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㉛騙すのが上手い人−1
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「ねえ、ハヌマーン。神は新しい神を受け入れちゃった人間に怒って甘い物を取り上げたの?」
「そんな事は知らん。俺もまだ産まれていない時代の話だ」
「他の神からそういう話は聞いたことがないの?」
「無い。基本的に神は下界に興味がないと言っただろう。話題に出すことも――ん?」
ロクがはたと気付いたように口籠って首を傾げた。
何よ、何か思い出したのか?
「そう言えば、お師匠様は『お前も人間にならモテるかもしれない』と言っていたな。『人間は我ら神より、獣神の方が好みのようだから』と」
「ちょ、お師匠様? そんなのがいたなんて聞いてないけど」
「訊かれてないからな」
「……」
この馬鹿は聞かれなくても女の好みとか鷲型獣人への恨みつらみだとかは話す癖に、本当に大事な事は聞かれなきゃ話さない。
「あんたにも師匠なんて存在がいて吃驚だよ」
「では誰がこの緊箍児を填めたと思っているんだ。それに妖術だって、薬の作り方だって、お師匠様から教わったに決まってるだろう」
「へぇー」
俺は平坦な声で応えた。
「そのお師匠様ってのは、あんたが追放されるのを黙って見てたのか?」
「いや、お師匠様は新たなる地を探して旅立っていたので、不在だった」
「新たなる地?」
「この下界のように、神を必要とする人が何処かにいるだろうと言って探しに行ったのだ」
「……え~と、それって」
なんか押し売りみたい。
それにどちらかと言うと、人を必要としているのは神だって気がする。
「あの、さぁ。この下界だって、神霊を持っていない人間は神の助けが必要なんじゃない?」
俺自身は甘味以外で神を必要だとは思わないけど、そんな風に言ってみた。
するとハヌマーンがフンッと鼻を鳴らした。
「そもそも初めに、人間が神よりも獣神を選んだんだ」
「でもそれは君が生まれる前の話でしょう? 嘘か本当かもわからないし、そんな昔の事を言われたって困っちゃうよね」
選ばれなかった事を根に持っていないなら、本当に忘れたって言うなら甘い物を解禁にしてよ。
むすっとした顔で言い返したら、ハヌマーンがそれは大神が決める事だと言った。
「誰も大神が決めた事には逆らえない」
「……」
そりゃあねぇ、神様に逆らおうって言ったって無駄だろうけど、せめてお願いくらいはしてみてもいいでしょう?
俺は苦しい時の神頼みで有名(?)な日本から来たんだから、図々しくたって躊躇しないよ。
「その大神に会う――いや、声を届けるだけでもいいから、方法ってないの?」
「俺ごときに執り成せよう筈がない」
「じゃあ執り成せる神は?」
「ム……お師匠様なら或いは」
よしよし、頼み事がある時に伝手を探すってのは基本だよ。
「じゃあ、お師匠様と連絡は取れる?」
「それは無理だ。何処にいるかわからないし、旅の供をしろと言われたのを断ったら、連絡手段を取り上げられてしまった」
(こ、こいつはぁ~っ!)
「それじゃあ全く役に立たないじゃないか!」
ちょっとキレ気味に俺が文句を言ったら、流石に不味いと思ったのかウンウンと唸り出した。
「そうだな、流石に俺が死ねばお師匠様にはわかる」
「じゃあ死ぬ?」
「いや、緊箍児が外れるだけでもきっとお気付きになる!」
ふん、神様が嵌めた物を簡単に外せるとは思えないし、万が一外せてもバチが当たりそうじゃん!
