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55.なんとか納税? 始めました。―1
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「あっまぁ……」
俺は久し振りに口にした甘味に、脳味噌も身体もジン……と痺れるような気がした。
黄金色のシロップは、見た目こそ俺が知っている琥珀色のものとは違ったけれど、あの独特の甘ったるい匂いがしていた。
「これが、甘味……」
「うめぇっ! 口ん中がうめぇ!」
「おおっ……!?」
料理人を始め、作業をしていた男たちは初めて口にした甘味に感動してろくに声も出ないみたいだ。
そして驚いたことに、お供たちもふらふらとメープルシロップに引き寄せられてきた。
『チヤ様、イイ匂い……』
『我も欲しいでござる』
『ブンブンッ!』
お、蜂たちまでもいつもとは様子が違う。
俺は彼らにも一掬いずつメープルシロップを与えてみた。
『おいしい』
『天界にはない味でござる』
『ブブブブブブッ!』
甘露や仙桃も口にしたことのあるお供たちがそう言って恍惚とした表情を見せる。
下界の甘味には、天界にはない魅力があるに違いない。
俺は彼らの様子を見て嬉しくなり、料理長に滔々と捲し立てた。
「料理長、どお? 煮ている時からすっごくイイ香りがしてたけど、口にしたらうっとりするような香りが鼻と口いっぱいに広がるよねっ! 肉料理のソースとか煮込み料理に使っても味に深みが出て美味しいんだけど、やっぱりホットケーキにたっぷりと掛けて食べるのが至高だよ。スポンジの生地が浸るくらい染み込んだところが蕩けるようで美味しいんだ。俺はバターと一緒に食べるけど、マスカルポーネチーズを添えても美味しい。その場合の飲み物はコーヒーがいいね。紅茶ではやっぱり弱い。よく行く喫茶店のマスターはラム酒を垂らすと最高だと言ってたけど、俺は無い方がいい。うんまぁ、取り敢えずはチーズやクリームと合わせてみて欲しいな」
口の中を涎でいっぱいにしながらそう言ったら、ちょっと待って下さいと料理長に止められてしまった。
「イチヤ様、ちょっと待って下さい! 我々はまだ、甘い味に慣れていないんです。何かと組み合わせるなんて考えられない」
うひゃあ、味の組み合わせが想像も出来ないって、そうか、そうかも……。
俺だって初めて飲んだ酒を組み合わせてカクテルを作れと言われたら、きっと手も足も出ない。
彼らはまだこの味覚に慣れる段階なんだ。
「えっと……じゃあ、まずはパンに掛けるのと飲み物に入れるところから始めよう。ロクは好まないかもしれないけど、アルテミス嬢なら気に入るんじゃないかな。それで様子を見てみよう」
まだ200mlくらいの小瓶に5本しか出来ていないので、館の人たち全員には行き渡らない。
当面は料理人たちで試行錯誤してアルテミス嬢に味を見て貰い、後は密かに生産量を上げていこう。
多分、此処だけでなく他の土地からも楓モドキの樹は見つかるだろう。
となれば採取方法だって加工の仕方だっていずれは広まる。それはそれで望むところだ。
ただその前に、ロクサーン侯爵領の特産品にしてしまいたい。此処が発祥の地だと、本家本元だと広く知らしめたい。
「俺たちはメープルシロップの取り扱いに習熟しなくちゃいけない。それで何処にも負けない名産品を作るんだ」
「お任せ下さい! きっとお館様のお役に立ってみせます」
張り切った料理長を見て俺はにこりと笑う。
メープルシロップが手に入って、とってもとっても嬉しい。
独特の風味はあるけれど色んな料理に使えるし、お菓子だって作れるようになるだろう。
(ただ量が少ない。とても庶民の口には入らない)
それは仕方がないことだとはわかる。
十分な量が確保できるまでは値段が下がらないだろうし、樹液は植え付けて直ぐに収穫できるサトウキビやテンサイとは違う。
だからメープルシロップの生産と同時に、他の甘味を手に入れられるようにもっと信仰心を集めなくちゃいけない。
(でも信仰心ってどうやったら集まるの?)
信者の数を増やす? うん、数は力だよな。
それから深く盲目的に信じさせる? でも個人的には狂信者の集まりってのは怖い。
あ、だから宗教って道徳臭いのかな? 俺も他の宗教を弾圧したり、信じるものの為なら殺したり自殺してもいいなんてのは嫌だしな。
みんな仲良く~とは言わないけど、何をしてもいい理由にはさせない。
「俺はただ、神様が本当にいるって思って欲しいだけなんだ」
それで辛い時は縋ったり、嬉しい時は感謝したり、良い出会いがあったら神様のご縁かな~なんて思ってみたりして。
もっと身近で、それでいて決して交わらない丁度良い距離の付き合いが出来たら良いと思う。
「神様と丁度良い付き合いって、友達かよ!」
思わず突っ込みを入れたら後ろから声が掛かった。
俺は久し振りに口にした甘味に、脳味噌も身体もジン……と痺れるような気がした。
黄金色のシロップは、見た目こそ俺が知っている琥珀色のものとは違ったけれど、あの独特の甘ったるい匂いがしていた。
「これが、甘味……」
「うめぇっ! 口ん中がうめぇ!」
「おおっ……!?」
料理人を始め、作業をしていた男たちは初めて口にした甘味に感動してろくに声も出ないみたいだ。
そして驚いたことに、お供たちもふらふらとメープルシロップに引き寄せられてきた。
『チヤ様、イイ匂い……』
『我も欲しいでござる』
『ブンブンッ!』
お、蜂たちまでもいつもとは様子が違う。
俺は彼らにも一掬いずつメープルシロップを与えてみた。
『おいしい』
『天界にはない味でござる』
『ブブブブブブッ!』
甘露や仙桃も口にしたことのあるお供たちがそう言って恍惚とした表情を見せる。
下界の甘味には、天界にはない魅力があるに違いない。
俺は彼らの様子を見て嬉しくなり、料理長に滔々と捲し立てた。
「料理長、どお? 煮ている時からすっごくイイ香りがしてたけど、口にしたらうっとりするような香りが鼻と口いっぱいに広がるよねっ! 肉料理のソースとか煮込み料理に使っても味に深みが出て美味しいんだけど、やっぱりホットケーキにたっぷりと掛けて食べるのが至高だよ。スポンジの生地が浸るくらい染み込んだところが蕩けるようで美味しいんだ。俺はバターと一緒に食べるけど、マスカルポーネチーズを添えても美味しい。その場合の飲み物はコーヒーがいいね。紅茶ではやっぱり弱い。よく行く喫茶店のマスターはラム酒を垂らすと最高だと言ってたけど、俺は無い方がいい。うんまぁ、取り敢えずはチーズやクリームと合わせてみて欲しいな」
口の中を涎でいっぱいにしながらそう言ったら、ちょっと待って下さいと料理長に止められてしまった。
「イチヤ様、ちょっと待って下さい! 我々はまだ、甘い味に慣れていないんです。何かと組み合わせるなんて考えられない」
うひゃあ、味の組み合わせが想像も出来ないって、そうか、そうかも……。
俺だって初めて飲んだ酒を組み合わせてカクテルを作れと言われたら、きっと手も足も出ない。
彼らはまだこの味覚に慣れる段階なんだ。
「えっと……じゃあ、まずはパンに掛けるのと飲み物に入れるところから始めよう。ロクは好まないかもしれないけど、アルテミス嬢なら気に入るんじゃないかな。それで様子を見てみよう」
まだ200mlくらいの小瓶に5本しか出来ていないので、館の人たち全員には行き渡らない。
当面は料理人たちで試行錯誤してアルテミス嬢に味を見て貰い、後は密かに生産量を上げていこう。
多分、此処だけでなく他の土地からも楓モドキの樹は見つかるだろう。
となれば採取方法だって加工の仕方だっていずれは広まる。それはそれで望むところだ。
ただその前に、ロクサーン侯爵領の特産品にしてしまいたい。此処が発祥の地だと、本家本元だと広く知らしめたい。
「俺たちはメープルシロップの取り扱いに習熟しなくちゃいけない。それで何処にも負けない名産品を作るんだ」
「お任せ下さい! きっとお館様のお役に立ってみせます」
張り切った料理長を見て俺はにこりと笑う。
メープルシロップが手に入って、とってもとっても嬉しい。
独特の風味はあるけれど色んな料理に使えるし、お菓子だって作れるようになるだろう。
(ただ量が少ない。とても庶民の口には入らない)
それは仕方がないことだとはわかる。
十分な量が確保できるまでは値段が下がらないだろうし、樹液は植え付けて直ぐに収穫できるサトウキビやテンサイとは違う。
だからメープルシロップの生産と同時に、他の甘味を手に入れられるようにもっと信仰心を集めなくちゃいけない。
(でも信仰心ってどうやったら集まるの?)
信者の数を増やす? うん、数は力だよな。
それから深く盲目的に信じさせる? でも個人的には狂信者の集まりってのは怖い。
あ、だから宗教って道徳臭いのかな? 俺も他の宗教を弾圧したり、信じるものの為なら殺したり自殺してもいいなんてのは嫌だしな。
みんな仲良く~とは言わないけど、何をしてもいい理由にはさせない。
「俺はただ、神様が本当にいるって思って欲しいだけなんだ」
それで辛い時は縋ったり、嬉しい時は感謝したり、良い出会いがあったら神様のご縁かな~なんて思ってみたりして。
もっと身近で、それでいて決して交わらない丁度良い距離の付き合いが出来たら良いと思う。
「神様と丁度良い付き合いって、友達かよ!」
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