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63.先輩が珍しく困っていたので一肌脱ぐ事にした-2
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「ユートと赤髪のは仲が良いんだな?」
「誓いを立てた間柄だからな」
「恋人なのか?」
「そうだ」
「ユートがよく受け入れたな。そっちの趣味には見えないが」
「俺は特別なんだそうだ。なあ?」
リッドに話を振られたが応えられる筈がない。
俺は二人の会話が居た堪れなくて、聴こえないふりをした。
そうやって視線を彷徨わせていたらカイト先輩の様子が目に入り、傷付いた表情を見て胸が痛む。
色々とあったけれど俺がこの人を好きになることはない。なのに先輩はまだ俺を忘れられないでいる。
申し訳ないとか可哀想だとか思うんだけど、俺にはどうもしてあげられない。
見なかったふりをするのが精一杯だ。
「ほう? カイトはユートのことが……」
バーナビー卿が俺と先輩の様子を見て目敏く何か気付いたようだが、それ以上は口に出さなかった。
豪放磊落に見えてもその程度の節度はあるらしい。
「どうやら勇者の秘蹟については、貴殿らにも協力して貰った方が良さそうだな」
ニヤリと笑ったバーナビー卿を見て慌てる。
「いえ、俺たちにはやる事があって――」
「呪いの解き方を調べているのだろう? わたしも協力しよう。自分で言うのも何だが、それなりに顔は広いぞ」
「ん~、それはいい話かも」
あと三つ、王子たちから言い伝えを聞いて試したとしても外れかもしれないから、その後の事も考えておくのはいい。
「でも、先にあと三つほど、試してしまいたいんだけど。それが終わってからでもいいなら、協力させて貰います」
「ああ、それで構わない。でもその前に、ちょっと手合わせだけして貰えないか?」
「手合わせ?」
「聖剣を持ったユートと戦ってみたい」
そんな事を満面の笑みで言われて面食らう。
バーナビー卿って、もしかして思考が筋肉で出来ているのかな?
「ふざっけんな! こいつは戦闘職じゃない!」
激高した先輩が俺を押し退けて前に出てくる。
それを見てバーナビー卿はデレデレと嬉しそうに笑み崩れながら先輩に近付いた。
「それはわかっているとも。だけど聖剣をどのくらい使えるのか、わたしが相手をするのが一番正確に測れるだろう?」
「やめろっ! こいつにあれは耐えられない!」
カイト先輩が血相を変えて喚いているのを見て、一体バーナビー卿はどれだけ酷い仕打ちを先輩にしたんだと呆れる。
「バーナビー卿、俺が危険な目に遭ったら、リッドが切れて大変なことになると思います」
「おや、もうブルースと呼んでくれないのか?」
「ブルース、あなたが腕に自信を持っていてもリッドには敵わない。そもそも魔剣持ちとは勝負にならない」
「魔剣ならわたしも持っている」
「へっ?」
「わたしのは風の魔剣と呼ばれている」
そう言ってバーナビー卿はスラッと剣を抜いた。
おいおい、城内で魔剣を持ち歩くとかアホなの? 大丈夫?
「ユート、言いたいことはわかるがこいつは特別だ」
「特別に許されているってこと?」
「まあ、色々と理由があってな」
先輩はその理由とやらを知っているようだったが言いたくないみたいだ。
「わかって貰えたかな?」
にこりと笑いながらバーナビー卿が言った。
しかし俺は首を横に振る。
「あなたが魔剣を持っている事はわかりました。それでも相手にはならないと思いますよ?」
俺はバーナビー卿では絶対にリッドに敵わないとわかっていた。
だから止めたかったんだけれど、困ったことにバーナビー卿は諦めるつもりがない。
「わたしは聖剣を持った相手と戦ってみたいだけだから、ユートに怪我をさせる気はない。それに赤髪にも聖剣が使えるか試してみて欲しい」
この状況で考えることってそれかよ。
本当に勇者の秘蹟にしか興味がないんだな。
「聖剣はあなたには使えたんですか?」
「残念ながら、持つことも出来なかった」
「他の人は?」
「誰も。カイト以外には誰一人聖剣を扱えなかった」
ふぅん、じゃあどうして俺には使えたんだろうな?
あの一回こっきりで、今の俺には使えなくなってんのかな。
試したことがないからわからないや。
「先輩、俺も聖剣を使えるか試してみたい」
「ユートッ! こいつは手加減なんてしてくれないぞ!」
「でも先輩だって知りたいだろう?」
「ユートッ!」
焦れったそうに先輩が俺の名前を叫び、手を伸ばしてきたが届く前にリッドによって阻まれる。
「俺が守るから心配ない」
「だがっ、」
「俺が守る」
同じ言葉を二回繰り返したリッドの前で、先輩が悔しそうに引き下がった。
その先輩の肩をバーナビー卿がガッチリと掴んだ。
「そんなに心配するな。わたしだって人を見て対応を変えるさ」
「全く信用出来ない」
カイト先輩は地を這うような低い声でそう言い、素気なくバーナビー卿の手を振り払った。
それでも懲りずにバーナビー卿は先輩に近接する。
(あれぇ? もしかして、バーナビー卿ってカイト先輩に気があるのか?)
