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番外編⑩セーラー服は脱がさないで(後編)(R−15)

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 黄金のバッファローの皮は高いので、胸部と脛の部分にだけ使用する事になった。
 地の生地はお貴族様なので柔らかくて丈夫な妖蚕シルクにして、胸当ての裏に当たる部分にユートに刺繍をして貰う。

「あ、でも勝手に仕事を受けたりして怒られねぇかな」
 これまで散々やらかしてきているユートが、ギルドを通さずに仕事をしても良いのかと気にし出した。
 しかも相手が冒険者じゃなくお貴族様なのが引っ掛かっているようだ。

「じゃあ怒られない程度に手を抜くか?」
「まさかっ! する訳ねーだろっ!」
 激高したユートの瞳孔が縦に伸びて、そうだこいつは九尾だったと思い出す。
 子供みたいな見た目と態度ですっかり騙されるが、こいつは災害級の大妖なんだそうだ。
 俺にとっては単なる生産職の仲間だけどな。

「だったら迷うな。依頼は楽しんでなんぼだ」
「うん……でも、そもそもどうして半ズボンなんか渡したんだ? イーサンは凝った注文が好きだから貴族の依頼も受けてるけどさ、合わない装備を渡すなんてらしくないよ」
 そう言って不可解そうに唇を尖らせたユートが、さっき出てしまった三角の耳と相まって可愛い。
 これは絶対にせぇらぁ服を着て貰わないとな。

「いや、折角作った装備が勿体なくなっただけだ。お前は着てくれないし――」
「あの格好はキツイって! 俺の世界じゃ、それこそ幼児しか着ねぇような服だもん!」
 だから絶対に嫌だ、と前に見せた時も断られたんだ。

「でもS級は着せる気満々だったぞ?」
「……ハァ。あいつは言い出したらしつこいからな」
 うんざりしてユートは顔を両手で覆ってしまったが、口元がヒクリと動いたのが僅かに見えた。
 笑ってるってことは、嫌じゃないってことだな?

「なんだったら、その格好で若君に付いていくか?」
「っ!? はぁあああああ~? おまっ、何いってんの? 俺は戦いでは役立たずだぞ!」
 大悪魔を倒したS級の大妖が、焦ったようにそう言った。
 本気で言ってるところが凄いと思う。

「役に立ったらギルマスに怒られるから、丁度いいだろ」
「あっ、そうか! 活躍しないで見てるだけ!」
 それなら良いかも、とか言ってる辺りがチョロくて心配になる。
 これじゃS級も心配性になる筈だ。

「ま、魔道具師が共に来てくれるのか!」
 やっと転移の衝撃から冷めた若君が興奮したようにそう言った。

「しかし足手まとい――」
 お付きが眉を釣り上げたので、俺はすかさずS級が付いてくると言ってやった。

「S級が心配してユートに付いてくる。しかも、せぇらぁ服を着ていたら間違いない」
「それは――着て頂かなくては」
 あっさりと自説を曲げたお付きの男にユートが吠えた。

「アホかぁあああああっ! 何を勝手に決めてくれちゃってるんだよ! いっ、良い年してアレを着せられる身にもなってみろ!」
「そちは似合いそうだから問題ないであろう」
「似合ってたまるかっ!」
「なら着てみてはいかがかな?」
「えっ!? それは……出来ない」
「何故だ?」
 偉そうなお付きに追い詰められて、ユートが顔を真っ赤にしてボソボソと答えた。

「あいつの、いないとこで……短パンなんて穿いたら、お仕置きされるもん」
 あ~、そうだな。奴は間違いなく嫉妬に狂う。
 でもどうせいつもの事だろう?