「その緊箍児ってのは、君が何かやらかして嵌められたんだろう? ちゃんと外す条件があるんじゃないの?」
贖罪が終われば外れる物なんじゃないかと訊いたら、ハヌマーンはそんな事は考えてもみなかったと言った。
「だがしかし、確かにお師匠様は救済措置もなく罰を与えるお方じゃない」
「大神と違って」
「お前、不敬だぞ」
だってさぁ、幾ら下界の人を取るに足りないものと思ってたって、やる事が酷いと思うんだよ。
「まあ、大神の事は置いておいて。それより君は何の罰でその緊箍児を嵌められたんだよ」
「お師匠様を押し倒そうとしたからだ」
「……はぁあ!? お師匠様って女性なの!? ってか君は自分のお師匠様を襲ったのか!」
俺は吃驚して大きな声をあげた。
「襲ったのは門弟になる前だったし、お師匠様に性別はない」
「えっ、無性生物なの?」
イソギンチャクとかホヤみたいだと思ったけど、そもそも神様に生殖活動は要らないのかも知れない。
「神は性別くらい自分で変えられる。だが、自分にとって一番自然な形を取っている」
「なるほど。じゃあ君がもう絶対にお師匠様を襲わないとわかれば、外して貰えるんじゃない?」
「どうやって?」
「う~ん、それなんだよねぇ~」
どうやったらハヌマーンが品行方正になったと判断して貰えるのか。
そもそもハヌマーンが行儀よくなんてなる訳がないよな?
「あんたは緊箍児を外して欲しい、お師匠様に会いたいと思ってるの?」
「うむ、勿論お師匠様には会いたいが、緊箍児はこの下界に操れるものもいないしこのままでも構わん」
「俺なら操れるよ?」
「お前一人ならどうとでもなる」
(え、それはちょっと頂けないなぁ。)
「君は俺が天界の手掛かりになると思って付いてきたんでしょ? だったら緊箍児を外して、お師匠様に会うべきなんじゃない?」
「だがどうやったら外れる?」
結局そこに戻ってきちゃったか。
「ロクにも相談してみよう。ロクならいい考えが浮かぶかもしれないし」
「うむ、神を騙すのだな?」
「違うよ、人聞きが悪いなぁ」
どうやらハヌマーンは獣人を悪知恵の働く種族だと思ってしまったらしい。
それは全くの誤解だと言えない所が辛い。
「騙すとかじゃなくて、ちゃんとまともな方法を考えるから君も強力してよね」
「あい、わかった」
お師匠様の事はどうやらそれなりに慕っているらしく、まともに応えてくれた。
これで上手いこと神様と会えたらいいんだけど、そう簡単にいくとは思えなかった。
「そんな事は知らん。俺もまだ産まれていない時代の話だ」
「他の神からそういう話は聞いたことがないの?」
「無い。基本的に神は下界に興味がないと言っただろう。話題に出すことも――ん?」
ロクがはたと気付いたように口籠って首を傾げた。
何よ、何か思い出したのか?
「そう言えば、お師匠様は『お前も人間にならモテるかもしれない』と言っていたな。『人間は我ら神より、獣神の方が好みのようだから』と」
「ちょ、お師匠様? そんなのがいたなんて聞いてないけど」
「訊かれてないからな」
「……」
この馬鹿は聞かれなくても女の好みとか鷲型獣人への恨みつらみだとかは話す癖に、本当に大事な事は聞かれなきゃ話さない。
「あんたにも師匠なんて存在がいて吃驚だよ」
「では誰がこの緊箍児を填めたと思っているんだ。それに妖術だって、薬の作り方だって、お師匠様から教わったに決まってるだろう」
「へぇー」
俺は平坦な声で応えた。
「そのお師匠様ってのは、あんたが追放されるのを黙って見てたのか?」
「いや、お師匠様は新たなる地を探して旅立っていたので、不在だった」
「新たなる地?」
「この下界のように、神を必要とする人が何処かにいるだろうと言って探しに行ったのだ」
「……え~と、それって」
なんか押し売りみたい。
それにどちらかと言うと、人を必要としているのは神だって気がする。
「あの、さぁ。この下界だって、神霊を持っていない人間は神の助けが必要なんじゃない?」
俺自身は甘味以外で神を必要だとは思わないけど、そんな風に言ってみた。
するとハヌマーンがフンッと鼻を鳴らした。
「そもそも初めに、人間が神よりも獣神を選んだんだ」
「でもそれは君が生まれる前の話でしょう? 嘘か本当かもわからないし、そんな昔の事を言われたって困っちゃうよね」
選ばれなかった事を根に持っていないなら、本当に忘れたって言うなら甘い物を解禁にしてよ。
むすっとした顔で言い返したら、ハヌマーンがそれは大神が決める事だと言った。
「誰も大神が決めた事には逆らえない」
「……」
そりゃあねぇ、神様に逆らおうって言ったって無駄だろうけど、せめてお願いくらいはしてみてもいいでしょう?
