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②貞操の危機!−3

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(ハァ……。キスだけなら良かったんだけどね)
 甘味代わりのキスだと思えば、この甘い物のない世界では或いは俺も妥協したかもしれない。
 でも理性よりも本能の方が強い獣人たちはそれだけでは済まない。
 レオポルトがそうだったように、俺を性的な意味でも食いたがるだろう。

(獣人に犯されるとか冗談じゃないよ!)
 俺にそんな趣味はない。
 絶対にまっさらな身体で元の世界に戻るんだ。

(その為には俺が狙われる理由を無くさないとだな。つまり俺が唯一の甘味じゃなくなればいいんだろ? この世界で甘味料になるものを見つけてやるよ!)

 俺はモリスさんに頼み込み、城を出させて貰う事にした。
 甘い物の嫌いあんぜんなロクサーン侯爵を護衛に連れて、甘味料を探す旅に出るんだ。

「それはありがたい話だが、既に散々に探したんだぞ?」
 こちらの人だって長い時間を掛けて随分と甘味料を探した。
 甘い物の存在する世界から来た異世界人の意見も参考にして、地下茎を集めたり蜜を溜め込む昆虫を探したりした。けれどこれまで全く成果は上がっていない。
 唯一、その実を食べた後に酸っぱいものを食べると甘く感じるという植物は見つかっているが、そうしたところでやはり甘味とは全く違う。

「でもこのまま城にいてもしようがないし、レオポルトだっていつまでも閉じ込めておけないんでしょう?」
「一哉殿が積極的に応えた、という主張が通りそうだからな」
「くそ、寝惚けていただけなのに……」
 こちらの人たちは恋愛ごとに関してとても鷹揚で、好きなら多少強引に迫っても仕方がないと見做す風潮がある。
 情熱的に求められて嬉しいだろって……俺みたいに腕力で敵わないのから見たら冗談じゃないっての。

「レオポルトにまた夜這いを掛けられちゃ敵わないし、この目で確かめて来るよ」
「そうか、ならば護衛を増やして――」
「いらないってば。ロクサーン侯爵以外は信用出来ない」
 俺とキスをして吐きそうになるこの男なら絶対に手を出して来ないと信用出来る。
 でも他の獣人は駄目だ。男も女も俺を物珍しい食材みたいな目で見てるもん。

「ロクサーン侯爵、一哉殿を頼めるか?」
「引き受けよう。此度の事は私にも責任がある」
 重々しくそう言ったロクサーン侯爵は、俺を危険に晒した事をまだ気に病んでいるみたいだ。それか俺の事を見張れるのは自分しかいないと思っているのかもしれない。

「ロクサーン侯爵をこんな事に付き合わせて悪いとは思うけど――」
「問題ない。私は元々在野の育ちだ」
「在野?」
「つまり民草に混じって暮らしていた」
 よくわからないけれど、それが彼が変わり者だと言われる理由なのかもしれない。

「そのうちに詳しく教えてよ」
「機会があったらな」
 そう言ってロクサーン侯爵は静かに目を伏せ、その青い瞳を隠した。
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