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㊽誰の為に作るのか、誰の為に祈るのか-2

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「まあ、その辺の事も踏まえてリッドはお前を九尾化させたんだろうけど、まさか忘却の呪いに掛かるとはな。リッドにも申し訳が立たねえ」
「……」
 別に俺の事であいつに申し訳ないと思う必要なんてないだろ、とは言えなかった。
 リッドは俺以上に俺の事を考えてくれているからだ。

「やっぱり思い出した方がいいよな?」
「あいつはなんて?」
「何も。思い出して欲しいとも、思い出さなくていいとも言わない。言われたってどうにでも出来ないからかもしれないけどさ」
 大雑把に見えて妙に細やかなところのあるあの男なら、出来ない事を相手に要求したりはしないだろう。
 でも普通に考えたら思い出して欲しいに決まってるよな。

「お前はどうなんだ?」
「俺? 俺は……このままでもいいかな」
「今の状態が不安じゃないのか?」
 ギルマスに意外そうに訊かれたけど、あいつを知れば知るほど思い出すのが怖い。
 だって最中の俺を見る目とか、ちょっとまともじゃないんだぜ?
 あれだけ入れ込まれて、それに俺も応えてたってのが信じがたい。
 身体の関係はしようがないとして、思い出さないで済むならその方が楽なんじゃないかな~なんて思ってしまう。

「本当にそれでいいのか? 俺が口を出すことじゃねぇが、お前が最初に御守りを作ったのはあいつの為だぞ?」
「……え?」
 思ってもみなかったギルマスの言葉に目を見開く。

「魔力がないから魔物の毛を拾い集めて、魔法陣の模様を編み込んで、単なる気休めだなんて言ってたけど結果的にはそれがあいつの命を救った。それを知った時のお前の顔は、それはそれは可愛かったって後でリッドに自慢されてなぁ」
「命を……」
 まさかそんな事があったとは思わなかった。
 でも――そうか、俺はあいつの身を守れるものを作りたかったのか。

 魔力がないからどうにかそれを補おうと頭を捻って、試行錯誤を繰り返して、あの時はまだ使用者の魔力量に効果が左右されるなんて知らなかったからこんな事しか出来ないけどって歯痒く思って、それでもそれが俺に出来る精一杯だからそうした。
 精一杯の気持ち。それが誰の為だったのか、自分でちゃんと思い出せないけど。

「なあ、その時から俺はあいつの事が好きだったのか?」
「さあな。お前の気持ちはお前にしかわからんよ。あいつだって知らないんじゃないか?」
「ムッ。なんでだよ」
「それはな、どっかの天邪鬼なお子さんがなっかなか観念しねぇからよ。どっからどう見ても囲われてんのに、お前ときたら何も知らずに自由なつもりで飛び回って、可愛いよなぁ」
「おっさんの癖に可愛いって言うなよ」
 俺は苦い顔でそう言い返した。
 此処に来たばかりの俺が浮かれポンチだったのは認める。
 きっとあの男に迫られてもギリギリまで本気にしていなかったか、それか甘く見積もって取り返しがつかないところまで追い込まれたんだろう。
 どれだけチョロイ相手だったか、自分自身の事だけに容易に想像がつく。

「まあ、お前らの間には色々あったんだよ。そういうのを全部忘れたまんまにしておいて、本当にいいのかって話だ」
「……どちらにせよ、思い出す方法が見つかるまではどうにもならないだろ」
「そうだな。まずはそっちが先だ」
 ギルマスがあっさりと思考を切り替えてそう言った。
 ロマンチストでふざけた戯言をほざくオッサンだけど、同時に現実的でもある。
 元A級冒険者でギルドマスターだからな。当然だろう。

「お前の呪いを解く方法だが、S級ダンジョンボスの討伐に対する報奨の一部としてギルドから依頼が出されている。当然、ミレイユやB級たちも協力してくれてる」
「へぇ、なんとかなりそう?」
「正直に言って難航してる。まだ悪魔の正体も突き止めていない」
「リッドも知らないって?」
「ああ」
 う~ん、A級二人が知らないんじゃ諦めた方がいいかもな。

「正体を知らずに呪いを解く事は不可能?」
「不可能ではないが難しい」
 だとしたら、俺は別のアプローチをした方が良いのかもしれない。
 多角的な方面から物事を考えるって奴だ。

「だったら勇者と組むか?」
「え? 先輩と?」
 思っても見なかった提案に虚を衝かれる。

「勇者もこの世界の魔物には詳しくないし、異世界人同士だと動きやすいんじゃないか?」
「まあ、それはそうかもしれないけど……」
 確か俺はカイト先輩に告白されて、そんで断ったと思うんだけど気まずくないかぁ?

「勇者は聖剣を奪われたのを相当に気にしてたから、それどころじゃないだろうよ」
 そう言えば俺の所為だって騒いでたっけ。
 でもそんなのしようがないと思うけど。

「まあな。ただ周りが何を言ったって、こういうのは気持ちの問題だからな。本人が納得しなきゃどうにもならねぇよ」
 俺はギルマスの言葉に黙って頷いた。

「王城には過去に現れた勇者や聖女の記録があるし、こっちには伝わってない話もあるだろう。良い機会だから探ってきたらどうだ?」
「そうだな。俺も過去の勇者には興味があるよ」
 俺は前に地下水路で勇者の遺物を見つけた。
 リッド絡みだったらしく記憶が曖昧だけれど、そこで元の世界に戻るチャンスがあった。
 今はもう使えない筈だけど、どうやってそんな事を可能にしたのか調べたらわかるかもしれない。
 勇者が魔王だかS級の魔物だかを倒したのなら、呪いの対処法だって発見したかもしれない。
 いずれにせよ全くの無駄って事にはならないだろう。

「先輩と王城に行ってくるよ」
「ああ、こっちの事は任せろ。何かわかったら書簡を送る」
 俺はちょっとだけリッドと離れる事に不安を覚えたけど、もう妖気は安定しているんだから大丈夫だと自分に言い聞かせた。
 あの心配性な男が見守っていない所で何かあったら、と思ってしまうのはきっと心が弱っている所為だ。
 離れても大丈夫だってわかれば、きっと直ぐに平気になる。
 俺はリッドには会わずに出発する事にした。
  
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