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04 最終話
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その後はシャワーを浴びて体中を綺麗にしてから、シーツを替えたベッドの上に戻ってキスしたり、ちょっぴり触れ合って気持ち良くなったりしながらイチャイチャしている内、先に寝落ちたのはジョゼフの方だった。
満足そうな顔をして眠るジョゼフを見つめながら、トーリは嬉しそうに苦笑いする。
「そりゃ疲れるよな。武術大会で何人もの先輩騎士たちと戦ったんだし。昨日まではずっと特訓三昧だったし。本当はおまえ、戦ったりするのは好きじゃないのにな。俺のためにがんばってくれたんだよな」
幼い頃からジョゼフは体格はよかったものの、心優しく穏やかで、どちらかと言えば大人しい子供だった。暴力的なこととは無縁の性格をしていたのである。
そんなジョゼフがどうして騎士団への入団を決めたのか。本人は言わないが、その理由をトーリは知っていた。
十年前、盗賊のせいで両親を一度に亡くした時、茫然自失となっていたトーリに、当時十才だったジョゼフは言ってくれた。
『大丈夫だよ、トーリ。俺がずっと一緒にいるから。トーリを独りぼっちにはしないから。これからもずっとずっと大好きだから』
その言葉を励みにして、気持ちを切り替え前へ進みだしたトーリが靴屋を継ぐと決めた時、ジョゼフが言ってくれた言葉がもう一つある。
『俺がトーリを守る! いつもトーリが安全でいられるように、悪い奴は俺が皆やっつけてやる。仕入れで街の外に出ても大丈夫なように、盗賊も俺が絶対に捕まえてやる!』
虫も殺せないような心優しい少年だったジョゼフ。
しかし、トーリにそう言った翌日から、元騎士団員だった仕立屋のご隠居から剣を習うようになった。
元々才能があったのだろう。ジョゼフは日を追うごとに逞しくなり、実力をつけていった。
そして五年が過ぎた時、ジョゼフは見事に入団試験に合格してみせたのである。以後も弛まぬ努力を重ね、最年少で正騎士の資格を得ることもできたのだった。
騎士になってからは、仲間の騎士たちが面倒で嫌がる夜勤での街の巡回も、ジョゼフは積極的に行うようになった。大通りはもちろんのこと、裏路地や貧民街をも区別することなく悪事を働く者を目敏く見つけては、強固に取り締まっていった。
今やジョゼフは街でもちょっとした人気者だ。
見目がいいだけでなく剣術の実力に優れ、街の治安を守るために日々奔走を続ける正義感に溢れたジョゼフは、老若男女問わずに大人気だ。
特に年頃の娘たちはジョゼフの恋人の座を得ようとして、あの手この手を使ってアプローチを仕掛けてくる。
しかし、ジョゼフが彼女たちに目を奪われることはない。
ジョゼフの目はいつだってどんな時だって、トーリだけを見つめていた。
「トーリ、好きだ! 恋人になってくれ! そして、いつかは俺と結婚して欲しい!」
耳に胼胝ができるほど聞かされてきた告白。それをトーリがいつも無碍にしていたのには、ちゃんと理由がある。
ジョゼフの自分に向ける想い。あれは生まれたての雛鳥が最初に見たものを親と認識する刷り込みと同じだ。
宿屋の仕事で忙しいカルロとマーラに代わり、幼いジョゼフの面倒をみてきたのはトーリだ。だからジョゼフは家族愛と同等の想いをトーリに抱いている。
けれど実際にはトーリは家族ではない。だから幼いジョゼフは勘違いしてしまったのだ。自分がトーリを大切に想っているのは恋をしているからなんだ、と。
でも、いつかはジョゼフも自分の勘違いに気付く。本当に愛する人に出会い、その人へと向ける想いとトーリへのそれが異なることに気付く日がくる。
相手は麗しい貴族令嬢かもしれないし、かわいい町娘かもしれない。いずれにしても、本当の恋を知ったジョゼフが、男の幼馴染へ向けていた想いが恋ではなかったと知り、思わず苦笑いしてしまう日は必ずくるのだ。
だからジョゼフの告白を受け入れるわけにはいかなかった。好きだと言われ、それをどんなに嬉しいと思っても、拒絶し続けてきた。
けれど。
さすがにもう限界だった。
「ごめんな、俺なんかに縛り付けることになってしまって。でも、絶対におまえを幸せにするからな。それだけは誓うよ」
まるでその囁きを聞いていたかのごとく、ジョゼフが寝言を呟いた。
「ん……トーリ、俺が……守る、から……愛してる……」
トーリの口元に嬉しそうな笑みが浮かぶ。
「優しくてかわいい俺のジョゼフ。俺も愛しているよ。この世で一番おまえを大切に想ってる」
小さな声でそう言った後、トーリは眠るジョゼフの額にキスをした。
腕と足をジョゼフの体にからめるようにしながら抱きつくと、肌の温もりを感じながらそっと目を閉じた。
窓の外から、もう雨音は聞こえない。
明日は晴れるといいな。そうしたら明るい朝の日差しの中でジョゼフに「おはよう」と言おう。そして、食べなかった料理を温め直して、二人で一緒に朝食をとろう。
それはトーリにとって、十年振りに家族と共に食べる食事になる。きっととても楽しくて、幸せな時間になるはずだ。
すごく楽しみだな。