「ユート、いいから穿いて見せろ。微調整なおしが必要なんだよ」
「お、お前、他人事だと思って!」
「いいから早くしろ」
 急かしたらユートは渋々と着替えた。
 やっぱりチョロい、と思いつつその清楚な姿にグッと拳を突き上げた。

「似合うっ! ブルーのラインの入った襟がいいっ! スカーフとか言うものもヒラヒラしてていいし、白は黒髪がよく映えるなぁ。丈はやはり短い方が、後ろ姿がスッキリする。いい。これは良い……」
 まさかせぇらぁ服と半ズボンの組み合わせがこれほど良いとは思わなかった。
 若君の姿を目にした時は絶望しか感じなかったのに、今は無限の可能性を感じる。

「これは尻尾を出すべきじゃ……いや、しかし無い方が尻のラインが見えていいか? それとも股の間を無くして、下から垂らすという手も……ハッ! 全部だ! 全部作って、日替わりで選べるようにしたら良いのか!」
 俺って天才では? そう思ってワナワナと震えていたら思いっきり頭を叩かれた。

「いい加減にしろっ! それにこれ、俺のサイズで作っただろ!? 直すとこなんてねーじゃねぇか!」
「うん、ぴったりだな」
 やはり俺は天才だ、と悦に入っていたらユートが諦めたように溜め息を吐いてから着替えに行ってしまった。
 似合っていたのに残念だ。

「魔道具師は楽しい男だな」
 若君が愉快そうに言ったので、俺もニヤリと笑って同意する。

「まぁ、飽きませんね」
「私も冒険者ギルドに入りたいものだ」
 若君が羨ましそうにそう言った。
 けれど貴族は冒険者ギルドに所属できない決まりだ。

「ギルドに入らなくても魔物の討伐は出来ます。俺は依頼があれば貴族からも受けるし、ユートだって叱られんのがわかっててもヤバイ加護を与えちまう。ギルドに入らなくても面白く生きられます」
「そうか。そうだな」
 若君がいかつい顔を綻ばせた。段々と良い若者に見えてきたから不思議だ。

「そろそろリッドが戻ってくると思うけど、どんな加護が欲しいか決めたか?」
「いえ、強力な武器が欲しいと思う以外は何も……」
「武器かぁ……。リッドみたいに、魔剣が欲しいとか? でも魔剣は誰でも扱えるものじゃ無いからな」
 ユートは高い魔力と適性がいる、とは口にしなかったがそれは誰でも知っている事だ。
 そして若君は魔力が少ないらしい。

「俺のお守りは魔力量に左右されるからなー。まあ、裏技が無くはないけど……」
 ユートがブツブツと呟いている間に、バッファローを背負った男が戻ってきた。
 やっぱりこいつも化け物だ。

「さあ、セーラー服をこっちに寄越せ!」
 それを言う為にわざわざ持ってきたのか。
 ギルドに持ち込んで解体して貰えば良いのに。

「S級、そいつを渡されても困るだろう。ギルドで解体して貰って、皮を俺に譲ってくれ」
「しかしセーラー服は――」
「俺が預かってる。但し若君の討伐までは着ないからな!」
 S級の口を塞ぐように告げたユートの言葉に、S級が不思議そうに首を傾げる。

「討伐? 同行する気か?」
「後で説明してやるから、取り敢えずそいつをギルドに持って行くぞ。イーサン、皮と引き換えに刺繍を渡すよ。討伐の日が決まったら教えてくれ」
「あっ、おい、何の加護を付ける気だ?」
「それは当日のお楽しみだ」
 そう言うとユートはS級を引っ張って消えてしまった。
 取り残された俺たちは唖然とする。

「出来上がるまで教えて貰えないのか……」
「すみません、あいつはそういう奴なんです。でも絶対にガッカリはしない筈なんで」
「ああ、楽しみにしている」
 そう笑ってくれた若君の度量の大きさにホッとする。
 そして俺は気合を入れて、黄金のバッファローの装備を作った。

 ***

「あ~っ、もう、恥ずかしいなっ!」
 そう言いつつもユートはきっちりとせぇらぁ服を着てきてくれた。
 あれから無理を言って少し丈を詰めたシャツの裾が風に翻り、チラリと白い腹が覗いた。
 ショートパンツには後ろと前にタックを二本ずつ入れ、少しズボン幅を太くしたので生地がパタパタと揺れているのが見えそうで見えなくてイイ。
 S級もずっとユートに目が釘付けで、若君に話し掛けられても応えもしなかった。

