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71.初戦圧勝-1

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 館の一番奥の部屋に隠れるように言われ、もしも危険が迫ってきたら隠し通路から逃げるのだと言い含められた。

「ロクはっ?」
「お館様は、天馬隊の相手をしております」
「俺も一緒に――」
「こちらはあなたを押さえられたらお終いです!」
「……」
 ウィリアムにはっきりと言われて口を噤んだ。
 俺は戦えないし、人質に取られたら例えロクでも手が出せないかもしれない。
 だから見つからないように、敵の手に落ちないようにすることが俺のやるべきことだ。

(わかってるよ、わかってるけど……)
 ロクに全てを押し付けて、自分一人だけが安全なところに逃げるなんて悔しい。

「イチヤ様、私はお館様が負けるなどとは夢にも思っておりません」
「ッ!」
 俺はウィリアムの言葉にハッとした。
 そうだ。ロクが負ける筈がない。
 ただ戦略的撤退とか不測の事態は起こるかもしれないから、俺が足を引っ張ることがないように一人でちゃんと逃げるんだ。
 そうしたらロクもきっと助かる。

「ロクには俺のことを気にせず、自由に動いて貰わないとね」
「それでこそ番様です」
 そうニッコリと笑ったウィリアムに、良いように動かされた気がしなくもないけどお陰でちょっと冷静になれた。
 俺はまず金鍔を人間に化けさせて、ロクの手助けをしてくるように頼んだ。

「幻覚を見せて脅してきてよ。きっとみんな、妖術になんて免疫がないから吃驚するよ」
「我は主殿をお守りせねばならないからダメでござる」
 金鍔にあっさりと拒否されて焦る。

「俺のところには蜂たちがいるし、白妙も戻ってきてくれたから大丈夫だよ」
「白妙はダメでござる。主殿を放って何処かへ行くようなお供は、いらないでござるよ」
 そう言ってぷんぷんと怒っている金鍔を、なんとか宥めなくてはいけない。

「え~と、白妙はヨカナーンのところに行ってたんだよ。どうもヨカナーンのことを気に入ったみたいで――」
『おもちゃ。楽しい』
 ふわふわと白妙がご機嫌な声で言う。
 それを聞いて金鍔は気に入ったんなら仕方がないと言い出した。

「え? なに、どういうこと?」
 二匹が言うには、元々神は依怙贔屓をするものらしい。
 気に入ったもので遊び、力を与えたり便宜を図ってやることもある。

「うっ、やってることが権力者の助平ジジイと変わらない……。あ、それじゃあ、俺のお供になったのも気に入ったからか?」
 俺はヨカナーンと一緒なのかと思いつつ訊いたら、それは違うと言う。

「我らには主人が必要なのでござる」
「必要?」
「お仕えすれば神格が上るでござる」
 どうやら金鍔たちは神としての力が弱く、神格を上げないといずれ消えてしまうのだそうだ。
 そして仕える相手は誰でも良い訳ではなく、心からお仕えしたいと思える相手でないと魂は磨かれない。
 だから天界で俺を見つけた時、金鍔たちは必死に駆け付けた。

「主殿は大人気だったでござるよ」
「へ~、俺は神様じゃないんだけどね」
 神格を得ていない、異世界の神の加護があるだけの俺でも良かったのだろうか?

「関係ないでござる。甘くて良い匂いがして、美味しければ問題ないのでござる」
「はは、美味しければって……」
 一体神の目に俺がどう映っているのか心配だが、仕えることが結局は自分たちの為になるなら裏切られる心配はないだろう。

「金鍔、納得したなら行ってくれるかな?」
「わかったでござる」
 金鍔は人間に化けたままボフンと姿を消して移動した。
 神の眷属なのでそのくらいのことは出来る。

「でも心配だから白妙にも行って貰おうかなぁ」
 まだ不安でそう呟いたら、白妙がぽやんと答えた。

『ナーンが行ったから平気』
「ん? ヨカナーンのことか?」
 白妙がおもちゃにしているヨカナーンだけど、ちゃんと力も与えてあげていたようだ。

「なんの力をあげたの?」
『ナーンがいちばん欲しいもの』
「えっ? 一番欲しいものって?」
 白妙のことだから呪い関連かと思ったら、純粋に腕力だって。

「腕力なんて貰っても、仕方がないだろう」
 俺はそう思ってたんだけど、後からそうではないと思い知ることになる。
 なんせヨカナーンに足りないのは血筋と腕力だけだったんだから。

「イチヤ様、お待ち下さい。そもそも争いにはならない可能性の方が高いです」
「でも、連絡もなしに攻めてきたんだろう?」
 俺はウィリアムの言葉に口を尖らせて反論する。
 天馬に乗ってきたなんて、奇襲されたとしか思えない。

「確かに軍事的な圧は掛けたかったのでしょうが、濡れ衣を着せるにしても査問会もなしにロクサーン侯爵を更迭は出来ません。さて、彼らにお館様を首尾よく連れ出すことが出来ますのかどうか……見ものですね」
 ニコリと笑ったウィリアムが腹黒そう。

「ロクが王城に連れて行かれたらこっちの負け?」
「いえ、中央にはまだお披露目に来た有力貴族も残っていますし、それはそれでやりようがございます。ただ――」
「ただ?」
「イチヤ様を攫われたら、お館様は我慢なさいません」
「……そうかな?」
「はい」
 困ったように笑うウィリアムを見て、俺は眉間にできた皺を揉んだ。
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