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63.先輩が珍しく困っていたので一肌脱ぐ事にした-1
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休暇を終えて王城へ戻ってきたら、カイト先輩が泣き付いてきた。
「やっと戻ってきた! 頼む、俺を匿ってくれ!」
「匿う? 借金取りにでも追われてんの?」
「いや、もっと恐ろしいものだ!」
そう言ってブルブルと本気で震えているカイト先輩をちょっと呆れながら見た。
この人って変に前向きだから、こんな風に逃げ回っている姿は珍しい。
カイト先輩にそこまでさせている人って誰だろう?
「先輩は誰から逃げてんの? ちょっと会わせてみてよ」
「バッ、わざわざ自分から行くわけ無いだろう!? やっと撒いたんだぞ!」
「なんだよ、らしくねぇなぁ」
嫌な相手ならなおさら逃げてないで正論をぶちかませばいいのに。
それともまさか、向こうの方に理があるの?
「兎に角、どうして追われているのか、なんで逃げているのか説明しろよ。逃げているうちに相手が諦めてくれるならそれでもいいけど、そうじゃないなら調査に支障をきたすだろ?」
「クッ、珍しくお前の言う通りだ」
カイト先輩がガクリと膝を付いた。
先輩の振る舞いも演技過剰になってきたな~。いい感じに異世界に染まってんだなと思う。
俺は侍女を呼んでお茶を淹れて貰い、先輩とテーブルを囲んだ。
「勇者の秘蹟研究サロンという集まりは知っているか?」
「あ、うん。歓迎パーティで先輩を取り囲んでいた人たちでしょ?」
「そうだ。大半は王城付きの学者なんだが、中には金と暇を持て余した貴族の次男坊以下もいてな」
「あ~、スポンサー?」
「ああ」
勇者と聖女については国を上げての研究部門がある。あるんだけど、予算は渋いし研究内容も事前に申請して通った内容に限る。仕事である以上、興味の赴くまま好き勝手に出来るわけじゃないのは当然だ。
だから仕事では勇者の伝聞まとめとか、足取り調査とか地味な作業をやって、勇者の秘蹟研究サロンでは勇者そのものについて調べているらしい。ただそれには金が掛かる。
「スポンサーはサロンに名を連ねて資金援助を行い、ちょっとした知識人ぶれればいいって人たちなんだが……中に筋金入りの勇者フリークが一人だけいてな」
「それが先輩に付き纏ってるって?」
「そうだ」
重々しく頷いた先輩を見て、俺は指を唇に当てて考え込む。
「そりゃあ、研究対象が目の前に現れたら舞い上がっちゃうよなぁ。少しくらい付き合ってあげたら?」
「お前はあいつを知らないからそんな簡単に――」
「バーナビー卿がおいでになりました」
ノックと共にそう告げられ、カイト先輩が飛び上がった。
「俺はいないって言ってくれ!」
先輩がそう叫んだが既に遅く、バーナビー卿という人が勝手にドアを開けて押し入ってきた。
「カイト! やっと会えたな!」
「今朝も会ったし、俺は会いたくなかった!」
「ハッハッハ! 愉快なことを言うなよ」
大きな口を開けて笑う朗らかな大男は、貴族というよりは冒険者に見えた。
豊かな栗色の髪と髭は大きなテディベアといった趣で愛嬌を感じさせる。
髭の所為で年嵩に見えているが、よく見たらまだ若いのかもしれない。肌には艶があり、明るい水色の瞳は快活そうに輝いていた。
「始めまして、バーナビー卿。迷い人のユートです」
本来なら目下の者が目上の人に紹介もなく声を掛けてはいけないのだが、俺は敢えて二人の間に割って入った。
無視されているのが面白くなかったし、こちらの部屋に押し掛けてきた非礼は向こうにある。
俺が先輩を背中に庇うように立ち塞がったら、ひょいとバーナビー卿の太い眉が上がった。
「今回の攻略で大悪魔を倒したという異世界人か?」
「そうです。倒したのは偶然ですけど」
「謙遜をするなよ。聖剣を勇者でもないのに使ったと聞いて、話を聞いてみたいと思っていたんだ。わたしはバーナビー卿、ブルース・モレク。ブルースと呼んでくれ」
名前と爵位が別なのって本当に混乱する。俺は遠慮なく名前で呼ばせて貰う事にした。
「ブルース、こちらはA級冒険者のリッドです。一緒にS級ダンジョンを攻略したので、同席させて下さい」
「そうか、貴殿が焔の魔剣の持ち主か」
「知っているのか?」
「近衛隊には赤髪の隠れファンが多いんだ」
そう言ってパチンとウィンクをしてくるバーナビー卿は、近衛隊の隊長でもあるそうだ。
お城の兵隊さんたちは冒険者をただの荒くれ者、犯罪者と大差ないと言って蔑む傾向にあるんだけど、高名な冒険者に対しては憧れもあるらしい。なかなか複雑な心境だ。
「赤髪ってリッドの二つ名?」
「そうだ。他にも色々とあるぞ。灼熱の魔神とか、赤い人災とか、劫火の魔獣とか――」
「ふはっ!」
思わず厨二病っぽい二つ名に驚いて噴き出してしまった。
「赤髪の冒険者というのが一番通りがいい」
「ふぅん。俺も赤髪って呼ぼうかな」
ニヤニヤと笑いながらそう言ったら、リッドが俺の髪を下から掬い上げて毛先に口付けた。
「何と呼ばれても構わないが、あの時だけは名前を呼べよ?」
「う゛っ……」
“あの時” というのがずばりあの時だと気付いて頬が熱くなる。
くそぅ、返り討ちに遭った気分だ。
「やっと戻ってきた! 頼む、俺を匿ってくれ!」
「匿う? 借金取りにでも追われてんの?」
「いや、もっと恐ろしいものだ!」
そう言ってブルブルと本気で震えているカイト先輩をちょっと呆れながら見た。
この人って変に前向きだから、こんな風に逃げ回っている姿は珍しい。
カイト先輩にそこまでさせている人って誰だろう?
「先輩は誰から逃げてんの? ちょっと会わせてみてよ」
「バッ、わざわざ自分から行くわけ無いだろう!? やっと撒いたんだぞ!」
「なんだよ、らしくねぇなぁ」
嫌な相手ならなおさら逃げてないで正論をぶちかませばいいのに。
それともまさか、向こうの方に理があるの?
「兎に角、どうして追われているのか、なんで逃げているのか説明しろよ。逃げているうちに相手が諦めてくれるならそれでもいいけど、そうじゃないなら調査に支障をきたすだろ?」
「クッ、珍しくお前の言う通りだ」
カイト先輩がガクリと膝を付いた。
先輩の振る舞いも演技過剰になってきたな~。いい感じに異世界に染まってんだなと思う。
俺は侍女を呼んでお茶を淹れて貰い、先輩とテーブルを囲んだ。
「勇者の秘蹟研究サロンという集まりは知っているか?」
「あ、うん。歓迎パーティで先輩を取り囲んでいた人たちでしょ?」
「そうだ。大半は王城付きの学者なんだが、中には金と暇を持て余した貴族の次男坊以下もいてな」
「あ~、スポンサー?」
「ああ」
勇者と聖女については国を上げての研究部門がある。あるんだけど、予算は渋いし研究内容も事前に申請して通った内容に限る。仕事である以上、興味の赴くまま好き勝手に出来るわけじゃないのは当然だ。
だから仕事では勇者の伝聞まとめとか、足取り調査とか地味な作業をやって、勇者の秘蹟研究サロンでは勇者そのものについて調べているらしい。ただそれには金が掛かる。
「スポンサーはサロンに名を連ねて資金援助を行い、ちょっとした知識人ぶれればいいって人たちなんだが……中に筋金入りの勇者フリークが一人だけいてな」
「それが先輩に付き纏ってるって?」
「そうだ」
重々しく頷いた先輩を見て、俺は指を唇に当てて考え込む。
「そりゃあ、研究対象が目の前に現れたら舞い上がっちゃうよなぁ。少しくらい付き合ってあげたら?」
「お前はあいつを知らないからそんな簡単に――」
「バーナビー卿がおいでになりました」
ノックと共にそう告げられ、カイト先輩が飛び上がった。
「俺はいないって言ってくれ!」
先輩がそう叫んだが既に遅く、バーナビー卿という人が勝手にドアを開けて押し入ってきた。
「カイト! やっと会えたな!」
「今朝も会ったし、俺は会いたくなかった!」
「ハッハッハ! 愉快なことを言うなよ」
大きな口を開けて笑う朗らかな大男は、貴族というよりは冒険者に見えた。
豊かな栗色の髪と髭は大きなテディベアといった趣で愛嬌を感じさせる。
髭の所為で年嵩に見えているが、よく見たらまだ若いのかもしれない。肌には艶があり、明るい水色の瞳は快活そうに輝いていた。
「始めまして、バーナビー卿。迷い人のユートです」
本来なら目下の者が目上の人に紹介もなく声を掛けてはいけないのだが、俺は敢えて二人の間に割って入った。
無視されているのが面白くなかったし、こちらの部屋に押し掛けてきた非礼は向こうにある。
俺が先輩を背中に庇うように立ち塞がったら、ひょいとバーナビー卿の太い眉が上がった。
「今回の攻略で大悪魔を倒したという異世界人か?」
「そうです。倒したのは偶然ですけど」
「謙遜をするなよ。聖剣を勇者でもないのに使ったと聞いて、話を聞いてみたいと思っていたんだ。わたしはバーナビー卿、ブルース・モレク。ブルースと呼んでくれ」
名前と爵位が別なのって本当に混乱する。俺は遠慮なく名前で呼ばせて貰う事にした。
「ブルース、こちらはA級冒険者のリッドです。一緒にS級ダンジョンを攻略したので、同席させて下さい」
「そうか、貴殿が焔の魔剣の持ち主か」
「知っているのか?」
「近衛隊には赤髪の隠れファンが多いんだ」
そう言ってパチンとウィンクをしてくるバーナビー卿は、近衛隊の隊長でもあるそうだ。
お城の兵隊さんたちは冒険者をただの荒くれ者、犯罪者と大差ないと言って蔑む傾向にあるんだけど、高名な冒険者に対しては憧れもあるらしい。なかなか複雑な心境だ。
「赤髪ってリッドの二つ名?」
「そうだ。他にも色々とあるぞ。灼熱の魔神とか、赤い人災とか、劫火の魔獣とか――」
「ふはっ!」
思わず厨二病っぽい二つ名に驚いて噴き出してしまった。
「赤髪の冒険者というのが一番通りがいい」
「ふぅん。俺も赤髪って呼ぼうかな」
ニヤニヤと笑いながらそう言ったら、リッドが俺の髪を下から掬い上げて毛先に口付けた。
「何と呼ばれても構わないが、あの時だけは名前を呼べよ?」
「う゛っ……」
“あの時” というのがずばりあの時だと気付いて頬が熱くなる。
くそぅ、返り討ちに遭った気分だ。
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