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52.光るあなた―1

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 傷薬の軟膏を、最初に顔に塗ろうと思った女性は凄いと思う。
 再生薬から作ってるから、そりゃあ顔に塗ったら綺麗にはなるけどね。神様たちだって美容目的で使ってるし。
 でも下界では薬として売り出したのにねぇ。

「とにかく凄い売れ行きで……」
「値段も安いですからね」
 販売係に雇った二人の人間が口々にそう言った。
 人間と間近に接するのは久し振りで、ちょっと緊張する。

「肝心の怪我や肌荒れの人はいる? 勿論、人間だけじゃなくて獣人も含めて」
「獣人は余りいません。毛に付くのが嫌みたいです」
 クリーム色っぽい金髪をしたノルンがそう答えた。

「クリームタイプか、ミストで寝癖直し~みたいのがいいのかな?」
「寝癖? 確かに獣人は毛並みを気にしますね。でも寝癖って」
 俺の言葉にキャラキャラと笑ったのは褐色の髪色をした少年でマリクといい、この二人は兄弟だった。

「おい、失礼だぞっ!」
 兄のノルンが弟のマリクの態度を嗜めた。
 生真面目だなぁとちょっと呆れる。

「ま、冗談はともかく、獣人だって皮膚病になったり、怪我はするだろう? 効き目があるとわかれば使ってくれると思うんだけどな」
 俺は動物を飼ったことがないのでよくわからないけど、毛があってもその下の皮膚が健康とは限らないよな?
 人間みたいに皮膚病や肌荒れ、アレルギーもあるんじゃないの?

「人間にしか効かないと思われているのかもしれませんね。それか効果が出るまで塗り続けるのはしんどいとか……」
 そうか! 一回だけならともかく、ベタッとして塗り心地の悪いものを治るまで何度も付けるのが嫌になっちゃうのか。
 それに人間と違って肌が見えていないから、例え効果があったとしても周りに伝わらないんだな。

(かといって剃り上げる訳にはいかないし……)
 汗疹のできた犬じゃあるまいし、毛を剃らせてくれる獣人なんて存在しない。
 それは人間に真っ裸で歩けって言うようなものだ。

「イチヤ様、寝癖直しとして売ったらいいんですよ」
 マリクがあっけらかんとそう言ってきた。
 それをノルンが慌てて諌める。

「おい――」
「寝癖直しって言い訳があればきっと買いますよ!」
「……ん?」
 俺はマリクの言葉に首を傾げる。

「それは、軟膏を買うのは体面が悪いとかそういうこと?」
「はい。人間たちが付けてるベタベタを、自分たちが付ける訳にはいかない。そう思う獣人は多いと思います」
 う~ん、そんなつまらない見栄を張るかなぁと俺は半信半疑だったけど、実際に使い心地は悪いのだろうから改良の余地はある。

「じゃあジェフに言って、ミストかスプレータイプを作って貰うよ。それで館の人たちにも試して貰おう」
 俺は早速、試作品を作らせてロクのところに持っていった。

 ***

「ロク! ブラッシングをさせて!」
「ブラッシング? 私には必要ないぞ」
 馬型獣人のように鬣があったり、長毛種の犬型獣人でない限りはブラッシングなんてしない。知ってる。でも。

「再生薬をスプレーして豚毛のブラシで梳かしたら、綺麗になると思うんだよ。確認したいんだってばぁ!」
「……言っておくが、身体を撫で擦る行為は愛撫に当たるぞ」
「え? もしかしてエッチな気分になっちゃうの?」
 一応、教会で売るのにそれはマズイ。

「こっちでは、グルーミングの習慣ってないの?」
「無くはないが……相手次第だな」
 ニヤリと笑われて顔が熱くなる。
 なんだよ、俺がロクをエッチな目で見てるって言うのかよ。
 まぁ、見てるけどさ。

「多分さぁ、再生薬だからハゲ――薄毛の人にも効くと思うんだよ。勿論、レベル一を薄めてるから即効性はは無いと思うけど」
「即効性がなければ付けないんじゃないか?」
「だからどうなるか試させてって」
 俺は勝手にロクの耳の後ろの毛を掻き分けてシューッとスプレーを吹き掛ける。
 それから地肌を揉み込むように指先を滑らせた。

 “グルルッ……”
 ロクの喉からゴロゴロとした音が聴こえ、ロクが気持ち良さそうに目を瞑る。ちょっと可愛い。

「んっと、まずは全体に付けていくね」
 そう言って俺は首の後ろを通って肩や背中にも広げていく。
 邪魔なシャツは剥ぎ取った。

(ロクの筋肉って凄いんだぁ)
 ピタリと張り付いたような毛のうねりからも筋肉質な肉体は見て取れるんだけど、触るとまたムキッと盛り上がった感触が凄い。

(でも筋肉マッサージじゃないからね。今回は地肌を撫でるだけ)
 俺は手を滑らせてロクの腰の触れるところギリギリまで薬を塗り込む。
 ちょっと妖しい気分になってしまったのは内緒だ。
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