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77.元の世界で神に会う−2

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 両親には連絡をすべきだと思うが、失踪したことの言い訳を思い付かない。
 何もかもを放り出していなくなった理由、十ヶ月間も何処に行っていたのか、その間は何をしていたのか筋の通った説明が必要だ。

(下手に言い訳をするより、黙りを決め込んだ方がいいかもしれない)
 嘘を吐き通すことが出来ないなら、いっそ何も言わない方がマシだ。
 俺はその問題を後回しにして、先ずは自分にどの程度の力があるのかを確かめることにする。

(え~と、この世界の素材で神薬は作れるのかな?)
 俺は代わりになりそうな生薬を集め、万能薬と再生薬を作る手順で薬を作ろうとしたけど失敗した。
 素材が駄目なのか、俺の能力が足りないのかはわからないけど、神薬を作れないことに変わりはない。

(じゃあ次は変身術)
 俺は見た目が似ている葉っぱを拾ってきて、それを頭に乗せて手印を結んだ。
 ボフン! と葉っぱが破裂して煙が身を包んだけれど、耳も尻尾も生えていない。
 変身術は失敗だった。

(くっそぅ。後は俺自身の体質しかないな)
 異世界――今いるこの世界の神から貰ったという加護の所為で、俺の身体は甘味になっている。
 獣人が俺の体液を摂取すると滋養強壮剤代わりになり、肉体が強化される。
 そして俺の好意の深さや体液を摂取した回数に左右されると思うんだけど、生き物としての格が上がる。
 だから俺の体液を誰かに与えてみたら変化があるのかもしれないけど――ロク以外の人となんて嫌だ。
 男は勿論、女性とだってそういうことをする気はない。

(自分で舐めてみる?)
 無駄だとは思ったけど、俺は念の為にロクのことを思い浮かべながら自慰行為に耽り、出したものを舐めてみた。

(うぇぇ……甘いけど、流石にいい気分じゃないなぁ)
 俺はげんなりしながら出したものを全て舐め取り、案の定なにも身体に変化がないことを確認してガッカリする。

(よく考えたら、唾液がいつも口の中にあるんだから、俺自身に効くならとっくに効果が出ていた筈だ)
 俺はそのことに思い至らなかった自分に呆れた。

(あとは神様に会う方法でも考えるか? でもこの世界にハヌマーンはいないからなぁ)
 この世界には獣人がいないように、多分、神の眷属もいない。
 聖地やらパワースポットなんてのはあるけど、果たして本当に神に繋がっているのかは怪しい。

(でも他に当てはないんだよなぁ……)
 俺は全く期待しないまま、取り敢えず近くにある神社に行ってみることにした。
 家の中に閉じ籠もっているよりは、外に行った方が何か思い付くかもしれない。
 そんな軽い気持ちでやってきた神社で、俺はこちらの世界の神って奴に会ってしまった。
 そして竜神にならないかという誘いを受けた。

 ***

「竜神んんん?」
 俺は目の前の弥生人みたいな格好をした小さなおっさんを見て、思い切り眉を顰めた。
 これがこの世界の神様だなんて信じられない。

『異世界に行っても儂の加護があるから簡単には神にはなれぬ。だがどういう訳かお主は竜になりかけている』
 え? ちょっと待って、前に白妙がそんなようなことを言っていたけど本当に?
 俺ってば竜になっちゃうの?

『千年ほど修行を積めば成体になれる』
「ブハッ!」
 千年と聞いて思わず噴いた。
 俺は千年も生きる予定はない。

「あのさ、あんたたちの時間的感覚が人と違うのはわかってるけど、千年ったら気が遠くなるほど長い時間だよ。俺には想像もつかない」
『だから儂が力を貸してやる』
「ふぇっ?」
『儂が力を貸し、今すぐに竜神にしてやる』
「…………結構です」
 俺は竜神になったら異世界に転移できるかもしれないと思って少しぐらついたけど断った。

『何故だ?』
「そっちこそ何故です? なんで俺を神様になんてしてくれるの?」
 確かに異世界の神も神を増やしたがっていたけど、そういうのとはちょっと違う気がする。

『もしもお前が異世界で神になったら、儂の面子が立たん。他の神に、人間から神になれる逸材を見逃した間抜けだと思われる』
 あ、面子でしたか。そうですか。

「いやいや、俺は逸材とかじゃないよ。異世界に行って、神の――あんたの加護もあって、運良く向こうの神様と会うことが出来た。それで天界にも行けたし、修行っぽいことも出来たし、お供が付いてくれて竜の鱗が生えた。全部、成り行きだよ」
 俺自身が特別に優れていたとか才能があったとかそういうことではない。

『良い縁を結ぶのも才能だ。次々と掴んだ縁が神にまで繋がっていたら、それは稀有な才能だ』
「へぇー」
 自分じゃどうしようもない才能って気がするけどね。

「まあ、神になれるとしても、覚悟を決めるのに千年くらい掛かりそうだからやっぱり断る。俺はまだ人でいたいんだ」
 でないとロクとも愛し合えないしね。

『異世界には渡さぬぞ?』
「俺が……この世界を嫌っても?」
 脅すような言葉に思わず脅し返してしまった。
 神様に対して大胆な振る舞いだとは思ったけど、余りにも理不尽で腹が立ったんだ。

「あんたは俺が異世界に召喚されるのを止めなかっただろう? 一度向こうに渡しておいて、やっぱり今度は渡さないって、それはないんじゃない?」
 こっちの世界の人間が向こうに行くのが嫌なら、最初から行かせなきゃ良かったんだ。
 俺はもう出会ってしまったんだから、今さら駄目だと言われても聞けない。

「俺があんたやこの世界を恨んだら、それは世界の敵なんじゃない?」
 そんなものを抱え込んで良いのか、と訊いたら神様が溜め息を吐いた。

『世界の敵。そんなものを創り出したら他の神に呪われてしまう』
「だから俺を自由にさせてよ。ひと一人いなくなったところで、世界は痛くも痒くもないだろう?」
 無理に引き止めたところで俺は思い通りにはならないし、それなら放逐した方がいい。
 でも神も面子がかかっている所為か、簡単にはうんと言わなかった。

『しかしタダでくれてやるのは惜しい』
 そんなセコイことを言う神様に、俺は軽い気持ちで提案した。

「だったら対価を要求すれば良いじゃない」
『対価?』
「欲しいものはないの?」
 神様は俺の言葉に俯いて、じっと考え込んでしまった。
 その様子を見て、俺はちょっとだけ拙い事を言ったかもしれないと後悔した。
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