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⑤警戒心を忘れずに!−2(R-15)

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(ちょ、何をやってんだよぉぉぉぉ!)
 サワサワと身体を這い回る手の動きが妖しい。
 何かを確かめるように、指先で擦って探りながら動くのが俺の快感を引き出してしまう。

(やだっ、そこは引っ掻くなって!)
 胸の尖りに爪先が引っ掛かって、出っ張りが気になるのか何度も何度も服の上からカリカリと弾かれる。その度にそこからムズムズが拡がっていき、腰が勝手に揺れてしまう。

(あ、相手は寝てるのに……こんな風に身体を弄り回されて、俺だけ感じて……みっともねぇ)
 俺はハァハァと呼吸を乱しながら、自分の分身がゆるゆると反応するのを感じていた。
 ああっ、もうっ! 包み込むように抱き締められて、いやらしく触られているんだからしようがないんだ。
 そう言い訳をして俺は開き直った。
 ちょっと甘い声も出して、ロクの手をわざと脚の間に挟んだりなんかして。

(ここも触ってくれたらいいのに)
 そう思っていたら丁度良くロクの爪先が分身を掠めて、甘く息を吐いたら後ろでびくりと身体が震えた。

(あれ? もしかして起きたのか?)
 俺が眠っている振りでドキドキしながら様子を窺っていたら、ロクはそろそろと手を引いてしまった。

(あぁ、つまらない)
 そう思って溜め息を吐きそうになったら首の後ろに濡れた感触が当たって、ちゅうっときつく肌を吸われた。

(ええっ!? 今のなに――)
 確かめようとする前にロクの気配が離れていき、俺はベッドに一人きりになった。
 背後にあった熱い身体が無くなって、ぽっかりと空いてスースーするのが淋しい。

(えー、なに? もしかしてキスして貰えた? でも子供にするような、ちょっとした親愛のそれだよね? いやいやでもそれだったら吸ったりしないだろ。首の後ろなんて吸って、跡を残すのはダメだろ)
 俺は一人でジタバタと騒ぎ、疼いた身体をどうしてくれると腹を立てる。

(ふ、服をわざと乱して手を出しやすくするとか?)
 俺はそんなこすい事を考える。

(寝たままイタズラされても抵抗したりしませんけど、如何ですかぁ?)
 好奇心でも、気の迷いでも、何でもいいから手を出されてみたい。
 あの手でそっと服を剥がれて、あちこち触られて擦られて恥ずかしいところも見られたい。
 意識の無い身体を好きなようにされたい。

(俺ってば変態さんだぁ……)
 俺は自分にこんな性癖があったなんて知らなくて愕然とする。
 男に興味はなかったし、獣にも興味はない。
 自分より大きな身体は恐ろしいし、爪だって牙だって俺を簡単に引き裂けると知っている。なのにあの黒豹に暴いて欲しい。
 あちこち開いて、閉じたところだってこじって開けていい。

(やべぇ、後ろを開かれるところを想像した……)
 俺は尻を彼の手に預けて、尻肉を掻き分けられて閉じた穴を爪で左右に開かれるところを想像した。
 ぴっちりと閉じた穴を開かれ、出来た隙間に爪が入り込んでくる。
 丸くて太い爪はゆっくりと動かせば俺を傷付ける事はない。
 俺は動いたら危ないから、だからおとなしく身体に入ってくる爪を受け入れる……。

 ぬぷぷ……と妄想上の爪が根元まで埋まったところでカタリとチェストが鳴った。
 シャワーを浴びてきたロクが戻ってきたらしい。
 俺はドキドキしながら彼が近付くのを待った。


「……フゥ」
 微かにロクの溜め息が聴こえ、ギシリとベッドを軋ませて俺の傍らに座った。
 俺の身体に落ちてきた水滴で俄に現実感が戻ってくる。

「危なっかしくて、とても野には放てないな」
 低い呟きと優しく頭に触れる手に、俺のドキドキが止まらない。

「警戒心が無さすぎだろう。俺だから良かったが……他の獣人ならあの匂いにやられてた。本当に甘くて……嫌になる」
(…………)
 俺は氷水でも浴びせられたような気分だった。

『嫌になる』
 そうだよな、あんたは俺の匂いが嫌いなんだった。
 何を浮かれていたんだろう?
 臭いと眉を顰められているのに。

「いつまで耐えればいいのか」
「……ッ!」
 ちょっと声が出かけた。
 ここまで嫌がられてると思わなくて、我慢させてるとは思わなくて……涙が出そうだ。

「余り長引かないといいな」
 手だけは優しく俺の頭を撫でながらそんな酷い事を言う。
 チクショウ、なんてイヤな奴なんだ。
 優しくて――優しいから残酷な男。
 こんな奴は大嫌いになってやる。
 そう思うのに俺の心は既にこの男に惹かれている。
 頼りにしていたから、存在に慣れてしまったから、がっついてこなくて安心できるから。
 色んな理由を並べてみても、結果は同じだ。俺はこの黒豹の獣人にどうしようもなく惹かれている。

(くそぅ、最低だ……)
 何が最低って、奴の本心を知ってしまったのに、それでも優しくされると拒めない。
 きっと俺は、あいつが嫌悪感を堪えていると知りながら何食わぬ顔でキスを受け取る。
 浅ましく欲しがる。

(本当に最低だ)
 俺は身を硬くしながらも、撫でるのを止めないでくれと切に願っているのだった。
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