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異世界に召喚された日
突然の出来事
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もう、いっそ楽に死にたいな、と。そう考えていた時のこと。
『大丈夫。生きてればいいことあるんだから、ね?』
ふと思い出したのは、過去に出会った苦し気な子供に告げた励ますために自ら告げた言葉。
生きていればいいことがある、なんて。まったくどの口が言ったのか。
それからたった半年ちょっとで精神を病みかけ、もう生きていても死んでいても同じと思い悩み、さらにこんな状況になってしまったというのに。
「もうすぐ着くぞ。いいか、価値のない貴様に我々は最大限の恩赦を与えるためにここへ連れてきたのだ。分かっているな?」
横柄な態度でもって唾を吐く男に対し、そんなの分かりたくもない、ていうかお荷物な私を有効活用するためにやってるんでしょ、なんて。
言ったところで相手から詰られて終わりと分かってるので無言を貫く。
そう、言ったところで意味がないから。
だから余計なことは溜め込んで、どんどん苦しくなっていったというのに。
「……中世みたいな世界だなぁ」
ボロくはないが、豪華とも言えない幌馬車の中。
小さな穴の開いた隙間を覗けば、漫画や映画でしか見たことのない景色が流れている。
日本の田舎とも違う、見たことのない自然と建物に、驚きはすれど感動はない。
何故なら、私はこれから国同士の取引のために売られるんだから。
「おい、勝手な行動をするなよ。聞いてるのか?」
「……分かってます」
――――事の発端は、異世界召喚に巻き込まれたという、まるで小説のような展開のせい。
退勤中、眩い光に目を瞑り、次の瞬間には黒いローブを纏った人たちに囲まれていたのが発端だ。
『ほう、三人も呼べるとは。僥倖だな』
学校の資料集なんかで見たことがある風貌の、周りから王と呼ばれる男が私とその横で倒れている男女を見てそう言ってきた。
二人は学生らしく、制服を身に纏い困惑と恐怖が混ざった表情で周りを囲む大人たちを見上げていた。
私だってそりゃ怖かったけど、あまりにも現実離れしたこの状況とこの三人の中では一番年上ということもあり、恐怖よりも責任感が勝って二人の前に出ようとした。
『それで、どれが有用だ?』
『はい。鑑定士によりますと若い二人は類稀なる力を持っているとのこと……ただ、こちらの女性ですが、本来一般人ですら持てるスキルもないようです。あるのは異世界人が必ず持つ多言語能力のみ……この女は二人を呼び出す際の召喚に巻き込まれただけなのでしょう』
なのに、王様の隣でやれやれという風に溜め息を吐く男に、反抗心が一瞬で消え失せた。
……もしかして、この中で一番危ないのって私じゃない?
焦って周りを見上げれば、侮蔑の目でこちらを見下す男たち。
片や学生二人は近くに立っていた騎士によって手を取られ、丁重にその場から別室へと連れて行かれてしまった。
本当に、マズいかもしれない。
『……で、どうする?』
『いくら異世界人でも、これでは役に立つことはないでしょう』
後ろからはチャキ、と金属同士が擦れる音。
殺されるかもしれない、という状況に冷や汗が首筋を伝う。
『ですが、私に良い考えがあります。この女はアンダリジア国への貢ぎ物にするのはいかがでしょう?』
役に立たないと宣った男は、先ほどよりもほんの少しだけ声を上擦らせながら王様へと進言した。
貢ぎ物、という言葉と男の表情から、命は助かったがマズい状況に変わりないのかと頬を引き攣らせてしまう。
彼らの話をかいつまんでいけば、つまり他国への賠償として、異世界から召喚された人間を〝貸し出す〟ということらしい。
いっそあげ渡しても問題ないのではという王様に首を振る男性は、何か考えがあるのか。それ以上は分からなかった。
『大丈夫。生きてればいいことあるんだから、ね?』
ふと思い出したのは、過去に出会った苦し気な子供に告げた励ますために自ら告げた言葉。
生きていればいいことがある、なんて。まったくどの口が言ったのか。
それからたった半年ちょっとで精神を病みかけ、もう生きていても死んでいても同じと思い悩み、さらにこんな状況になってしまったというのに。
「もうすぐ着くぞ。いいか、価値のない貴様に我々は最大限の恩赦を与えるためにここへ連れてきたのだ。分かっているな?」
横柄な態度でもって唾を吐く男に対し、そんなの分かりたくもない、ていうかお荷物な私を有効活用するためにやってるんでしょ、なんて。
言ったところで相手から詰られて終わりと分かってるので無言を貫く。
そう、言ったところで意味がないから。
だから余計なことは溜め込んで、どんどん苦しくなっていったというのに。
「……中世みたいな世界だなぁ」
ボロくはないが、豪華とも言えない幌馬車の中。
小さな穴の開いた隙間を覗けば、漫画や映画でしか見たことのない景色が流れている。
日本の田舎とも違う、見たことのない自然と建物に、驚きはすれど感動はない。
何故なら、私はこれから国同士の取引のために売られるんだから。
「おい、勝手な行動をするなよ。聞いてるのか?」
「……分かってます」
――――事の発端は、異世界召喚に巻き込まれたという、まるで小説のような展開のせい。
退勤中、眩い光に目を瞑り、次の瞬間には黒いローブを纏った人たちに囲まれていたのが発端だ。
『ほう、三人も呼べるとは。僥倖だな』
学校の資料集なんかで見たことがある風貌の、周りから王と呼ばれる男が私とその横で倒れている男女を見てそう言ってきた。
二人は学生らしく、制服を身に纏い困惑と恐怖が混ざった表情で周りを囲む大人たちを見上げていた。
私だってそりゃ怖かったけど、あまりにも現実離れしたこの状況とこの三人の中では一番年上ということもあり、恐怖よりも責任感が勝って二人の前に出ようとした。
『それで、どれが有用だ?』
『はい。鑑定士によりますと若い二人は類稀なる力を持っているとのこと……ただ、こちらの女性ですが、本来一般人ですら持てるスキルもないようです。あるのは異世界人が必ず持つ多言語能力のみ……この女は二人を呼び出す際の召喚に巻き込まれただけなのでしょう』
なのに、王様の隣でやれやれという風に溜め息を吐く男に、反抗心が一瞬で消え失せた。
……もしかして、この中で一番危ないのって私じゃない?
焦って周りを見上げれば、侮蔑の目でこちらを見下す男たち。
片や学生二人は近くに立っていた騎士によって手を取られ、丁重にその場から別室へと連れて行かれてしまった。
本当に、マズいかもしれない。
『……で、どうする?』
『いくら異世界人でも、これでは役に立つことはないでしょう』
後ろからはチャキ、と金属同士が擦れる音。
殺されるかもしれない、という状況に冷や汗が首筋を伝う。
『ですが、私に良い考えがあります。この女はアンダリジア国への貢ぎ物にするのはいかがでしょう?』
役に立たないと宣った男は、先ほどよりもほんの少しだけ声を上擦らせながら王様へと進言した。
貢ぎ物、という言葉と男の表情から、命は助かったがマズい状況に変わりないのかと頬を引き攣らせてしまう。
彼らの話をかいつまんでいけば、つまり他国への賠償として、異世界から召喚された人間を〝貸し出す〟ということらしい。
いっそあげ渡しても問題ないのではという王様に首を振る男性は、何か考えがあるのか。それ以上は分からなかった。
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