上 下
176 / 194

87.新たな旅立ちー2

しおりを挟む
「俺は一緒に行くからな!」
「えっ!? やだよ! 折角、ロクと二人っきりなのに!」
 この状況で旅に出るなんて最初は気が進まなかったけど、行くと決めたらロクと二人っきりで動けることが楽しみになった。なのにお邪魔虫が付いてくるなんて冗談じゃない!

「イチヤ、二人切りではありませんよ」
 お師匠様までそんな茶々を入れてくる。
 おまけに呼んでいないのにヨカナーンがやってきて、彼も付いてくると言い出した。

「ちょ、ヨカナーンは本当に足手まといじゃん!」
 冷たい言い方だけれど、ちょっと強いだけの人間を連れて行く訳にはいかないのだ。

「そうだ、ヨカナーンは必要ない。俺が付いて行く」
 後から駆けつけてきたアーロンまでそう言い出したので頭を抱えた。
 ちょっと勘弁してくれよ、本当に収集がつかない。

「アーロンも足手まとい……って言うより邪魔! 目立ってしようがないよ」
「ガーン!」
 大袈裟に慄いているアーロンには申し訳ないけど、そんな図体をしている奴と歩ける訳がないだろう?

「あのさ、あなたたちが強いのはわかってるよ。でもそういう強さは多分、必要ない」
 それにロクの方が強いし、ハヌマーンまでいたら戦力に不足なんてない。

「俺に必要なのはちょっとした幸運とか、人との出会いとか……そういうのをもたらしてくれるものなんだよ」
 神様の加護。それが良い働きをしてくれるといいなと思う。

「だがっ、俺はお前を守ると誓った!」
「わかってる。でも、それは俺には必要ないよ」
 俺はなるべく柔らかくそう言ったんだけど、アーロンは岩みたいなでっかい身体でホロホロと泣き出した。

「ちょ、泣くなよぉ! 色々と見て回るのは楽しいって言ってたじゃん!」
 アーロンは俺がいなくてもみんなと上手くやっていたし、溶け込んでいた。
 ここでの生活を楽しんでいるように見えたのに違ったのか?

「それはお前がいるから、安心して――」
「俺は一生お前の側にはいられないし、面倒も見られないよ?」
「だがっ、主になってくれると言っただろう!?」
 いや、言ってない。言ってないけど、こいつが俺の家来だと思っているなら付いてくるなと言われて凹むのも納得できる。

(俺は誰かの人生に責任を持つのなんて真っ平だけど、領主であるロクの番なら、そういう生き方も理解しなくちゃいけないのかな)
 俺はちょっとだけ反省した。

「アーロン。ちゃんと戻ってくるから、留守を守っていて欲しい」
「……いつ? いつまでだ?」
「う~ん、いつとは約束出来ないけど、きっと戻るよ」
 申し訳ないけど、現時点で約束できるのはそこまでだ。
 他に確かなことは言えない。
 それでもアーロンは頷いてくれた。

「必ず、生きて戻ってきてくれ」
「うん、わかった」
 俺は勿論死ぬ気なんてなかったけど、ちゃんと無事に帰ってこなくっちゃなって改めて思った。

「ヨカナーンも待てるよね?」
 俺はヨカナーンなら当然頷くと思ったんだけど、予想に反してゴネた。
 はっきりとは言わないが、どうやら白妙と離れるのがイヤみたいだ。

 “ナーン、ユメで会いにくる”
神夢かむゆめですね」
 お師匠様が教えてくれたけど、残念ながら俺とロクとハヌマーンにしか聴こえていない。
 姿も全く見えていないようだ。

「え~と、白妙が夢の回路を通って会いに来てくれるって」
「夢? それは現実とは違うのでしょう?」

 “ユメだけどユメじゃない”
「仮想現実っていうか、何処か別の場所で仮に会うみたいな感じかな?」
「それじゃ身体は……触れられない」
 頬を紅潮させて、少し苦しげに言ったヨカナーンを見て察する。

(あ、ヨカナーンは白妙との触れ合いを必要としていたのか)
 白妙の主は俺だけれど、プライベートの趣味とか嗜好品と呼べるようなお楽しみの相手がヨカナーンだった。
 ヨカナーンの方も、人外のものに可愛がられるのが丁度良い癒やしとなったらしく、白妙との関係を楽しんでいた。それを取り上げられるのは……何も持たない彼にはキツイのだろう。

