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54.甘い御褒美―1
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最初はなるべく目立たないように、ロクの領地内だけで静かに浸透していったらいいと思っていた。
でも軟膏も寝癖直しも思ったよりもずっと重宝だったみたいで、あっという間に領地外にも広がっていきとうとう王都にまでその噂が届いてしまった。
ロクはモリスから問い合わせを受け、これまでよりも詳細な報告を求められた。
「軟膏と寝癖直しが高額で転売されているらしい」
「転売は駄目だよ! 個数制限をしなくっちゃ!」
思わず元の世界の悪しき転売ヤーを思い出していきり立った俺に、王都まで運ぶと輸送費も保管料も掛かるから一概に悪とは言えないのだとロクが言った。
「とは言え、余り酷いのは捕まえた方がいいな」
教団にまで悪評がついてしまう、と言いロクが何やら対応を考えてくれるようなので任せる。
それよりも俺は城への回答の方が気になった。
「大丈夫だ。モリスは疑っている訳ではない」
「でも、俺が精力剤になるって知ってるんだろ? ロクの領地から出回っている軟膏と、あと新しい宗教団体を結び付けられたら……」
「ああ。しかし私の姿を目にしていないからな。甘味を摂ると元気が出るようだと言ったところで、まさかこれ程の効果があるとは思っていないだろう」
「まぁ、天界で修行したからでもあるけどね」
「お前がいなければ、そもそも天界に入ることも出来なかった」
それは確かにその通りだろう。
ロクは俺を摂取することで魂の格が上がっていた。
でもロクじゃなければ俺だって甘くならなかった。
「なあ、これって凄い巡り合わせじゃね? 俺がここに喚ばれなければ、あんたと出会わなければ天界に行くこともなかった。そこで大神が人を見限ろうとしていることも、代わりに獣神がやってきて神霊を奪おうとしていることも知ることはなくて、何の備えも抵抗も出来なかった筈だ」
「私たちの出会いが世界を救うと?」
「や、そんな大したもんじゃないけど、ただ出会ったことに大きな意味があるなって……」
俺は自分が女の子みたいなことを言っていると気付いて恥ずかしくなった。
でもロクは素直に感心したみたいだ。
「天界も下界も巻き込んだ出会いか……。確かに凄いな」
甘ったるい視線で見つめられて体温が上がる。
俺はそんなつもりじゃなかったのに。
「えっと……だから、俺たちがどうにかしなくちゃなって思うんだ。この出会いに意味があって、力も手段もあるなら俺の仕事だって気がするんだ」
自分がやるように御膳立てされた、導かれた気がする。誰に? それはお師匠様でも大神でもない。もっと大きな存在。宇宙の摂理とかそういうんでもいい。
「そこまで壮大な仕事に、報酬が甘味だけでいいのか?」
ロクに苦笑されて俺は何故か益々恥ずかしくなった。
それで赤い顔を隠すように俯いて答える。
「甘味、だけじゃないよ。あんたの隣にいられることも、立派な報酬だ」
出会えたから、その結果も引き受ける。
ロクに出会えたことを感謝しているから、報いたいと思う。
それはおかしなことだろうか?
「チヤ……召喚されたのがお前で良かった。私もこの出会いに感謝する」
そっと頬を手のひらで包まれ、優しく上を向かされて唇を啄まれる。
長い口付けは俺をうっとりとさせ、恥ずかしいなんて気持ちはどこかに飛んでしまった。
「チヤ、私はもう城に戻る気はない。交渉に赴くことはあるかもしれないが、中央の政治に興味はない」
「それってどういう意味?」
「つまり、私はこれから一生をお前の為に費やす」
「俺の為に費やすって……えぇぇ!?」
俺は吃驚して口をポカンと開けた。
そりゃあ、城を出てからずっとロクは俺の為に動いてくれてたけれど、それは国に命じられた仕事だったからで。
ロクが自発的に俺の側にいてくれるっていうのは、それは――。
「俺に惚れたか」
「ああ。チヤに人生ごと惚れた」
ニヤリと笑われて目の奥が熱くなった。
これまでいっぱい親切にされたし優しくして貰った。
エッチなこともされたし好きだとも言って貰えた。
でもいま初めてロクから近付いてきてくれたと感じる。
ずっと一緒にいられるんだって実感している。
「ロク……ありがとう。絶対に後悔はさせない」
俺はロクを失望させることのないように頑張るからね。
そう思ったらぐんぐんと力が湧いてきて、思わず笑みが溢れた。その時。
“ピロリロリ~ン♪”
唐突に頭の中にチャイムが鳴り響き、次いで大神の声が聴こえてきた。
『神への信仰心を認める。約束の褒美を与えるので受け取るが良い』
(え、約束の褒美?)
