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㉓こちら側の事情(ヨカナーン)−2
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「閣下、引き返さないのであれば、これ以上兵を失う前に出立しましょう」
「しかしハヌマーンは俺を目指して来ているんだぞ? それに手土産もなしにロクサーン侯爵の前に顔を出せるものか」
『それ見ろ』と指を指される事が、マキシム卿は何よりも耐え難かった。
「ハヌマーンの捕獲は冒険者ギルドに依頼を出しましょう。閣下の身辺と森に人を配置すれば良いでしょう」
「冒険者だと? 俺がそんなものを頼ったと知られたら、いい笑い者になる!」
「笑い者にはなりません。化け物退治は冒険者に任せ、私たちは本来の業務である反乱組織を鎮圧すれば良いのです」
そうすれば下がりきった士気も幾らかはマシになるだろう。
「反乱組織は見付かるのか?」
出兵する名目として反乱組織の鎮圧を上げたが、実のところ潜伏先はわかっていなかった。
「近辺に捜索隊を出しています。アジトの一つも見つけ出せれば、それを叩いて――」
「貴様は俺を馬鹿にしているのか?」
マキシム卿の出した冷ややかな声にヨカナーンはギクリと身を竦めた。
元の上司と比べてつい見縊りがちになってしまうが、この人も決して馬鹿ではない。
いつもろくでもない事をしでかすのでついつい警戒を忘れてしまうが、油断を誘うという意味では成功しているのかもしれない。
今も馬鹿に馬鹿にしたことを見抜かれてしまった。
「俺は反乱組織を鎮圧すると言って兵を出した。それがアジト一つ?」
「……既に半数近くが戦線を離脱しています」
「俺の力不足だと言いたいのか?」
「いえ、ですからハヌマーンを相手取るのが――ッ!」
今度は手加減なしに殴られた。
ヨカナーンは咄嗟に踏ん張る事が出来ず、天幕の端まで転がっていった。
「次はもう少しまともな意見を出せ」
「……はい」
ヨカナーンは立ち上がる事も出来ずにクラクラする頭を押さえながら頷いた。
(これが私が選んだボスだ)
自分の見る目の無さに笑えてくる。
(いや、まだだ。まだ終わっていない)
ここで諦めたら惨め過ぎる。
せめて勝たなくては、自分の判断は間違っていなかったと言えるようにしなくては。
ヨカナーンは口元の血を手で拭って視線を上げた。
「このまま、ロクサーン侯爵の領地に攻め込みましょう」
「……なんだと?」
怪訝そうな顔をするマキシム卿に、ヨカナーンはにっこりと微笑んだ。
何かを吹っ切ったような凄絶な笑顔だった。
「反乱組織の本拠地はロクサーン公爵領にあります。閣下は反乱組織を殲滅し、異世界人を保護して王都へと凱旋するのです」
「……なるほど。当初よりその予定であった」
ヨカナーンの言葉にマキシム卿がニヤリと笑った。
集めた兵はただ威圧する為だけのものだった。
しかし半数近くを失った今、空手で帰城する訳にはいかなくなった。
反乱組織を完膚なきまでに叩き潰し、異世界人の庇護者という立場を手に入れ、ロクサーン公爵領を持ち帰るくらいの事をしなくては幾ら従兄弟に甘い国王でも見逃せないだろう。
「実に良い計画だ。王都へ帰城した暁には貴様にも褒美をやろう」
「ありがたく存じます」
ヨカナーンはマキシム卿の口約束など信じてはいない。
そんな事はどうでもいい。
(マキシム卿を上手く操って見せたら、国王陛下のお目に止まるかもしれない)
可愛いが目に余る行動を取るマキシム卿を持て余していたところに、上手く御せる者がいるとわかったらきっと重用して貰えるだろう。
それこそがヨカナーンの本当の狙いだった。
(人間の私が出世する方法など、そのくらいしかない)
ロクサーン公爵と異世界人にはその為の踏み台になって貰う。
振り向かれなかった人間の考える事などこんなものだ。
ヨカナーンはまさか天幕にハヌマーンの分身体が潜んでいて、会話を全て聞かれているとは知らなかった。
