85 / 194
㊷真の敵−2
しおりを挟む
「ちょっと待ってよ! それじゃあ獣神は自分たちが繁殖する為に人を利用したって事? お師匠様が神から人を救うって言ったのは、大神からではなく獣神から人を救うって事?」
「そうです。大神や他の神があなた方を見捨てても、私は見捨てる事が出来ません。人を救う神ですから」
……待ってよ。そうしたら獣神が襲ってきた時に危険なのは獣人だけで、人間は無事でいられる? 神霊を失くした獣人がどういう状態になるのかはわからないけど、今と同じではいられないだろう。きっとこれまでとは全く立場が逆になる。この国の国王も貴族も一気にその地位を失う。そしてこれまで虐げられていた人間たちが上に立ったら――。
俺は心の底からゾッとした。
この国で生まれた訳でも差別を受けた訳でもない俺にだってわかる。
(絶対にやり返される!)
「ロクッ!」
「わかってる。自業自得の一言では済まない。余りにも歪みが大きすぎる」
そうだよ、そんな急激な変化は影響が大きすぎる。
それに貴族には少なくても、平民には獣人と人間のカップルなんて沢山いる。
家族の中で神霊を持つ兄と持たない弟がいる事だって珍しくない。
それらが全て崩れ去るんだ。
「お師匠様、神霊を奪われる訳にはいかない!」
「ええ、幾つか獣神たちの思惑が外れたところもあります。まず、全てが獣人とはならずに人間が残った事。それから神霊と獣人の結びつきが思ったよりも深い事。神々が中々下界を諦めなかった事などです」
「下界を諦めなかった? でも興味が無いんでしょう?」
「大神や一部の神は興味を無くしていますが、それまでに介入しようとはしました。神霊を持つ獣人に神が影響を与える事は出来ませんが、その代わりに獣から神を作ろうとしたり、人間から神を作ろうとしましたが上手くいきませんでした。私は獣神ではなく私たち人型の神を欲する地があれば、そこに新たな人間界を作るのも手だと思いました」
……そっか。お師匠様からすれば今の獣人や人間を保護するよりも、新しい人が一定数いればそれで良かったのか。薄情に見えるけど、種を保護するという観点からは間違っちゃいないのかもな。
「布教活動は余り上手く行かなかったの?」
「イチヤ、私だって下界を放棄したい訳では無いのです。獣人も人間も同じ人ですから、出来ればどちらも救いたい」
その割には獣人に当たりがキツイ気がするけど、それは姿が獣神を思い出させるからかもしれない。
自分たちではなく獣神を人間が受け入れたという事実が悔しかったからかもしれない。
神とはいえ、感情がない訳ではないものな。
「それで、大神は神格の高い神だから、大神が天界にいるうちは獣神が戻ってこられない、手を出せないって事ですか?」
「そうです。最初に獣神たちが来た時も、人間が受け入れなければこんな事にはならなかったのですが……」
いやでもそれはしようがないんじゃん? 獣に襲われて為す術がなかったのかもしれないし、ロクと一緒で凄く気持ちのいいちんこを持ってて抵抗できなかったのかもしれないし、単純に強くてカッコイイって思ったのかもしれない。神霊を発生させてそれを刈り取る圃場にしようと企んでいたなんて、誰も思い付かないって。
「獣人も人間も獣神の血を引いていますから、私たちの影響は受けません。ですから甘いものを与えても無駄だと、大神は取り上げてしまわれたのです」
なるほど。甘いものを摂取していたら、そして獣神の血が入ってなければ神格が上がったかもしれないのか。
「俺は純粋な人間だから、天界の甘いものを食べたら神格を得るかもしれない」
「そうです」
「でも神格を得たら、ロクに影響を与える事はなくなる。何故なら神の力だから」
「恐らく」
「俺が……ロクの食べ物じゃなくなったら、下界に戻っても狙われる事はなくなるかもしれない。それにもしかしたら、最後までしても強制送還されないかもしれない。ロクは神格を得たから俺を摂取しなくても強靭だろうし、今なら俺が神格を得ても問題はない」
「……」
でもお師匠様はそうだとは言わなかった。
それで俺はやっぱり、と溜め息を吐いた。
「おかしいと思ったんだよ。俺には無理な方法ばかりで修行して、最初から神格を上げるつもりはなかったんですね?」
「ええ」
「どうしてですか? 何の問題があるんです?」
俺はロクと一緒なら人間を辞めたって構わない。でもお師匠様は問題があると言う。それは一体何故だろう?
「それはそなたが異世界人だからです」
お師匠様の言葉に、俺は思わず固まった。
「そうです。大神や他の神があなた方を見捨てても、私は見捨てる事が出来ません。人を救う神ですから」
……待ってよ。そうしたら獣神が襲ってきた時に危険なのは獣人だけで、人間は無事でいられる? 神霊を失くした獣人がどういう状態になるのかはわからないけど、今と同じではいられないだろう。きっとこれまでとは全く立場が逆になる。この国の国王も貴族も一気にその地位を失う。そしてこれまで虐げられていた人間たちが上に立ったら――。
俺は心の底からゾッとした。
この国で生まれた訳でも差別を受けた訳でもない俺にだってわかる。
(絶対にやり返される!)