と、そんなことを思いながら、トーリはジョゼフの体温に包まれて眠りの中に落ちていったのだった。
end
◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇
読んで下さってありがとうございました。( ´ ▽ ` )
満足そうな顔をして眠るジョゼフを見つめながら、トーリは嬉しそうに苦笑いする。
「そりゃ疲れるよな。武術大会で何人もの先輩騎士たちと戦ったんだし。昨日まではずっと特訓三昧だったし。本当はおまえ、戦ったりするのは好きじゃないのにな。俺のためにがんばってくれたんだよな」
幼い頃からジョゼフは体格はよかったものの、心優しく穏やかで、どちらかと言えば大人しい子供だった。暴力的なこととは無縁の性格をしていたのである。
そんなジョゼフがどうして騎士団への入団を決めたのか。本人は言わないが、その理由をトーリは知っていた。
十年前、盗賊のせいで両親を一度に亡くした時、茫然自失となっていたトーリに、当時十才だったジョゼフは言ってくれた。
『大丈夫だよ、トーリ。俺がずっと一緒にいるから。トーリを独りぼっちにはしないから。これからもずっとずっと大好きだから』
その言葉を励みにして、気持ちを切り替え前へ進みだしたトーリが靴屋を継ぐと決めた時、ジョゼフが言ってくれた言葉がもう一つある。
『俺がトーリを守る! いつもトーリが安全でいられるように、悪い奴は俺が皆やっつけてやる。仕入れで街の外に出ても大丈夫なように、盗賊も俺が絶対に捕まえてやる!』
虫も殺せないような心優しい少年だったジョゼフ。
しかし、トーリにそう言った翌日から、元騎士団員だった仕立屋のご隠居から剣を習うようになった。
元々才能があったのだろう。ジョゼフは日を追うごとに逞しくなり、実力をつけていった。
そして五年が過ぎた時、ジョゼフは見事に入団試験に合格してみせたのである。以後も弛まぬ努力を重ね、最年少で正騎士の資格を得ることもできたのだった。
騎士になってからは、仲間の騎士たちが面倒で嫌がる夜勤での街の巡回も、ジョゼフは積極的に行うようになった。大通りはもちろんのこと、裏路地や貧民街をも区別することなく悪事を働く者を目敏く見つけては、強固に取り締まっていった。
今やジョゼフは街でもちょっとした人気者だ。
見目がいいだけでなく剣術の実力に優れ、街の治安を守るために日々奔走を続ける正義感に溢れたジョゼフは、老若男女問わずに大人気だ。
特に年頃の娘たちはジョゼフの恋人の座を得ようとして、あの手この手を使ってアプローチを仕掛けてくる。
しかし、ジョゼフが彼女たちに目を奪われることはない。
ジョゼフの目はいつだってどんな時だって、トーリだけを見つめていた。
「トーリ、好きだ! 恋人になってくれ! そして、いつかは俺と結婚して欲しい!」
耳に胼胝ができるほど聞かされてきた告白。それをトーリがいつも無碍にしていたのには、ちゃんと理由がある。
ジョゼフの自分に向ける想い。あれは生まれたての雛鳥が最初に見たものを親と認識する刷り込みと同じだ。
宿屋の仕事で忙しいカルロとマーラに代わり、幼いジョゼフの面倒をみてきたのはトーリだ。だからジョゼフは家族愛と同等の想いをトーリに抱いている。
けれど実際にはトーリは家族ではない。だから幼いジョゼフは勘違いしてしまったのだ。自分がトーリを大切に想っているのは恋をしているからなんだ、と。
でも、いつかはジョゼフも自分の勘違いに気付く。本当に愛する人に出会い、その人へと向ける想いとトーリへのそれが異なることに気付く日がくる。
相手は麗しい貴族令嬢かもしれないし、かわいい町娘かもしれない。いずれにしても、本当の恋を知ったジョゼフが、男の幼馴染へ向けていた想いが恋ではなかったと知り、思わず苦笑いしてしまう日は必ずくるのだ。
だからジョゼフの告白を受け入れるわけにはいかなかった。好きだと言われ、それをどんなに嬉しいと思っても、拒絶し続けてきた。
けれど。
さすがにもう限界だった。
「ごめんな、俺なんかに縛り付けることになってしまって。でも、絶対におまえを幸せにするからな。それだけは誓うよ」
まるでその囁きを聞いていたかのごとく、ジョゼフが寝言を呟いた。
「ん……トーリ、俺が……守る、から……愛してる……」
トーリの口元に嬉しそうな笑みが浮かぶ。
「優しくてかわいい俺のジョゼフ。俺も愛しているよ。この世で一番おまえを大切に想ってる」
小さな声でそう言った後、トーリは眠るジョゼフの額にキスをした。
腕と足をジョゼフの体にからめるようにしながら抱きつくと、肌の温もりを感じながらそっと目を閉じた。
窓の外から、もう雨音は聞こえない。
明日は晴れるといいな。そうしたら明るい朝の日差しの中でジョゼフに「おはよう」と言おう。そして、食べなかった料理を温め直して、二人で一緒に朝食をとろう。
それはトーリにとって、十年振りに家族と共に食べる食事になる。きっととても楽しくて、幸せな時間になるはずだ。
すごく楽しみだな。
と、そんなことを思いながら、トーリはジョゼフの体温に包まれて眠りの中に落ちていったのだった。
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