それが勇者に舞い上がった挙げ句の馴れ馴れしさなのか、カイト先輩に下心があってのスキンシップなのか今ひとつわからない。
先輩は兎に角この人の事が苦手で、下心なんてあってもなくても同じみたいだけど。
「リッド、あとでバーナビー卿をコテンパンにしてくれる?」
「わかった」
リッドは訳も聞かずにあっさりと頷き、俺はバーナビー卿の真意を確かめるべく動くのだった。
「誓いを立てた間柄だからな」
「恋人なのか?」
「そうだ」
「ユートがよく受け入れたな。そっちの趣味には見えないが」
「俺は特別なんだそうだ。なあ?」
リッドに話を振られたが応えられる筈がない。
俺は二人の会話が居た堪れなくて、聴こえないふりをした。
そうやって視線を彷徨わせていたらカイト先輩の様子が目に入り、傷付いた表情を見て胸が痛む。
色々とあったけれど俺がこの人を好きになることはない。なのに先輩はまだ俺を忘れられないでいる。
申し訳ないとか可哀想だとか思うんだけど、俺にはどうもしてあげられない。
見なかったふりをするのが精一杯だ。
「ほう? カイトはユートのことが……」
バーナビー卿が俺と先輩の様子を見て目敏く何か気付いたようだが、それ以上は口に出さなかった。
豪放磊落に見えてもその程度の節度はあるらしい。
「どうやら勇者の秘蹟については、貴殿らにも協力して貰った方が良さそうだな」
ニヤリと笑ったバーナビー卿を見て慌てる。
「いえ、俺たちにはやる事があって――」
「呪いの解き方を調べているのだろう? わたしも協力しよう。自分で言うのも何だが、それなりに顔は広いぞ」
「ん~、それはいい話かも」
あと三つ、王子たちから言い伝えを聞いて試したとしても外れかもしれないから、その後の事も考えておくのはいい。
「でも、先にあと三つほど、試してしまいたいんだけど。それが終わってからでもいいなら、協力させて貰います」
「ああ、それで構わない。でもその前に、ちょっと手合わせだけして貰えないか?」
「手合わせ?」
「聖剣を持ったユートと戦ってみたい」
そんな事を満面の笑みで言われて面食らう。
バーナビー卿って、もしかして思考が筋肉で出来ているのかな?
「ふざっけんな! こいつは戦闘職じゃない!」
激高した先輩が俺を押し退けて前に出てくる。
それを見てバーナビー卿はデレデレと嬉しそうに笑み崩れながら先輩に近付いた。
「それはわかっているとも。だけど聖剣をどのくらい使えるのか、わたしが相手をするのが一番正確に測れるだろう?」
「やめろっ! こいつにあれは耐えられない!」
カイト先輩が血相を変えて喚いているのを見て、一体バーナビー卿はどれだけ酷い仕打ちを先輩にしたんだと呆れる。
「バーナビー卿、俺が危険な目に遭ったら、リッドが切れて大変なことになると思います」
「おや、もうブルースと呼んでくれないのか?」
「ブルース、あなたが腕に自信を持っていてもリッドには敵わない。そもそも魔剣持ちとは勝負にならない」
「魔剣ならわたしも持っている」
「へっ?」
「わたしのは風の魔剣と呼ばれている」
そう言ってバーナビー卿はスラッと剣を抜いた。
おいおい、城内で魔剣を持ち歩くとかアホなの? 大丈夫?
「ユート、言いたいことはわかるがこいつは特別だ」
「特別に許されているってこと?」
「まあ、色々と理由があってな」
先輩はその理由とやらを知っているようだったが言いたくないみたいだ。
「わかって貰えたかな?」
にこりと笑いながらバーナビー卿が言った。
しかし俺は首を横に振る。
「あなたが魔剣を持っている事はわかりました。それでも相手にはならないと思いますよ?」
俺はバーナビー卿では絶対にリッドに敵わないとわかっていた。
だから止めたかったんだけれど、困ったことにバーナビー卿は諦めるつもりがない。
「わたしは聖剣を持った相手と戦ってみたいだけだから、ユートに怪我をさせる気はない。それに赤髪にも聖剣が使えるか試してみて欲しい」
この状況で考えることってそれかよ。
本当に勇者の秘蹟にしか興味がないんだな。
「聖剣はあなたには使えたんですか?」
「残念ながら、持つことも出来なかった」
「他の人は?」
「誰も。カイト以外には誰一人聖剣を扱えなかった」
ふぅん、じゃあどうして俺には使えたんだろうな?
あの一回こっきりで、今の俺には使えなくなってんのかな。
試したことがないからわからないや。
「先輩、俺も聖剣を使えるか試してみたい」
「ユートッ! こいつは手加減なんてしてくれないぞ!」
「でも先輩だって知りたいだろう?」
「ユートッ!」
焦れったそうに先輩が俺の名前を叫び、手を伸ばしてきたが届く前にリッドによって阻まれる。
「俺が守るから心配ない」
「だがっ、」
「俺が守る」
同じ言葉を二回繰り返したリッドの前で、先輩が悔しそうに引き下がった。
その先輩の肩をバーナビー卿がガッチリと掴んだ。
「そんなに心配するな。わたしだって人を見て対応を変えるさ」
「全く信用出来ない」
カイト先輩は地を這うような低い声でそう言い、素気なくバーナビー卿の手を振り払った。
それでも懲りずにバーナビー卿は先輩に近接する。
(あれぇ? もしかして、バーナビー卿ってカイト先輩に気があるのか?)
それが勇者に舞い上がった挙げ句の馴れ馴れしさなのか、カイト先輩に下心があってのスキンシップなのか今ひとつわからない。
先輩は兎に角この人の事が苦手で、下心なんてあってもなくても同じみたいだけど。
「リッド、あとでバーナビー卿をコテンパンにしてくれる?」
「わかった」
リッドは訳も聞かずにあっさりと頷き、俺はバーナビー卿の真意を確かめるべく動くのだった。
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