上 下
103 / 181

㊻危険な副作用は先に言っておいて欲しかった-1(R−18)

しおりを挟む
「お前たちよくやった!」
 ギルマスに温かく迎えられ、他の冒険者や支援職の歓声を受けて俺たちはやっとダンジョンを攻略したという実感が湧いてきた。

「ギルマス、心配させてごめんね」
「全くだぜ! 中継が無いことがこんなにも歯痒いとはなぁ~。やっぱりお前のそれ、カゲボウシは凄く重宝するよ」
「ソウダネ」
 でも俺としては見られたくない場面もいっぱいあったので、今回は配信出来なくて良かったけどね。

「それでダンジョンボスはなんだった?」
「エンシェントドラゴン、に寄生した悪魔?」
「なんだそりゃ!?」
 目を白黒させるギルマスにA級の大男が考えながら慎重に話す。

「あれは二匹で一セットなんじゃないかと思う。どちらもダンジョンボスで、両方倒さないと攻略したと認められない」
「カーッ! そりゃあまた厄介だったなぁ! それで二匹とも勇者が倒したのか? それとも仲良く一匹ずつか」
「いや、エンシェントドラゴンに勇者がトドメを刺し、傷口から現れた大悪魔をユウが倒した」
「ユートがぁあああ?」
 物凄く吃驚した顔を見せるギルマスに、リッドが重々しい表情のままだからと続ける。

「だから、大悪魔の呪いをユウが受けた」
「大悪魔の呪い? それってまさか――」
「忘却の呪いだ」
 バタバタバタッと忙しなくギルマスが俺の方を見る。

「俺のことも忘れてんのかっ!?」
「いや、記憶の混乱はあるけど、ギルマスのことは忘れてねえよ。俺が忘れてんのは、その人の事だけみたい」
「『その人』って、まさかリッドか!?」
 余りにも反応の大きいギルマスを見て、恋人かどうかは兎も角としてこの人は確かに俺と関わりがあったらしいと思う。

「あ゛~っ゛、マジかっ!」
 頭を抱え込むギルマスに、俺は生きてるんだからいいじゃんと言った。

「生きてさえいれば、後のことはどうにでもなるよ」
「お前、随分と楽天的になったなぁ!」
 だって死んじゃうのが一番最悪だろう? 死んだらそこで終わりなんだから。

「それより早く素材を取りに行かないと、イーサンが待ち切れなくて突進しそうになってるぜ?」
「あっ、馬鹿! 新しい魔物は湧かなくても、生き残りがいるかもしれないんだから早まるなっ!」
 バタバタと慌てて走っていくギルマスを見て俺は笑った。

「エンシェントドラゴンなら俺が転移して取ってきてやるのに。一階から降りていったら、歩いて戻るのも大変じゃないか。なあ?」
 誰に言うでも無くそう言って振り向いたら、赤銅色の髪をした大男にそっと頬に手を当てられた。

「お前は少し休まなければ駄目だ。九尾に変態した影響で気が昂っているだけで、身体は疲れている。ここで休まないと体調を崩す」
「ムッ。平気だよ」
 赤の他人に訳知り顔をされるのが不快だった。
 あと気遣われているのはわかるけど、女みたいに扱われるのも面白くない。
 俺はこいつらより小さいけど子供ではないし、可愛がられるだけのペットでもない。
 ちゃんと男なんだってわからせてやりたい。

「自分の体調管理くらい自分で出来るっ!」
 そう言って男の手を払い落とし、忠告を無視した。
 俺は働きすぎを心配するギルマスに無理を言って同道し、ギルドで所有する秘蔵の容量無制限マジックバッグにエンシェントドラゴンを回収するのを手伝った。
 赤毛の男が怖い顔をして着いてきていたが知らないフリをする。
 だって俺にはあいつの言うことを聞く義理なんてないし、機嫌だって取る必要はない。
 でも……こんな風に落ち着かないのは、きっと見張られているみたいだからだ。
 気にする必要なんてない。俺はあいつを無視していい。
 そう思うのに気になって気になって仕方がない。
 本当に怒ってるのかな、呆れられたかなと早くも後悔しそうになる。

「ユート、頼むからあいつに優しくしてやってくれ」
 俺の態度を見かねたギルマスがそう頼んできた。

「だって知らない人だぜ? 俺だって戸惑ってんだよ」
「それはわかる。それはわかるがこっちの心臓が保たねえ!」
「気が小せぇな。あんたは関係ないんだから、無視してりゃいいだろ」
「無視できるかアホウ!」
 ギルマスとぎゃあぎゃあと騒いでいたら、不意に悪寒が襲ってきてぶるりと震えた。

「ユート?」
「あれ? 妖気が、上手く操れねぇ……ヒッ!」
 難なく抑え込めるようになっていた九尾の妖気が、身体の中で暴れ回って落ち着かない。グルグルと回ってあちこちに火が点いたようになる。
 その内に体中がムズムズして、全身を柔らかな毛に覆われて爪や尻尾が生えてくる。

