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08 最終話

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 マンフリートに表明した通り、天音とハインツは離宮で一週間、昼夜関係なくベッドの上で熱い時間を過ごした。

 天音と抱き合う前のハインツは、天音が寝る時間になると必ず王宮に戻って自分のベッドで寝ていた。けれど、今は王宮で仕事をする以外のほとんどの時間を離宮で過ごすようになったのだった。

 もちろん、毎日欠かすことなくハインツは天音を抱いた。
 天音も喜んでハインツに抱かれた。

 おかげで初体験から二ヵ月過ぎた頃には、天音は心待ちにしていた懐妊の診断を医師から聞くことができたのである。

 その時の天音の喜びようといったら、もう。

 あまりにも天音が大喜びしてはしゃぐものだから、そのそばにいるハインツは当然のこと、使用人たちまでも幸せ気分をおすそ分けされて、しばらくは離宮の中がほわほわと幸せオーラで満ちていたほどである。



 それから八ヵ月後、天音はかわいい赤ちゃんを無事出産することができた。
 蜂蜜色の金髪と深い翠玉エメラルド色の瞳を持つ、ハインツによく似たとても美しい男児だった。
 レイノルドと名付けられた。

 更にその三ヵ月後には、妊娠のために延期されていたハインツと天音の結婚式が挙げられた。周辺友好国から大勢の貴賓を招いての、歴史に残る盛大な式となった。

 二人が神前で永遠の愛を誓い合った瞬間、教会内と帝国全土に虹色に光り輝く花びらが美しく舞い踊った。これは界渡り人が真実の愛を育んだ相手との婚姻が成った時のみに現れるもので、神の祝福の具現化であるという。

 式の参列者たちからの割れんばかりの拍手の中、ハインツと天音は幸せそうに抱きしめ合ったのだった。




 その後の二人は、当然ながら幸せな人生を送ることになった。

 なにせ神からの祝福付きである。

 大きな争いごとが起きることもなく国は繁栄し、カイネルシア帝国の長い歴史上、最も平和な時期だと後世の歴史家に語られることなる奇跡の時代となったのである。

 天音はレイノルドが生まれた四年後に、今度は長女エリザベスを出産した。

 美しい花々が咲き誇る王宮の庭園で、ハインツと子供たちが楽しそうに遊ぶ姿を見るのが、今や天音にとって最高に幸せを感じる時間である。

 庭園の端に建てられた四阿の中から大切な家族を温かく見つめながら、天音は呟く。

「こんな幸せ、あのまま日本で暮らしていたら、俺には絶対に手に入れられなかっただろうな」

 結婚して何年も経つのに、未だに好きが大きくなるばかりの愛する夫。
 そんな夫にそっくりなレイノルドは、将来イケメンになることが確定していて天音は嬉しくなってしまう。
 兄に対して妹エリザベスの色味はハインツの曾祖母に似たらしく、髪は紺色で瞳は透明感のある水色をしている。ただ顔の作りは天音に似ていて、相変わらず自分を不細工だと思っている天音は、娘に心底申し訳なく思っていた。

 とはいえ娘は成長すると父親に似てくると聞く。
 もう何年か後にはハインツに似てきているといいな、そうしてあげて下さいと、天音は密かに神に祈る日々を送っている。

 まあ見た目はどうであれ、天音にとってエリザベスがかわいくてたまらない愛すべき娘なことは言うまでもないし、ハインツとレイノルドも生まれた瞬間からエリザベスにメロメロだから、天音のように自分に自信が持てない人間には育たないだろうと天音は予想している。

 将来はきっと素敵な伴侶が見つかるよ。
 見た目は関係ないよ。
 俺だって結婚できたんだから。
 俺の一万倍くらいかわいいエリザベスなら、きっと幸せな結婚ができるよ。

 そんなことを天音はいつも考えていた。

 実際のところ、天音に似たエリザベスは十数年後に絶世の美女として名を馳せることになる。そして、世界各国の王族たちから求婚されることになるのだが、今の天音がそれを知る由もない。
 またこの時、シスコンを拗らせたレイノルドの妨害せいで、エリザベスが危うく婚期を逃しそうになる事件も起きるが、それもまた今はまだ誰も知らない未来の話である。

 ともかく、二人とも健康に生まれてくれて本当に良かった、俺はいい家族を持てた、と、そんな物思いに耽りながら天音が幸せを噛み締めていると、まだ一人では歩けないエリザベスを乳母に任せたハインツが、レイノルドと一緒に天音の元に戻ってきた。

