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㉚精神安定剤−2

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「少し休んでから来い」
 そう言うとロクは俺の身体を綺麗に拭き清め、新しい服を着せて部屋を出て行った。
 パタン、という扉が閉まる音と同時に意識が途切れそうになる。
 ほんの少ししか挿れられてないし、ロクに食べられる為に甘く溶けた身体は痛みも傷も負っていないけれど兎に角疲れた。

(イクって事はあっちこっちに力が入るって事だし、射精すんのだって中々体力を使う。長時間無理な体勢であんあんギシギシやってたし、体重を掛けないようにはしてくれてたけど力が強いから……)
 俺は少し赤くなった手首を見て顔を赤らめた。
 押さえ込まれたのとかを思い出して頭がおかしくなりそうだ。

(ロクばっかり余裕で狡い……)
 俺ははふん、と熱い吐息をついてからそろそろとベッドから身体を起こした。
 ロクのお陰で俺の気持ちはすっかり安定している。

(周りに認められないとか、ロクに釣り合ってないとか、そんなのもうどうでもいいや。先のことなんて心配したってしようがないし、それよりも俺はロクに俺の中でイッて欲しいし、天界のことをもっとよく知って甘味を地上に取り戻したい。この体質の事だって治せるもんなら治したいし、やる事なんて幾らでもあるんだ)
 今さら人種の違いにビビってる場合じゃない、と自分に気合を入れる。
 そして残しておいてくれた食事をパパパッと食べ、ハヌマーンの様子を訊いたら大いびきを掻いて寝ていると言うので図書室へ案内して貰った。
 そこでウィリアムに神話関係の本を持ってきて貰い、まずは彼の口からこの世界の神話を簡単に教えて貰った。

「神話と言っても、余り話は無いのです」
「獣人たちには興味がなかったから?」
「ええ」
 でもそれもおかしな話じゃないか?
 幾ら自分の神霊を信じているとはいえ、この世界を創ったのは神だという事は認めているんだから、普通はもう少しくらいは興味を持つんじゃない?

「神はこの地上と自分によく似た人間をお造りになりましたが、別の神がこの地にやって来て人間と暮らし始めました。それが神霊と私たち獣人の祖です」
「別の神……」
「獣神は人間と交わり、獣人が生まれました。獣人の中には神が宿り、人とは別の存在である証拠に自由に歩き回ります」
 でもロクの神霊は呼び出せるけどね? ウィリアムはそれを知らないのかな?

「獣人と獣人は新たな獣人を産みましたが、人間と獣人の間には混じった子供が産まれました。人間に近い姿を持つもの、獣人に近い姿を持つもの、神霊を持つ獣人も産まれました」
「じゃあ、獣人同士で結婚して純血を守ろうって人たちが出てきたんじゃない?」
「ええ、鷲型獣人や獅子型獣人など有力な一族ほど一族間の結婚を守りましたが、元々は獣神と人間の混血です。純血を尊ぶ一族からも先祖返りとして人間に近い姿の子供は産まれましたし、同族からは余り強い個体が産まれませんでした」
「近親婚の弊害か……」
「そうです」
 これが本当に動物だったら他種族との子供なんて産まれないし、同種で結婚したからって弱くなる筈もないんだけど彼らは人だからね。
 鷲型獣人と犬型獣人が交わったら強い鷲型獣人が産まれた、なんて事が多かったらしい。

「ですから男女どちらでも一族の姿をした長子が家を継ぎます。例外は王室で、国王だけは必ず男子が継ぎます。なんでも国が荒れた時代に作られた法だそうです」
 ふぅ~ん。男子だけにしておいた方が国が荒れないって理由が俺にはよくわからないけど。
 そう思って顔を顰めていたらウィリアムがしらっと裏の話を教えてくれた。

「そうでもしないと王族が増え過ぎてしまい、国庫で養わねばならない人が増えます」
「なるほど」
 女性の鷲型獣人はどんどん降嫁させちゃうのか。
 それで男子には一家を立ててやるか、幽閉に近い扱いになるらしい。
 折角王族に産まれてもなかなか大変なんだね。

「それで話を神話に戻すけれど、別の神が来たからこの地を創造した神は天界に去ったって事?」
「ええ。自分たちの子供である人間が獣神と交わったから怒ったとも、獣神に後を任せて天界に帰ったとも言われています」
 う~ん、甘味を奪った事を考えると怒った、が正解だと思うんだけど、そうすると獣から神に取り上げたハヌマーンの存在が浮いてくる。
 獣神に怒っていたなら、似たような姿のハヌマーンを生み出したりするだろうか?

「どちらが正しいのかは学者によって説が分かれていますが、神は下界に手を出してこないので気にしない者が殆どです」
「でも怒って地上から甘味を奪ったのが正解だったらどうする?」
「甘味を奪った?」
「ハヌマーンはそう言ってる。昔、神々が地上に甘い物は存在しないように定めたってさ」
「……それなら、召喚で細々とでも手に入れるしか無いのではないでしょうか」
「そっか。きっとそれが大多数の意見なんだね」
 誰も姿を見せもしない神から甘味を取り戻そうとは思わないんだ。
 それはやっぱり存在の薄さの所為なのか。

「そう言えば、ウィリアムさんは甘い物って口にしたことがあるの?」
「いえ、私ごときの身分では無理です。父は若い頃に一度だけ、クッキーなるものを食べたことがあるそうですが……それっきりでした」
「そっかぁ……」
 信じらんない。この世界では、産まれてから一度も甘味を口にすること無く死んでいく人が大半だってこと?
 貴族のほんの一部しか甘味を口に出来ない世界……冗談じゃない。

(貧しくって心が泣いちゃうね!)
 俺は絶対にこの地上に甘味を取り戻そうと決意した。
 別にアンブロシアやネクタルを寄越せってんじゃない。
 ただ普通に甘い果物や砂糖の取れる植物が生えるのを許して欲しいだけだ。
 彼らに甘い汁を煮詰めた物を舐めさせてあげたい。
 ハチミツをたっぷりとパンに付けて食べさせてあげたい。
 果汁たっぷりのメロンや桃を頬張る幸せを教えてあげたい。
 そして嫌そうに顔を顰めるロクを見て笑うんだ。
 俺はその日を夢見て頑張る事にした。

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