(うわぁ~ん、出来損ないだぁ!)
 半獣化した俺はハァハァと獣らしく荒い息を吐いた。
 この状態が獣の発情期にも似た激しい欲情を伴う事は覚えている。
 半獣の姿で俺は誰かと散々に交わった。
 身体が根底から引っくり返される程の快感を、全身が性器になってしまったかのようなジクジクとした疼痛を身体が覚えている。それを思い起こすだけで一気に熱くなる。

(あれをもう一度だって?)
 誰と? と訊こうとして赤銅色の髪をした男と目が合う。俺が欲情している事が一瞬で男に伝わった。

(無理っ! あんたは無理だって! こっちに来んなっ!)
 心の中で叫ぶ俺を男が構わず担ぎ上げた。
(畜生、俺は荷物じゃねえ!)

「ギルマス、暫くフケる」
「あ~、壊すなよ」
「こいつ次第だ」
 フッと苦笑した男の様子に全身がカーッと熱くなる。
 なんだよ、なんでこんなに恥ずかしいんだよっ!
 俺はジタバタと暴れたが難なく連れ去られ、卵の密室のベッドに下ろされる。

「ユウ、記憶のないお前に手を付ける気はなかった。でも他の奴には渡せない。わかるだろう?」
「わっ、わかるかよっ!」
 だってこんなの自然に冷めるのを待てばいいじゃん。
 苦しいけどいつまでも続くもんじゃないだろうし。

「そんな甘いものじゃない。放っておいたら気が狂う」
「ッ!」
 男の言葉を聞いて、俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
 エッチしたくて気が狂うとかなんなの? それって九尾化の副作用?

「そうだな。あの時は俺がいるから平気だと高を括っていた。まさかお前に嫌がられる日が来るとは思ってなかった」
「……ずりぃ」
 なんであんたがそんな傷付いた顔をする訳?
 だって俺はあんたと何かあったなんて覚えてないし、俺が男とどうにかなったなんて信じらんねーよ。

「ユウ、お前が納得できないのはわかっている。それでも俺に抱かれろ」
「……ヤダ。やっぱり無理!」
 俺はベッドの上を転がって逃げようとした。
 だって殆ど初対面の大男と寝ろなんて言われたって、無理に決まってんじゃん!

「痛いことはしない。諦めろ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、pixivにも投稿中。 ※小説家になろうでは最新『勇者祭編』の中盤まで連載中。

鋼の殻に閉じ込められたことで心が解放された少女

ジャン・幸田
大衆娯楽
 引きこもりの少女の私を治すために見た目はロボットにされてしまったのよ! そうでもしないと人の社会に戻れないということで無理やり!  そんなことで治らないと思っていたけど、ロボットに認識されるようになって心を開いていく気がするわね、この頃は。

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。  今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

王子様との婚約回避のために友達と形だけの結婚をしたつもりが溺愛されました

竜鳴躍
BL
アレックス=コンフォートはコンフォート公爵の長男でオメガである! これは、見た目は磨けば美人で優秀だが中身は残念な主人公が大嫌いな王子との婚約を回避するため、友達と形だけの結婚をしたつもりが、あれよあれよと溺愛されて満更ではなくなる話である。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 1/10から5日くらいBL1位、ありがとうございました。 番外編が2つあるのですが、Rな閑話の番外編と子どもの話の番外編が章分けされています。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ※僕はわがまま 時系列修正 ※ヤード×サンドル終わったのでラブラブ番外編を末尾に移動 2023.1.20

カップル奴隷

MM
エッセイ・ノンフィクション
大好き彼女を寝取られ、カップル奴隷に落ちたサトシ。 プライドをズタズタにされどこまでも落ちてきく。。

【完結】愛する人にはいつだって捨てられる運命だから

SKYTRICK
BL
凶悪自由人豪商攻め×苦労人猫化貧乏受け ※一言でも感想嬉しいです! 孤児のミカはヒルトマン男爵家のローレンツ子息に拾われ彼の使用人として十年を過ごしていた。ローレンツの愛を受け止め、秘密の恋人関係を結んだミカだが、十八歳の誕生日に彼に告げられる。 ——「ルイーザと腹の子をお前は殺そうとしたのか?」 ローレンツの新しい恋人であるルイーザは妊娠していた上に、彼女を毒殺しようとした罪まで着せられてしまうミカ。愛した男に裏切られ、屋敷からも追い出されてしまうミカだが、行く当てはない。 ただの人間ではなく、弱ったら黒猫に変化する体質のミカは雪の吹き荒れる冬を駆けていく。狩猟区に迷い込んだ黒猫のミカに、突然矢が放たれる。 ——あぁ、ここで死ぬんだ……。 ——『黒猫、死ぬのか?』 安堵にも似た諦念に包まれながら意識を失いかけるミカを抱いたのは、凶悪と名高い豪商のライハルトだった。 ☆3/10J庭で同人誌にしました。通販しています。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

処理中です...