自分の汚い計画を崇拝していた男に聞かれているとは思いもよらなかった。
既にこの時点で計画は破綻したも同然だと、知る余地も無いのだった。
「しかしハヌマーンは俺を目指して来ているんだぞ? それに手土産もなしにロクサーン侯爵の前に顔を出せるものか」
『それ見ろ』と指を指される事が、マキシム卿は何よりも耐え難かった。
「ハヌマーンの捕獲は冒険者ギルドに依頼を出しましょう。閣下の身辺と森に人を配置すれば良いでしょう」
「冒険者だと? 俺がそんなものを頼ったと知られたら、いい笑い者になる!」
「笑い者にはなりません。化け物退治は冒険者に任せ、私たちは本来の業務である反乱組織を鎮圧すれば良いのです」
そうすれば下がりきった士気も幾らかはマシになるだろう。
「反乱組織は見付かるのか?」
出兵する名目として反乱組織の鎮圧を上げたが、実のところ潜伏先はわかっていなかった。
「近辺に捜索隊を出しています。アジトの一つも見つけ出せれば、それを叩いて――」
「貴様は俺を馬鹿にしているのか?」
マキシム卿の出した冷ややかな声にヨカナーンはギクリと身を竦めた。
元の上司と比べてつい見縊りがちになってしまうが、この人も決して馬鹿ではない。
いつもろくでもない事をしでかすのでついつい警戒を忘れてしまうが、油断を誘うという意味では成功しているのかもしれない。
今も馬鹿に馬鹿にしたことを見抜かれてしまった。
「俺は反乱組織を鎮圧すると言って兵を出した。それがアジト一つ?」
「……既に半数近くが戦線を離脱しています」
「俺の力不足だと言いたいのか?」
「いえ、ですからハヌマーンを相手取るのが――ッ!」
今度は手加減なしに殴られた。
ヨカナーンは咄嗟に踏ん張る事が出来ず、天幕の端まで転がっていった。
「次はもう少しまともな意見を出せ」
「……はい」
ヨカナーンは立ち上がる事も出来ずにクラクラする頭を押さえながら頷いた。
(これが私が選んだボスだ)
自分の見る目の無さに笑えてくる。
(いや、まだだ。まだ終わっていない)
ここで諦めたら惨め過ぎる。
せめて勝たなくては、自分の判断は間違っていなかったと言えるようにしなくては。
ヨカナーンは口元の血を手で拭って視線を上げた。
「このまま、ロクサーン侯爵の領地に攻め込みましょう」
「……なんだと?」
怪訝そうな顔をするマキシム卿に、ヨカナーンはにっこりと微笑んだ。
何かを吹っ切ったような凄絶な笑顔だった。
「反乱組織の本拠地はロクサーン公爵領にあります。閣下は反乱組織を殲滅し、異世界人を保護して王都へと凱旋するのです」
「……なるほど。当初よりその予定であった」
ヨカナーンの言葉にマキシム卿がニヤリと笑った。
集めた兵はただ威圧する為だけのものだった。
しかし半数近くを失った今、空手で帰城する訳にはいかなくなった。
反乱組織を完膚なきまでに叩き潰し、異世界人の庇護者という立場を手に入れ、ロクサーン公爵領を持ち帰るくらいの事をしなくては幾ら従兄弟に甘い国王でも見逃せないだろう。
「実に良い計画だ。王都へ帰城した暁には貴様にも褒美をやろう」
「ありがたく存じます」
ヨカナーンはマキシム卿の口約束など信じてはいない。
そんな事はどうでもいい。
(マキシム卿を上手く操って見せたら、国王陛下のお目に止まるかもしれない)
可愛いが目に余る行動を取るマキシム卿を持て余していたところに、上手く御せる者がいるとわかったらきっと重用して貰えるだろう。
それこそがヨカナーンの本当の狙いだった。
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振り向かれなかった人間の考える事などこんなものだ。
ヨカナーンはまさか天幕にハヌマーンの分身体が潜んでいて、会話を全て聞かれているとは知らなかった。
自分の汚い計画を崇拝していた男に聞かれているとは思いもよらなかった。
既にこの時点で計画は破綻したも同然だと、知る余地も無いのだった。
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