どうした」
「……なんでも、ないよ」
「そうか」
ベッドに腰掛け、頭をゆっくり撫でられる。
その仕草に面映ゆい気持ちが湧き、ちらりと後ろに目を向けた。
「……あのさ」
「オレを寝かせるって時、毎回こうしてただろうが」
薄暗い室内であったが、それでも、彼の瞳が優しいのは分かった。
掛けられていたシーツをぎゅっと握り、涙で赤くなった目元を見られるのが恥ずかしく視線を逸らす。
「……子ども扱い」
「じゃねぇよ。ただ借りを返してるだけだ」
寝ていた身体を横にずらされ、何故か隣で寝転んできたヴァンくんに驚くも、不思議と嫌悪感はなかった。
疑うつもりはなかったが、もう私の中で、彼があの日の少年だと理解できているからだろうな。
「あの日、オレは魔物に襲われててな」
私が緊張していないと分かったからか、ヴァンくんはゆっくりと、まるで絵本を読み聞かせるように出会った日のことを語ってくれた。
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