 二人から代わる代わる頬にキスをされて、天音は嬉しそうに微笑む。

「ハインツ、忙しいのに子供たちと遊んでくれてありがとう。レイノルドも良かったね、父上に遊んでもらえて」

 ほっぺを真っ赤にしてこくこくと頷くレイノルドの頭を、ハインツがくしゃりと優しく撫でた。

「礼は必要ない。家族と共に過ごす時間は、わたしにとってもこの上ない癒しの時間なのだから」
「母上はおかげんいかがですか? お疲れではありませんか?」

 レイノルドが心配そうに問いかけるのは、天音が三人目の子を妊娠中だからだ。

「平気だよ。もう安定期にも入ったしね、レイノルドともいっぱい遊んであげられるよ。ホラ、母様のお膝においで」

 レイノルドは天音を見た後、その視線をハインツに向けた。そして、また天音を見てにっこりと笑う。

「僕はあっちでエリザベスと遊んできます。だから母上は父上と遊んであげてください」

 そう言うと、レイノルドはエリザベスと乳母のいる方へ走っていってしまった。
 その後ろ姿を見ながら天音はぷっと吹き出す。

「父上と遊んであげてください、だって。ふふっ、優しくて良い子に育ってくれてるよね」
「いやあれは良い子というよりは、どちらかと言うと腹黒とか策略家タイプだろうな」
「つまり見た目だけじゃなく、性格までもハインツに似てるってこと?」
「おい、どういう意味だ」

 ムスッとしたハインツを見て、天音は声を上げて笑った。
 愛する妻の笑顔を見て、すぐにハインツも機嫌を直す。

「ったく、まあいい。せっかくレイノルドが気を使ってくれたのだから、アマネに遊んでもらおうか」

 ハインツは天音を抱え上げると、天音が座っていた椅子に自らが腰を下ろし、その膝の上に天音を横向に座らせた。そして天音の頭のそこかしこに優しいキスを何度もする。

 くすぐったそうに身をよじりながら天音が言った。

「こうやってハインツの膝の上に座っていると、初めてこの世界に落ちてきた時のことを思い出すなぁ」

 あの頃は自分に自信が持てず、そのせいで自分の意見さえも主張できず、天音は小さくなって生きていた。

 しかし、天音は変わった。
 この世界で出会った皆が支えてくれたから、なによりハインツが愛してくれたから、自分に自信持って自分らしく生きていいのだと思えるようになった。
 好きな人に好きだと、胸を張って堂々と言えるようにもなったのである。

 出会ってから約六年が経った今、ハインツは三十路を超えている。しかし、その美貌は褪せることなく今も変わらず光り輝いている。
 天音の知る限り、この世の誰よりも美しい人だ。

 そんなハインツが天音を甘く見つめながら囁いた。

「アマネ、愛している」
「うん、俺も」

 嬉しくて幸せで、天音からもハインツにキスをする。
 するとハインツは、これ以上の幸せはないと言わんばかりの表情で天音を見つめながら、その手を取って指先に口付けた。

「愛しい人。あの時、わたしの膝の上に落ちてきてくれてありがとう。愛してくれてありがとう。おかげで子供たちにも会えた。アマネ、おまえにはいくら感謝してもし足りないくらいだ」
「俺だって同じだよ。今だって同じことを思ってたんだ。あの時、落ちたのがハインツの膝の上で良かったって」

 本当に、今まで何度思ったことだろう。

 この世界に連れてきてくれてありがとうございます。
 ハインツに出会わせてくれてありがとうございます。
 
 何度も神という存在に感謝してきた。
 そして、それと同じ数だけハインツにも感謝してきている。


 好きになってくれてありがとう。
 恋を教えてくれてありがとう。
 愛してくれてありがとう。
 自信を持っていいんだと教えてくれてありがとう
 家庭を持つ喜びを教えてくれてありがとう。


 きっと天音はこれからも幾度となく神とハインツに感謝し続けるだろう。



 命ある限りずっと、永遠に。




End

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みんなの感想(4件)

なじこ
2021.11.12 なじこ

さくっと完結!とてもうれしかったです。
長編連載の多い中、ドラマチックな導入から
スムーズなストーリー展開で飽きるまもなく
また、増長する事なく完結。素晴らしかったです。
とても印象に残るお話でした。
素敵な作品をありがとうございました!

鳴海
2021.11.15 鳴海

読んで下さってありがとうございます!
とても嬉しかったです!
もったいないほどのご感想、感謝したします!!!

解除
pipin
2021.11.06 pipin

あまねくん優しすぎるよぉおおおお
まだ直ぐに許したり受け入れずに1人で暮らしてみてほしかったな



今後の展開楽しみにしてます!

鳴海
2021.11.09 鳴海

なんとか幸せにさせてあげることができました!
ご感想嬉しかったです、ありがとうございました!!

解除
のん
2021.11.04 のん

可愛らしい天音君に癒されます。ハインツの執着も、これからどうなっていくかも楽しみです!

鳴海
2021.11.09 鳴海

楽しんで下さったようで、とても嬉しいです。
ご感想、ありがとうございました!!

解除

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