「若君、このバカの事は放っておいて下さい。えーと、刺繍の説明をしますね」
「うむ、いよいよ明かされるのか!」
「それは魔剣召喚の魔法陣です。但し若君の魔力量で使える時間は、精々が五分ってとこですね。大人になればもう少し上がるとは思いますけど――」
「まっ、魔剣!? 本当かっ!」
 若君が興奮するのも無理はない。
 魔剣なんて、国中を探したって五本とないからな。二本も揃ってるうちのギルドが異常なんだ。

「おい、ユート。それは何処から召喚してるんだ? あと、何の魔剣だよ」
 魔剣にはそれぞれ属性がある。
 S級のは焔の魔剣だし、ギルマスが持ってるのは雷だったか?

「持ち主がいない奴だから心配しなくていいよ。あと、属性は光って言うのかな? 火花が散って、爆発するみたいで綺麗だよ」
 とんでもない事を言い出したユートを見て、ちょっとだけ奴を野放しにした事を後悔する。

(でもまぁ、五分だけだしな)
 そう思って俺は気にしない事にした。

「一日に僅か五分なんで、使い所はよく考えて下さいね。でも大概の敵は一撃で屠れますから」
 ニコニコと笑ってそう言ったユートを、S級が後ろから羽交い締めにするように引き寄せた。

「ユウ、シャツの裾がチラチラしてるのが心臓に悪い!」
「だからってしがみつくなよっ!」
「ほら、手だってこんなに簡単に入る」
「ばっ、人前だろっ! ヤメロっ!」
「止めて欲しかったら煽るなっ!」
 魔物の討伐に来ていると言うのに、派手な痴話喧嘩を繰り広げるS級とユートを無視して若君に話し掛ける。

「あいつらのことはいないものと思って下さい。それより不具合があったらこの場で直すので教えて下さい」
「わ、わかった。人を当てにするなという事だな。イーサンは装備を宜しく頼む」
 そう言って飛び出して行った若君たちをこの場で見送る。
 背後ではバカップルが相変わらずいちゃついている。

(別にそういう事には興味がないからいいんだけど、他所でやってくれないかなぁ)
 俺のそんな願いも虚しく、生々しい衣擦れの音と湿った音が響いてくる。

「バカッ、手を入れるなっ!」
「外からは見えないんだから、構わないだろう?」
「あっ、あっ、ダメッ! 見えなくても、入ってるのバレちゃうぅぅ……」
「ん? 何処に、何が入ってるんだ?」
「胸と、後ろに……リッドの……ふぁんっ!」
「こんなにあちこち簡単に入れていいのか?」
「だから、よくな……あんっ! ゴシゴシ、やぁぁぁ!」
「いや? 本当にいやか? 腰が動いてるが」
「ちがっ、抜こうとして……」
「抜いたら出てくるだろう?」
 一際甘ったるいS級の声がして、俺は思わず何が出てくるのか気になって振り向いた。
 そうしたら後ろからクラーケンに襲われているような格好のユートが、大きく目を見開いたのが見えた。
 片足がひくんと持ち上がり、ショートパンツの裾が捲れ上がったがギリギリで見えてはいない。見えてはいないが、中で何が起きているのかは一目瞭然だった。

(あれは立ったまま挿れられてるな)
 足が地面に着いてなくて可哀想、と思いつつ俺は前に向き直った。
 なんか急に締め付けるなとか、ナカに出すなとか、押し付けて回すなとか騒いでいるけど俺は何も聴こえない。
 別にやってることに興味はないんだ。

(ただ、着たまま出来る服ってのはいいな。可愛いしまた作ろう)
 俺はS級に動き難くなかったか後で訊こうと思いつつ、遠くで若君が魔剣の火花を散らしたのを見て手を叩いた。
  
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