 俺は物凄く迷って、考えて、そしてヨカナーンを薪小屋の裏に呼んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ
BL
【女神の愛の呪い】  この世界の根源となる物語の悪役を割り当てられたエドワードに、女神が与えた独自スキル。  鍛錬を怠らなければ人類最強になれる剣術・魔法の才、運命を改変するにあたって優位になりそうな前世の記憶を思い出すことができる能力が、生まれながらに備わっている。(ただし前世の記憶をどこまで思い出せるかは、女神の判断による)  しかし、どれほど強くなっても、どれだけ前世の記憶を駆使しても、アストルディア・セネバを倒すことはできない。  性別・種族を問わず孕ませられるが故に、獣人が人間から忌み嫌われている世界。  獣人国セネーバとの国境に位置する辺境伯領嫡男エドワードは、八歳のある日、自分が生きる世界が近親相姦好き暗黒腐女子の前世妹が書いたBL小説の世界だと思い出す。  このままでは自分は戦争に敗れて[回避したい未来その①]性奴隷化後に闇堕ち[回避したい未来その②]、実子の主人公(受け)に性的虐待を加えて暗殺者として育てた末[回避したい未来その③]、かつての友でもある獣人王アストルディア(攻)に殺される[回避したい未来その④]虐待悪役親父と化してしまう……!  悲惨な未来を回避しようと、なぜか備わっている【女神の愛の呪い】スキルを駆使して戦争回避のために奔走した結果、受けが生まれる前に原作攻め様の番になる話。 ※悪役転生 男性妊娠 獣人 幼少期からの領政チートが書きたくて始めた話 ※近親相姦は原作のみで本編には回避要素としてしか出てきません(ブラコンはいる) 

悪役令嬢の兄です、ヒロインはそちらです!こっちに来ないで下さい

たなぱ
BL
生前、社畜だったおれの部屋に入り浸り、男のおれに乙女ゲームの素晴らしさを延々と語り、仮眠をしたいおれに見せ続けてきた妹がいた 人間、毎日毎日見せられたら嫌でも内容もキャラクターも覚えるんだよ そう、例えば…今、おれの目の前にいる赤い髪の美少女…この子がこのゲームの悪役令嬢となる存在…その幼少期の姿だ そしておれは…文字としてチラッと出た悪役令嬢の行いの果に一家諸共断罪された兄 ナレーションに 『悪役令嬢の兄もまた死に絶えました』 その一言で説明を片付けられ、それしか登場しない存在…そんな悪役令嬢の兄に転生してしまったのだ 社畜に優しくない転生先でおれはどう生きていくのだろう 腹黒?攻略対象×悪役令嬢の兄 暫くはほのぼのします 最終的には固定カプになります

使用人【モブA】の俺が婚約破棄に巻き込まれた挙句、公爵家の兄弟から溺愛されるなんて聞いてませんけど!?

亜沙美多郎
BL
悪役令嬢ものの漫画の世界にモブとして転生した『モブA』は、婚約破棄の現場を一人の傍観者として見ていた。 しかし公爵家嫡男であるリュシアンから「この人と結婚する」と突然言われ、困惑するモブA。 さらにリュシアンの弟アルチュールが乱入し、「僕もこの使用人が好きだった」と取り合いになってしまった。 リュシアンの提案でキスで勝負することとなった二人だが、それでは決着がつかず、セックスで勝負する流れになってしまう。二人から責められるモブAは翻弄され、愛される喜びを知る……。 前編、中編、後編の3部完結です。 お気に入り登録、いいね、など、応援よろしくお願いします♡ ★ホトラン入り、ありがとうございます! ★ムーンさんで日間短編ランキング1位 週間短編ランキング1位頂きました。

転生したら、ラスボス様が俺の婚約者だった!!

ミクリ21
BL
前世で、プレイしたことのあるRPGによく似た世界に転生したジオルド。 ゲームだったとしたら、ジオルドは所謂モブである。 ジオルドの婚約者は、このゲームのラスボスのシルビアだ。 笑顔で迫るヤンデレラスボスに、いろんな意味でドキドキしているよ。 「ジオルド、浮気したら………相手を拷問してから殺しちゃうぞ☆」

【完結】異世界行ったらセフレができました

七咲陸
BL
四月一日紫苑20歳。突然死んで、突然女神様に『転生と転移のどっちがいい?』と聞かれた。記憶を無くすのが怖くて転移を選んだら、超絶イケメンに出会った。「私の情人になって欲しい」って…え、セフレってことだよね?俺この後どうなるの? 金髪碧眼富豪攻め×黒髪黒目流され受け 不定期更新です r18は※つけてます

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。

処理中です...