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59.泉の妖精は間抜けな悪魔だった-1

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 俺はリッドに案内されて、南の国境沿いの深い森へとやってきた。
 魔物もそこそこ出るので、リッドの邪魔にならないように俺は逃げに徹する。
  
「近くにユニコーンの巣があるから、ついでに捕まえてくるか?」
「ユニコーンはもういいっ!」
 ユニコーンの透明な角で俺が一人遊びをしていたと聞き、信じたくはないけど薄っすらと記憶があったし荷物の中に実物もあった。
 本来なら槍の穂先となるそれをそんな事に使っていたなんて……。
  
「ユニコーンは月齢によって角の太さが違うから――」
「だからもう忘れろってばぁぁぁ!」
 なんだよ、もっと太いのじゃないと物足りないだろうって言いたいのか? 自慢か?
 そりゃあリッドのブツに比べたら細いけど、そんなの無くても俺は困らないんだからなっ!
  
「不要だと証明したければ簡単だ。俺が泉に入ればいい」
「だからその泉ってのは何なんだよ?」
「泉には妖精――実は悪魔が住んでいて、泉に落とした人間と引き換えに欲しいものを見せられる。誘惑に負ければ泉に落とした人間は悪魔のものになるし、取り引きを断れば帰して貰える」
 え、なにその何処かで聞いたような話。
 それってあれだろ? 正直に自分が落としたのはそれじゃないって言えば全部貰えるし、欲を掻いてそれだと言ったら何も貰えないって奴だろ?
  
「いや、欲しい物と落としたものと両方は手に入らない。欲に負けて大事なものを手放せば一生後悔するし、断れたとしても一度は目の前にきたチャンスを失ったんだから失意にくれる」
「それじゃ試そうなんて人はいないだろ」
「それがそうでもない。大事な人間を犠牲にしても、と考える狂った奴はいるし、自分にとって大切な人でなくては欲しい物は現れないというのに、攫って来た人間を泉に落として試そうとする奴もいる」
「うわぁ、ありそう」
「更には、泉に落ちた人間は悪魔と話す機会がある。悪魔は不安を煽り、ある事ない事を吹き込んで不和の種を撒く」
「……つまり?」
「泉から戻って来た人間が錯乱して攻撃してくることがある」
 うっわ、本当にリスクだけじゃん。
 俺たちみたいに特殊な事情でもない限り近付かない方がいいな。
  
「えーと、お前の納得する形を知りたいんだから、俺が泉に入れば良いんだよな?」
「いや、俺が泉に入ってお前の望みを形にした方が良いだろう」
「でもっ、俺が望むのって謝罪じゃなくて記憶を取り戻す事だし、多分駄目だと思う」
 実のところ俺は心から悪いと思ってない。だから駄目なんだ。
  
「だが、既に悪魔の呪いの掛ったユウが悪魔の元に行くのは不安だ。何が起こるかわからない」
「平気だって。力のある悪魔ほど対価なしには何も出来ない。そうだろ?」
「それはそうだが……」
「大丈夫。カゲボウシに頼んであんたを見てる。俺は悪魔の言葉になんか惑わされない」
「わかった。信じよう」
 リッドが頷いたので俺は思わずふにゃっと笑った。
 こいつに信用されると凄く嬉しい。
  
「但し絶対に無理はするな。危ないと思ったら俺を呼べ」
「うん。頼りにしてる」
 リッドは絶対に俺を助けてくれる。リッドがいれば大丈夫。そう思えるのはあの事があったからだろう。
 だとしたらあんな経験でも全くの無駄ではなかったのかもしれない。
 俺たちは到着してからの手順を話し合い、昼までに妖精の泉に着いた。
  
 ***
  
 木漏れ日の降り注ぐ泉を見て、俺は少々ガッカリした。
 う~ん、サイズが思っていたよりも大分小さい。綺麗だとは思うんだけど、正直に言ってショボい。
 俺の落胆を感じ取ったのだろう、リッドが油断するなと言ってきた。
  
「ダンジョンボスの大悪魔とは格が違う魔物だが、いやらしく質が悪い」
「あんたの足を引っ張らないように頑張るよ」
 ダンジョンで大悪魔を倒したとはいえ、俺のはただのラッキーな偶然に過ぎない。
 九尾になれるからと油断して、痛い目を見るのは一度で十分だ。
  
「ユウ、本当に大丈夫か? 他の方法を試してもいいんだぞ」
 リッドの言葉に俺は苦笑してキュッと抱き付いた。
  
「あんたは本当に過保護だよな。嫌じゃないけどさ」
「お前が大人しく保護なんてされないからだろう」
 諦めた様に溜め息を吐かれ、苦しいくらいに抱き返されてこの男が好きだなぁと思う。
 しっかりとした抱擁は安心感を与えてくれ、こいつの腕の中が俺の居場所なんだと思える。

「ちゃんと、この腕の中に戻ってくるから。だから行ってくるよ」
 俺はリッドの腕の中から抜け出して泉に身を投げた。

 柔らかな闇の中をゆっくりと沈むように降りていく。
 水の感触ではないので、やっぱりここは特殊な空間なのだと思う。
 底に着いたところで俺は悪魔と出会った。

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