俺はちょっと戸惑ったけど、直ぐに甘味のことだと思い当たる。
そして金鍔たちに案内されて、近くの林に足を運んだ。
でも軟膏も寝癖直しも思ったよりもずっと重宝だったみたいで、あっという間に領地外にも広がっていきとうとう王都にまでその噂が届いてしまった。
ロクはモリスから問い合わせを受け、これまでよりも詳細な報告を求められた。
「軟膏と寝癖直しが高額で転売されているらしい」
「転売は駄目だよ! 個数制限をしなくっちゃ!」
思わず元の世界の悪しき転売ヤーを思い出していきり立った俺に、王都まで運ぶと輸送費も保管料も掛かるから一概に悪とは言えないのだとロクが言った。
「とは言え、余り酷いのは捕まえた方がいいな」
教団にまで悪評がついてしまう、と言いロクが何やら対応を考えてくれるようなので任せる。
それよりも俺は城への回答の方が気になった。
「大丈夫だ。モリスは疑っている訳ではない」
「でも、俺が精力剤になるって知ってるんだろ? ロクの領地から出回っている軟膏と、あと新しい宗教団体を結び付けられたら……」
「ああ。しかし私の姿を目にしていないからな。甘味を摂ると元気が出るようだと言ったところで、まさかこれ程の効果があるとは思っていないだろう」
「まぁ、天界で修行したからでもあるけどね」
「お前がいなければ、そもそも天界に入ることも出来なかった」
それは確かにその通りだろう。
ロクは俺を摂取することで魂の格が上がっていた。
でもロクじゃなければ俺だって甘くならなかった。
「なあ、これって凄い巡り合わせじゃね? 俺がここに喚ばれなければ、あんたと出会わなければ天界に行くこともなかった。そこで大神が人を見限ろうとしていることも、代わりに獣神がやってきて神霊を奪おうとしていることも知ることはなくて、何の備えも抵抗も出来なかった筈だ」
「私たちの出会いが世界を救うと?」
「や、そんな大したもんじゃないけど、ただ出会ったことに大きな意味があるなって……」
俺は自分が女の子みたいなことを言っていると気付いて恥ずかしくなった。
でもロクは素直に感心したみたいだ。
「天界も下界も巻き込んだ出会いか……。確かに凄いな」
甘ったるい視線で見つめられて体温が上がる。
俺はそんなつもりじゃなかったのに。
「えっと……だから、俺たちがどうにかしなくちゃなって思うんだ。この出会いに意味があって、力も手段もあるなら俺の仕事だって気がするんだ」
自分がやるように御膳立てされた、導かれた気がする。誰に? それはお師匠様でも大神でもない。もっと大きな存在。宇宙の摂理とかそういうんでもいい。
「そこまで壮大な仕事に、報酬が甘味だけでいいのか?」
ロクに苦笑されて俺は何故か益々恥ずかしくなった。
それで赤い顔を隠すように俯いて答える。
「甘味、だけじゃないよ。あんたの隣にいられることも、立派な報酬だ」
出会えたから、その結果も引き受ける。
ロクに出会えたことを感謝しているから、報いたいと思う。
それはおかしなことだろうか?
「チヤ……召喚されたのがお前で良かった。私もこの出会いに感謝する」
そっと頬を手のひらで包まれ、優しく上を向かされて唇を啄まれる。
長い口付けは俺をうっとりとさせ、恥ずかしいなんて気持ちはどこかに飛んでしまった。
「チヤ、私はもう城に戻る気はない。交渉に赴くことはあるかもしれないが、中央の政治に興味はない」
「それってどういう意味?」
「つまり、私はこれから一生をお前の為に費やす」
「俺の為に費やすって……えぇぇ!?」
俺は吃驚して口をポカンと開けた。
そりゃあ、城を出てからずっとロクは俺の為に動いてくれてたけれど、それは国に命じられた仕事だったからで。
ロクが自発的に俺の側にいてくれるっていうのは、それは――。
「俺に惚れたか」
「ああ。チヤに人生ごと惚れた」
ニヤリと笑われて目の奥が熱くなった。
これまでいっぱい親切にされたし優しくして貰った。
エッチなこともされたし好きだとも言って貰えた。
でもいま初めてロクから近付いてきてくれたと感じる。
ずっと一緒にいられるんだって実感している。
「ロク……ありがとう。絶対に後悔はさせない」
俺はロクを失望させることのないように頑張るからね。
そう思ったらぐんぐんと力が湧いてきて、思わず笑みが溢れた。その時。
“ピロリロリ~ン♪”
唐突に頭の中にチャイムが鳴り響き、次いで大神の声が聴こえてきた。
『神への信仰心を認める。約束の褒美を与えるので受け取るが良い』
(え、約束の褒美?)
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