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62.巨大遺跡で穴に嵌ってみた-1

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 リッドの腕の中で目が覚めて、身体もシーツもすっかり乾いて綺麗になっている事にホッとする。

(寝ている間に綺麗にしてくれたのか。ポーションも飲ませてくれたみたいだな)
 すっかりセックス後のポーション摂取が慣例化していて怖い。栄養ドリンク剤代わりに飲めるような金額じゃ無いんだけど。
 でもリッドも俺もアホみたいに稼いでいて金は使い切れないくらいに持っている。
 一番額が大きかったのはS級ダンジョンの討伐報酬だけど、王家からの魔道具の謝礼金や慰謝料もガッポリと貰っているし、俺はギルドから情報料や技術料なんてものも支給されている。
 よくわからないけど、魔術の発展に寄与するような新しい発見や魔法陣の開発と改良は金になるんだってさ。
 元の世界でいう特許料みたいなものなのかな?
 まぁそんな訳で、ギルドに卸している御守りやブローチ以外にも収入は多い。

(だからかなぁ、女の人に言い寄って来られるようになった)
 俺はこの世界の女の人よりも背が低くて細いから、幾ら誘ったって食事にも付き合ってくれないし男としては見て貰えなかった。
 優しくはしてくれるんだけど、それは同情とか親切心だけでそれ以上の意味なんてない。なかった筈なんだけど……今はよくオッケーサインを出される。
 勿論それは『いい思いをさせてくれるなら口説かれてあげてもいいわよ』って意味なんだけど、その事自体はギブアンドテイクだから狡いとか汚いとは思わない。
 お金があって女の人にいい思いをさせてあげるのも甲斐性ってやつなんだと思う。
 ただねぇ、奢ってあげるのは別に良いんだけど、御返しとかは欲しくないんだよ。
 好きにしていいわよって胸元を開かれても、面倒臭いなぁって思ってしまう。
 これどうしても触んなきゃいけないの? って聞きたくなる。
 まぁ、つまりは俺がこいつにしか反応しなくなっちゃったからなんだけど。

「責任を取ってくれよな」
 俺はぽそりと呟いて、リッドの盛り上がった胸筋を指で突っついた。

「何をだ?」
 ぱしっと指を掴まれて俺は頬を膨らませる。
「いきなり目を開くのは止めてくんない? ロボットみたいで怖ぇよ」
「ロボットとはなんだ?」
「あんたみたいな情緒のない奴だよ。なぁ、朝飯って部屋に持ってきて貰えるのか?」
「それでもいいが、大量に食べるならこっちから行った方が早い」
「一度に運べないくらい食べる気かよ」
 俺は呆れてそう言ったが、リッドは冒険者の習性だとかで食べられる時には物凄く沢山食べる。
 その代わりに任務中は余り食べなくても大丈夫なんだって。
 便利な体質だよな。

「俺も食い溜め出来るようになった方がいいのかな?」
「いや、お前はいいんじゃないか。卵の密室もあるし」
「でも――」
「ユウ、やめておけ」
 リッドに止められて俺は渋々と頷く。
 
(……まあな。俺は元々大した量を食べないし、食い溜めなんてしたら胃腸に負担が掛かって腹を壊しそうだし、そもそも冒険者でもないんだけど)

「ここは朝食も美味しいと聞いたから、お前は気に入ったものだけを食べればいい」
「残してもあんたが食べてくれる?」
「……ああ。こっちに寄越せ」
 リッドが頷くまでに僅かな間が空いたような気がするけど気の所為だろうか?

「リッド? どうかしたか?」
「いや、食事が済んだらその足で遺跡を見に行こう」
「ああ、巨石文明だっけ? 楽しみだな」
 こっちの人が巨大だと言う石造りの遺跡がどれ程大きいのか、見るのが楽しみだった。
 地球にもモアイ像なんかが残されているけど、実物を見たことはない。
 それが異世界で別の巨大遺跡を見ることになるとは、人生って本当に不思議だよな。
 俺はしっかりと腹拵えをしなくてはと、焼き立てのパンケーキを四枚も食べた。
 リッドに至っては俺の倍以上も食べて、分厚いハムステーキと付け合わせの芋のフライ、それから酢漬けの野菜も食べた。
 パンケーキには俺もリッドもスライムバターを載せた。

(あれ? 俺っていつからスライムバターを食べられるようになったんだっけ?)
 確か苦手だったような気がするのだが、気が付いたら普通に食べていた。もっちゃもっちゃとスラバを食べた後に、リッドとキスまでした。
 スライムバターを食べた後のキスはしないって言った筈なのに。

(ん? そんな事を言ったか?)
 記憶にないのにどうしてそう思うのか不思議だった。
 ひょっとしたら呪いが解け掛けているのだろうか?

「リッド、俺の――」
 呪いが解け掛けているのかも、と言い掛けて口を噤んだ。
 俺の勘違いかもしれないし、糠喜びをさせても悪いからな。もう少し様子を見てからにしよう。

「なんだ?」
「いや、俺のコーヒーにスライムバターは入れるなよ」
「何を言ってるんだ、スラバとクリームを入れないコーヒーなんてコーヒーじゃないだろう」
「いやいや、それはこの世界の常識だからね。俺は何も入れないのが好きなんだって」
「だが、俺と暮らすうちにお前も慣れて――いや、何でも無い。交換して貰ってこよう」
 リッドはスラバとクリームマシマシのコーヒーを手に立ち上がった。
 新しいものと交換して貰いに行く姿を見て、悪かったなと思う。
 思い出を全部なかったことにしたと思っただろうか?

(違う。覚えてはいないけど、お前と一緒にいて変化した部分はちゃんとそのままあるんだ)
 以前だったら好まなかった飲み物、しなかった行動、言わなかった言葉。
 そういうものは記憶がなくても残っている。
 だから頻繁に与えられるリッドからのキスに自然と唇を開いて応えていた。
 まるで教え込まれたように身体が勝手に動くんだ。

(リッド、忘れてないよ? あんたとした事を俺の身体は忘れていない)
 そう釈明したいけれど、前に『身体だけだと自分に言い聞かせた』と言っていたリッドにそれを言うのは躊躇する。
 俺は結局は何も言わずに換えてもらったブラックコーヒーを飲んだ。
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