「ロクッ!」
「わかってる。自業自得の一言では済まない。余りにも歪みが大きすぎる」
そうだよ、そんな急激な変化は影響が大きすぎる。
それに貴族には少なくても、平民には獣人と人間のカップルなんて沢山いる。
家族の中で神霊を持つ兄と持たない弟がいる事だって珍しくない。
それらが全て崩れ去るんだ。
「お師匠様、神霊を奪われる訳にはいかない!」
「ええ、幾つか獣神たちの思惑が外れたところもあります。まず、全てが獣人とはならずに人間が残った事。それから神霊と獣人の結びつきが思ったよりも深い事。神々が中々下界を諦めなかった事などです」
「下界を諦めなかった? でも興味が無いんでしょう?」
「大神や一部の神は興味を無くしていますが、それまでに介入しようとはしました。神霊を持つ獣人に神が影響を与える事は出来ませんが、その代わりに獣から神を作ろうとしたり、人間から神を作ろうとしましたが上手くいきませんでした。私は獣神ではなく私たち人型の神を欲する地があれば、そこに新たな人間界を作るのも手だと思いました」
……そっか。お師匠様からすれば今の獣人や人間を保護するよりも、新しい人が一定数いればそれで良かったのか。薄情に見えるけど、種を保護するという観点からは間違っちゃいないのかもな。
「布教活動は余り上手く行かなかったの?」
「イチヤ、私だって下界を放棄したい訳では無いのです。獣人も人間も同じ人ですから、出来ればどちらも救いたい」
その割には獣人に当たりがキツイ気がするけど、それは姿が獣神を思い出させるからかもしれない。
自分たちではなく獣神を人間が受け入れたという事実が悔しかったからかもしれない。
神とはいえ、感情がない訳ではないものな。
「それで、大神は神格の高い神だから、大神が天界にいるうちは獣神が戻ってこられない、手を出せないって事ですか?」
「そうです。最初に獣神たちが来た時も、人間が受け入れなければこんな事にはならなかったのですが……」
いやでもそれはしようがないんじゃん? 獣に襲われて為す術がなかったのかもしれないし、ロクと一緒で凄く気持ちのいいちんこを持ってて抵抗できなかったのかもしれないし、単純に強くてカッコイイって思ったのかもしれない。神霊を発生させてそれを刈り取る圃場にしようと企んでいたなんて、誰も思い付かないって。
「獣人も人間も獣神の血を引いていますから、私たちの影響は受けません。ですから甘いものを与えても無駄だと、大神は取り上げてしまわれたのです」
なるほど。甘いものを摂取していたら、そして獣神の血が入ってなければ神格が上がったかもしれないのか。
「俺は純粋な人間だから、天界の甘いものを食べたら神格を得るかもしれない」
「そうです」
「でも神格を得たら、ロクに影響を与える事はなくなる。何故なら神の力だから」
「恐らく」
「俺が……ロクの食べ物じゃなくなったら、下界に戻っても狙われる事はなくなるかもしれない。それにもしかしたら、最後までしても強制送還されないかもしれない。ロクは神格を得たから俺を摂取しなくても強靭だろうし、今なら俺が神格を得ても問題はない」
「……」
でもお師匠様はそうだとは言わなかった。
それで俺はやっぱり、と溜め息を吐いた。
「おかしいと思ったんだよ。俺には無理な方法ばかりで修行して、最初から神格を上げるつもりはなかったんですね?」
「ええ」
「どうしてですか? 何の問題があるんです?」
俺はロクと一緒なら人間を辞めたって構わない。でもお師匠様は問題があると言う。それは一体何故だろう?
「それはそなたが異世界人だからです」
お師匠様の言葉に、俺は思わず固まった。
0
お気に入りに追加
373
あなたにおすすめの小説
虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜
N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間)
ハーレム要素あります。
苦手な方はご注意ください。
※タイトルの ◎ は視点が変わります
※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます
※ご都合主義です、あしからず
ようこそ異世界縁結び結婚相談所~神様が導く運命の出会い~
てんつぶ
BL
「異世界……縁結び結婚相談所?」
仕事帰りに力なく見上げたそこには、そんなおかしな看板が出ていた。
フラフラと中に入ると、そこにいた自称「神様」が俺を運命の相手がいるという異世界へと飛ばしたのだ。
銀髪のテイルと赤毛のシヴァン。
愛を司るという神様は、世界を超えた先にある運命の相手と出会わせる。
それにより神の力が高まるのだという。そして彼らの目的の先にあるものは――。
オムニバス形式で進む物語。六組のカップルと神様たちのお話です。
イラスト:imooo様
【二日に一回0時更新】
手元のデータは完結済みです。
・・・・・・・・・・・・・・
※以下、各CPのネタバレあらすじです
①竜人✕社畜
異世界へと飛ばされた先では奴隷商人に捕まって――?
②魔人✕学生
日本のようで日本と違う、魔物と魔人が現われるようになった世界で、平凡な「僕」がアイドルにならないと死ぬ!?
③王子・魔王✕平凡学生
召喚された先では王子サマに愛される。魔王を倒すべく王子と旅をするけれど、愛されている喜びと一緒にどこか心に穴が開いているのは何故――? 総愛されの3P。
④獣人✕社会人 案内された世界にいたのは、ぐうたら亭主の見本のようなライオン獣人のレイ。顔が獣だけど身体は人間と同じ。気の良い町の人たちと、和風ファンタジーな世界を謳歌していると――?
⑤神様✕○○ テイルとシヴァン。この話のナビゲーターであり中心人物。
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
異世界に転移したショタは森でスローライフ中
ミクリ21
BL
異世界に転移した小学生のヤマト。
ヤマトに一目惚れした森の主のハーメルンは、ヤマトを溺愛して求愛しての毎日です。
仲良しの二人のほのぼのストーリーです。
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる