129 / 181
59.泉の妖精は間抜けな悪魔だった-1
しおりを挟む
俺はリッドに案内されて、南の国境沿いの深い森へとやってきた。
魔物もそこそこ出るので、リッドの邪魔にならないように俺は逃げに徹する。
「近くにユニコーンの巣があるから、ついでに捕まえてくるか?」
「ユニコーンはもういいっ!」
ユニコーンの透明な角で俺が一人遊びをしていたと聞き、信じたくはないけど薄っすらと記憶があったし荷物の中に実物もあった。
本来なら槍の穂先となるそれをそんな事に使っていたなんて……。
「ユニコーンは月齢によって角の太さが違うから――」
「だからもう忘れろってばぁぁぁ!」
なんだよ、もっと太いのじゃないと物足りないだろうって言いたいのか? 自慢か?
そりゃあリッドのブツに比べたら細いけど、そんなの無くても俺は困らないんだからなっ!
「不要だと証明したければ簡単だ。俺が泉に入ればいい」
「だからその泉ってのは何なんだよ?」
「泉には妖精――実は悪魔が住んでいて、泉に落とした人間と引き換えに欲しいものを見せられる。誘惑に負ければ泉に落とした人間は悪魔のものになるし、取り引きを断れば帰して貰える」
え、なにその何処かで聞いたような話。
それってあれだろ? 正直に自分が落としたのはそれじゃないって言えば全部貰えるし、欲を掻いてそれだと言ったら何も貰えないって奴だろ?
「いや、欲しい物と落としたものと両方は手に入らない。欲に負けて大事なものを手放せば一生後悔するし、断れたとしても一度は目の前にきたチャンスを失ったんだから失意にくれる」
「それじゃ試そうなんて人はいないだろ」
「それがそうでもない。大事な人間を犠牲にしても、と考える狂った奴はいるし、自分にとって大切な人でなくては欲しい物は現れないというのに、攫って来た人間を泉に落として試そうとする奴もいる」
「うわぁ、ありそう」
「更には、泉に落ちた人間は悪魔と話す機会がある。悪魔は不安を煽り、ある事ない事を吹き込んで不和の種を撒く」
「……つまり?」
「泉から戻って来た人間が錯乱して攻撃してくることがある」
うっわ、本当にリスクだけじゃん。
俺たちみたいに特殊な事情でもない限り近付かない方がいいな。
「えーと、お前の納得する形を知りたいんだから、俺が泉に入れば良いんだよな?」
「いや、俺が泉に入ってお前の望みを形にした方が良いだろう」
「でもっ、俺が望むのって謝罪じゃなくて記憶を取り戻す事だし、多分駄目だと思う」
実のところ俺は心から悪いと思ってない。だから駄目なんだ。
「だが、既に悪魔の呪いの掛ったユウが悪魔の元に行くのは不安だ。何が起こるかわからない」
「平気だって。力のある悪魔ほど対価なしには何も出来ない。そうだろ?」
「それはそうだが……」
「大丈夫。カゲボウシに頼んであんたを見てる。俺は悪魔の言葉になんか惑わされない」
「わかった。信じよう」
リッドが頷いたので俺は思わずふにゃっと笑った。
こいつに信用されると凄く嬉しい。
「但し絶対に無理はするな。危ないと思ったら俺を呼べ」
「うん。頼りにしてる」
リッドは絶対に俺を助けてくれる。リッドがいれば大丈夫。そう思えるのはあの事があったからだろう。
だとしたらあんな経験でも全くの無駄ではなかったのかもしれない。
俺たちは到着してからの手順を話し合い、昼までに妖精の泉に着いた。
***
木漏れ日の降り注ぐ泉を見て、俺は少々ガッカリした。
う~ん、サイズが思っていたよりも大分小さい。綺麗だとは思うんだけど、正直に言ってショボい。
俺の落胆を感じ取ったのだろう、リッドが油断するなと言ってきた。
「ダンジョンボスの大悪魔とは格が違う魔物だが、いやらしく質が悪い」
「あんたの足を引っ張らないように頑張るよ」
ダンジョンで大悪魔を倒したとはいえ、俺のはただのラッキーな偶然に過ぎない。
九尾になれるからと油断して、痛い目を見るのは一度で十分だ。
「ユウ、本当に大丈夫か? 他の方法を試してもいいんだぞ」
リッドの言葉に俺は苦笑してキュッと抱き付いた。
「あんたは本当に過保護だよな。嫌じゃないけどさ」
「お前が大人しく保護なんてされないからだろう」
諦めた様に溜め息を吐かれ、苦しいくらいに抱き返されてこの男が好きだなぁと思う。
しっかりとした抱擁は安心感を与えてくれ、こいつの腕の中が俺の居場所なんだと思える。
「ちゃんと、この腕の中に戻ってくるから。だから行ってくるよ」
俺はリッドの腕の中から抜け出して泉に身を投げた。
柔らかな闇の中をゆっくりと沈むように降りていく。
水の感触ではないので、やっぱりここは特殊な空間なのだと思う。
底に着いたところで俺は悪魔と出会った。
魔物もそこそこ出るので、リッドの邪魔にならないように俺は逃げに徹する。
「近くにユニコーンの巣があるから、ついでに捕まえてくるか?」
「ユニコーンはもういいっ!」
ユニコーンの透明な角で俺が一人遊びをしていたと聞き、信じたくはないけど薄っすらと記憶があったし荷物の中に実物もあった。
本来なら槍の穂先となるそれをそんな事に使っていたなんて……。
「ユニコーンは月齢によって角の太さが違うから――」
「だからもう忘れろってばぁぁぁ!」
なんだよ、もっと太いのじゃないと物足りないだろうって言いたいのか? 自慢か?
そりゃあリッドのブツに比べたら細いけど、そんなの無くても俺は困らないんだからなっ!
「不要だと証明したければ簡単だ。俺が泉に入ればいい」
「だからその泉ってのは何なんだよ?」
「泉には妖精――実は悪魔が住んでいて、泉に落とした人間と引き換えに欲しいものを見せられる。誘惑に負ければ泉に落とした人間は悪魔のものになるし、取り引きを断れば帰して貰える」
え、なにその何処かで聞いたような話。
それってあれだろ? 正直に自分が落としたのはそれじゃないって言えば全部貰えるし、欲を掻いてそれだと言ったら何も貰えないって奴だろ?
「いや、欲しい物と落としたものと両方は手に入らない。欲に負けて大事なものを手放せば一生後悔するし、断れたとしても一度は目の前にきたチャンスを失ったんだから失意にくれる」
「それじゃ試そうなんて人はいないだろ」
「それがそうでもない。大事な人間を犠牲にしても、と考える狂った奴はいるし、自分にとって大切な人でなくては欲しい物は現れないというのに、攫って来た人間を泉に落として試そうとする奴もいる」
「うわぁ、ありそう」
「更には、泉に落ちた人間は悪魔と話す機会がある。悪魔は不安を煽り、ある事ない事を吹き込んで不和の種を撒く」
「……つまり?」
「泉から戻って来た人間が錯乱して攻撃してくることがある」
うっわ、本当にリスクだけじゃん。
俺たちみたいに特殊な事情でもない限り近付かない方がいいな。
「えーと、お前の納得する形を知りたいんだから、俺が泉に入れば良いんだよな?」
「いや、俺が泉に入ってお前の望みを形にした方が良いだろう」
「でもっ、俺が望むのって謝罪じゃなくて記憶を取り戻す事だし、多分駄目だと思う」
実のところ俺は心から悪いと思ってない。だから駄目なんだ。
「だが、既に悪魔の呪いの掛ったユウが悪魔の元に行くのは不安だ。何が起こるかわからない」
「平気だって。力のある悪魔ほど対価なしには何も出来ない。そうだろ?」
「それはそうだが……」
「大丈夫。カゲボウシに頼んであんたを見てる。俺は悪魔の言葉になんか惑わされない」
「わかった。信じよう」
リッドが頷いたので俺は思わずふにゃっと笑った。
こいつに信用されると凄く嬉しい。
「但し絶対に無理はするな。危ないと思ったら俺を呼べ」
「うん。頼りにしてる」
リッドは絶対に俺を助けてくれる。リッドがいれば大丈夫。そう思えるのはあの事があったからだろう。
だとしたらあんな経験でも全くの無駄ではなかったのかもしれない。
俺たちは到着してからの手順を話し合い、昼までに妖精の泉に着いた。
***
木漏れ日の降り注ぐ泉を見て、俺は少々ガッカリした。
う~ん、サイズが思っていたよりも大分小さい。綺麗だとは思うんだけど、正直に言ってショボい。
俺の落胆を感じ取ったのだろう、リッドが油断するなと言ってきた。
「ダンジョンボスの大悪魔とは格が違う魔物だが、いやらしく質が悪い」
「あんたの足を引っ張らないように頑張るよ」
ダンジョンで大悪魔を倒したとはいえ、俺のはただのラッキーな偶然に過ぎない。
九尾になれるからと油断して、痛い目を見るのは一度で十分だ。
「ユウ、本当に大丈夫か? 他の方法を試してもいいんだぞ」
リッドの言葉に俺は苦笑してキュッと抱き付いた。
「あんたは本当に過保護だよな。嫌じゃないけどさ」
「お前が大人しく保護なんてされないからだろう」
諦めた様に溜め息を吐かれ、苦しいくらいに抱き返されてこの男が好きだなぁと思う。
しっかりとした抱擁は安心感を与えてくれ、こいつの腕の中が俺の居場所なんだと思える。
「ちゃんと、この腕の中に戻ってくるから。だから行ってくるよ」
俺はリッドの腕の中から抜け出して泉に身を投げた。
柔らかな闇の中をゆっくりと沈むように降りていく。
水の感触ではないので、やっぱりここは特殊な空間なのだと思う。
底に着いたところで俺は悪魔と出会った。
21
お気に入りに追加
1,946
あなたにおすすめの小説
実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、pixivにも投稿中。
※小説家になろうでは最新『勇者祭編』の中盤まで連載中。
鋼の殻に閉じ込められたことで心が解放された少女
ジャン・幸田
大衆娯楽
引きこもりの少女の私を治すために見た目はロボットにされてしまったのよ! そうでもしないと人の社会に戻れないということで無理やり!
そんなことで治らないと思っていたけど、ロボットに認識されるようになって心を開いていく気がするわね、この頃は。
余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~
藤森フクロウ
ファンタジー
相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。
悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。
そこには土下座する幼女女神がいた。
『ごめんなさあああい!!!』
最初っからギャン泣きクライマックス。
社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。
真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……
そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?
ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!
第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。
♦お知らせ♦
余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!
漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。
よかったらお手に取っていただければ幸いです。
書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。
7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。
今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。
コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。
漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。
※基本予約投稿が多いです。
たまに失敗してトチ狂ったことになっています。
原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。
現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
王子様との婚約回避のために友達と形だけの結婚をしたつもりが溺愛されました
竜鳴躍
BL
アレックス=コンフォートはコンフォート公爵の長男でオメガである!
これは、見た目は磨けば美人で優秀だが中身は残念な主人公が大嫌いな王子との婚約を回避するため、友達と形だけの結婚をしたつもりが、あれよあれよと溺愛されて満更ではなくなる話である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1/10から5日くらいBL1位、ありがとうございました。
番外編が2つあるのですが、Rな閑話の番外編と子どもの話の番外編が章分けされています。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※僕はわがまま 時系列修正
※ヤード×サンドル終わったのでラブラブ番外編を末尾に移動 2023.1.20
【完結】愛する人にはいつだって捨てられる運命だから
SKYTRICK
BL
凶悪自由人豪商攻め×苦労人猫化貧乏受け
※一言でも感想嬉しいです!
孤児のミカはヒルトマン男爵家のローレンツ子息に拾われ彼の使用人として十年を過ごしていた。ローレンツの愛を受け止め、秘密の恋人関係を結んだミカだが、十八歳の誕生日に彼に告げられる。
——「ルイーザと腹の子をお前は殺そうとしたのか?」
ローレンツの新しい恋人であるルイーザは妊娠していた上に、彼女を毒殺しようとした罪まで着せられてしまうミカ。愛した男に裏切られ、屋敷からも追い出されてしまうミカだが、行く当てはない。
ただの人間ではなく、弱ったら黒猫に変化する体質のミカは雪の吹き荒れる冬を駆けていく。狩猟区に迷い込んだ黒猫のミカに、突然矢が放たれる。
——あぁ、ここで死ぬんだ……。
——『黒猫、死ぬのか?』
安堵にも似た諦念に包まれながら意識を失いかけるミカを抱いたのは、凶悪と名高い豪商のライハルトだった。
☆3/10J庭で同人誌にしました。通販しています。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる