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65.王都再来-2(R−15)

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「絶対に落とさないでね!」
 俺はみっともなく天馬にしがみつきながらロクにそう言った。
 天界に行く時に雲に乗ったけれど、その時とは全く違う。
 高いところが怖いって言うよりも、足が浮いていると安定感が無くて落ち着かない。

「チヤ、そんなにしがみつかなくても大丈夫だ」
「大丈夫じゃないよっ!」
 だって幾らロクだって空は飛べないじゃないか!

「そんなに怖いなら、気を逸らせてやろうか?」
「ど、どうやって?」
「お前が他の事を考えられないくらい夢中になることはなんだ?」
「俺が、夢中にって……」
 ロクに後ろから抱え込まれながら訊ねられ、そんなのは一つしか無いと気付く。

「ちょうど自分から足を開いているしな?」
「ちがっ、馬に跨るのにしようがないだろっ!」
「抵抗できない言い訳か?」
「違う!」
「じゃあここで気持ちよくなったりしないな?」
「くふんっ!」
 グリグリと尻の間を指で押されてムズムズしたものが這い上がってくる。
 こんなに不安定な場所で、こんなに怖いのに。なのに刺激されると直ぐに緩む後ろが恥ずかしい。

「ロクッ、危ないから、ヤダ……」
「どうしてだ? こんな状況で感じたりしないんだろう?」

(もうっ! ロクの意地悪!)
 俺はよく動くロクの指から逃れるように腰を浮かせてしまい、そうするとますます強く蕾を押されてナカが疼き出す。
 欲しくてヒクヒクと蠢いてしまうけど、こんなところでそれは危険だし怖い。

「ロク、お願い。怖いよぅ」
 泣きながら頼んだらギュッと深く抱き締められた。

「済まない、戯れが過ぎたな。怖がっているお前が可愛くて、つい意地悪をしたくなった。もうしないから、許してくれ」
「いいよ。着くまでずっとこうしててね」
 頬や身体がギュッとロクに密着していたら大丈夫。怖くない。
 それどころかもう着いてしまったのか? なんて思ってしまったことは内緒だ。

「お披露目のパーティーは夕刻だから、それまでロクサーン侯爵邸で休んでいるといい」
「ん~、教会の様子を見に行きたいんだけど……」
「明日でも良いだろう」
 それはそうなんだけど、ロクだけ働いてると思うと、俺も出来ることはしたいなって思うんだよ。

「エミールから話を聞いているから心配は無いんだけど、どうせなら一度自分の目で見ておきたいと思って」
 直に見たら何か思い付くかもしれないしね。

「だが、丁度いい護衛がいない」
「護衛なんていいよ。誰か道案内を付けてくれたら十分だって」
「いや、そういう訳にはいかない。既にお前のことは一部の貴族に知られていると思っていい」
 まあ、ロクの領地を調べさせたら、見慣れない人間がいる――くらいのことはわかっちゃうよね。
 それに別の線からも情報は漏れているかもしれない。

「手を出してくると思う?」
「まだそこまでの確信はないだろう」
 ロクの言葉に頷く。
 俺が異世界人だとか、甘い匂いがするとかバレていても、まだ犯罪を犯してまで手に入れる価値があるとは思われていない筈だ。

「きっと、そのうち本当に外歩きが難しくなる。だから今のうちに動きたい」
「……わかった。但しお供に警戒させてくれ。いざという時には蜂毒で敵を倒すんだ」
「うん。約束する」
 俺はしっかりとロクに頷いた。
 蜂たちはゴブリンみたいな餓鬼を難なく倒すくらいだから、人なんて楽勝だろう。
 それに街中でも目立たないのがいい。

『白妙も、役に立つ』
 ひょろっと白蛇が袖口から出てきてそう主張した。

『主様、我も闘うでござる』
「金鍔、ありがとう。でも君たちはちょっと目立つかな」
 ロクサーン侯爵領ならまだしも、王都で人目に付くのは避けたい。
 あっという間に噂になっちゃいそうだし。

『では我らは密かに守るでござる』
「うん。頼むね」
 いざとなったら金鍔に变化して貰って、ロクに助けを求めに行かせよう。

「チヤ、決して一人になるなよ」
「はいはい、心配性だな」
 俺は笑いながらロクに頷いてみたけど、まさか本当に襲われるとは思っていなかった。
 それも全く予期せぬ人に、予期せぬ理由で。

 俺は何事もなく教会の視察を終え、お守りのペンダントやステッカーが売れているのを見て満足したところだった。
 そろそろ新しい商品を増やさなくちゃな、なんて思いながら歩いていたら案内役の姿が消えた。

「あれっ? 何処に行ったの?」
 曲がり道なんてあったっけ? と踵を返したら、目の前でブンッと風切り音がした。

「え?」
 強い風に煽られてぺたりと尻餅をつく。
 それから何か重量のあるものが通り抜けたのだと気付き、ゾッとした。

「ちょ、転ばなきゃ当たってたじゃん!」
 危ないなぁもう、と文句を言う俺の周りで蜂たちが攻撃態勢に入っている。
 俺の許可さえあれば、直ぐにでも相手を殺しそうだ。
 でも許可なんて出せる筈はなかった。相手は見知った人間だった。
 俺を憎々しげに見つめていたのは――ロクを裏切った嘗ての部下だった。
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