俺は苦しい時の神頼みで有名(?)な日本から来たんだから、図々しくたって躊躇しないよ。
「その大神に会う――いや、声を届けるだけでもいいから、方法ってないの?」
「俺ごときに執り成せよう筈がない」
「じゃあ執り成せる神は?」
「ム……お師匠様なら或いは」
よしよし、頼み事がある時に伝手を探すってのは基本だよ。
「じゃあ、お師匠様と連絡は取れる?」
「それは無理だ。何処にいるかわからないし、旅の供をしろと言われたのを断ったら、連絡手段を取り上げられてしまった」
(こ、こいつはぁ~っ!)
「それじゃあ全く役に立たないじゃないか!」
ちょっとキレ気味に俺が文句を言ったら、流石に不味いと思ったのかウンウンと唸り出した。
「そうだな、流石に俺が死ねばお師匠様にはわかる」
「じゃあ死ぬ?」
「いや、緊箍児が外れるだけでもきっとお気付きになる!」
ふん、神様が嵌めた物を簡単に外せるとは思えないし、万が一外せてもバチが当たりそうじゃん!
「その緊箍児ってのは、君が何かやらかして嵌められたんだろう? ちゃんと外す条件があるんじゃないの?」
贖罪が終われば外れる物なんじゃないかと訊いたら、ハヌマーンはそんな事は考えてもみなかったと言った。
「だがしかし、確かにお師匠様は救済措置もなく罰を与えるお方じゃない」
「大神と違って」
「お前、不敬だぞ」
だってさぁ、幾ら下界の人を取るに足りないものと思ってたって、やる事が酷いと思うんだよ。
「まあ、大神の事は置いておいて。それより君は何の罰でその緊箍児を嵌められたんだよ」
「お師匠様を押し倒そうとしたからだ」
「……はぁあ!? お師匠様って女性なの!? ってか君は自分のお師匠様を襲ったのか!」
俺は吃驚して大きな声をあげた。
「襲ったのは門弟になる前だったし、お師匠様に性別はない」
「えっ、無性生物なの?」
イソギンチャクとかホヤみたいだと思ったけど、そもそも神様に生殖活動は要らないのかも知れない。
「神は性別くらい自分で変えられる。だが、自分にとって一番自然な形を取っている」
「なるほど。じゃあ君がもう絶対にお師匠様を襲わないとわかれば、外して貰えるんじゃない?」
「どうやって?」
「う~ん、それなんだよねぇ~」
どうやったらハヌマーンが品行方正になったと判断して貰えるのか。
そもそもハヌマーンが行儀よくなんてなる訳がないよな?
「あんたは緊箍児を外して欲しい、お師匠様に会いたいと思ってるの?」
「うむ、勿論お師匠様には会いたいが、緊箍児はこの下界に操れるものもいないしこのままでも構わん」
「俺なら操れるよ?」
「お前一人ならどうとでもなる」
(え、それはちょっと頂けないなぁ。)
「君は俺が天界の手掛かりになると思って付いてきたんでしょ? だったら緊箍児を外して、お師匠様に会うべきなんじゃない?」
「だがどうやったら外れる?」
結局そこに戻ってきちゃったか。
「ロクにも相談してみよう。ロクならいい考えが浮かぶかもしれないし」
「うむ、神を騙すのだな?」
「違うよ、人聞きが悪いなぁ」
どうやらハヌマーンは獣人を悪知恵の働く種族だと思ってしまったらしい。
それは全くの誤解だと言えない所が辛い。
「騙すとかじゃなくて、ちゃんとまともな方法を考えるから君も強力してよね」
「あい、わかった」
お師匠様の事はどうやらそれなりに慕っているらしく、まともに応えてくれた。
これで上手いこと神様と会えたらいいんだけど、そう簡単にいくとは思えなかった。
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