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51.プロジェクト始動―1

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 竜の鱗は尾てい骨の上辺りに付いていた。
 白妙が竜になれたら、主の俺も竜体に変化出来るらしい。

「金鍔の妖術とどう違うの?」
 そう訊ねた俺に、白妙の代わりに金鍔が答えてくれる。

『変化の術は姿を真似るだけでござる。竜に化けても空は飛べぬし、水も操れないでござる』
「なるほど」
 白妙がパワーアップしたら、その力の一部を俺も使えるのか。
 流石にこの小さな白妙が竜になるのはだいぶ先だろうけど、楽しみだな。

「竜になったら一緒に飛ぼうな」
 呑気にそんな約束をしていたら、それは難しいかもしれないとロクが言い出した。

「どうしてだよ?」
「……」
 ロクは無言のまま俺をシーツでぐるぐる巻きにし、満足げに頷いてから口を開いた。

「この世界に竜の獣人は存在しない。竜とは神の一種だろう」
「つまり?」
「つまりその蛇が竜になるというのは神格を得るも同然で、異世界の神の加護を持つチヤが恩恵を受けられるかわからない」
 ん~、縄張り争いだっけ?

「でも白妙は素質があるって言ったよ?」
 俺とロクが揃って白妙を見たら、白妙は恥ずかしそうにチロチロと舌を閃かせながら言った。

『チヤ様、ソシツ、ある。水の属性』
 うん? 水の属性?
 よくわからないけど、適性があるから他の神の加護があってもいけるかもってこと?
 神格を得るのは白妙で、俺はおこぼれに与るだけだから平気とか?
 勝手に解釈するならそういうことだし、そもそもロクの方が正しいのかもしれないし。

「まあ、その時がきてから考えるよ。鱗くらいなら大した影響はないだろう? その、ロクが弄らなければ」
 俺は自分が派手に反応してしまったことを思い出して顔が熱くなった。

「少し触っただけなのだがな」
「……少しもダメ」
「わかった。鱗に触るのは止めよう」
 小さくフッと息を漏らしたロクからむゎっと甘い空気が拡がって恥ずかしい。
 なんだろう、身の置き所がなくてムズムズする。
 こんな風にロクの雰囲気が和らいだのはいつからだっけなぁ。
 最初は嫌々なのを隠しもしなかったのに。

「あの獣人と組むなら、お供にしっかりと警戒させろ。いざとなったら守って貰え」
 シャツを直しながらそう言ったロクの顔を慌てて見上げる。

「いいの?」
「必要なのだろう?」
「うん。彼は絶対に役に立つ」
「ならば仕方ない。せいぜいお目付け役に期待する」

『チヤ様、護る。だいしょうぶ』
『お任せ下され。我が妖術で追い払うでござる』
『ブンブン』
 いや、追い払っちゃ困るんだけど。
 あと蜂たちはブンブンしか言ってないよね。

「チヤ、いざとなったらお前も立ち向かえよ」
「……頑張る」
 俺がチキンでヘタレなのは自分が一番よく知ってる。
 ビビリだし戦闘力は相変わらずゼロだ。
 でもロク以外なんて絶対に嫌だから死ぬ気で抵抗するよ。

「あの男はもう帰ったと思うが、ジェスに話を聞きに行くか?」
「うん」
 俺は服を着てロクとジェスのところへ行った。
 ロクが言ったようにエミールは既に帰っていた。

「ジェス、任せちゃってごめんね。どうだった?」
「大乗り気でした」
 うん、そうだろうね。エミールの正体がなんであろうと、舞台は大きい方がやり甲斐があるだろう。

「まず反乱組織の人間を雇います。彼らに軟膏を売り歩いて貰い、信仰を広めて貰います」
「軟膏が出来たの?」
「ええ。イチヤ様から頂いた、レベル一の再生薬で五つほど作れました。こちらは出来れば量産をお願いします」
「わかった。万能薬の方はどう?」
「イチヤ様の仰るような乾いた飲み薬は難しかったのですが、なんとか一口で飲み込めるサイズの丸薬が作れました。こちらは完全に乾くと効能が弱くなるので、袋に入れて二週間ほどしか持ちません」
「それはこれからの課題だね。引き続きお願いしてもいい?」
「薬に関しては私も監督しますが、実務の責任者はジェフに任せようと思います」
「いいんじゃない。じゃあそこも人を増やさなくちゃね」
「経典の方はイチヤ様とメルのお二人でどうにかなりますか?」
「ん~、もう一人監修が欲しい。出来れば獣人がいいんだけど――」
「イチヤ様、私に手伝わせて下さい」
 そう言って入ってきたのはウィリアムだった。
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