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㊵出掛ける準備は念入りに-1
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イーサンは変態だけどいい奴だった。同じ生産職だけあって話が合う。
「だから素材をそのまま使ったんじゃつまらないだろ? 例えば役に立たないと思われているような弱い素材だって関節部分に使用するとか、裏張りに使えば着心地も良くなる」
「動きやすさとか着心地って大事だよなっ! こっちの装備が部分鎧とか篭手とかガッチガチに固めるものばかりで気になってたんだ」
「ただ強ければ良いってもんじゃないのに、大概の防具作り職人はそこをわかってない」
「でもさぁ、丸出しってのもそれはそれで拙いんじゃないの?」
俺はイーサンが俺の為に作ってくれた短パンを手にそう言った。
ギルドで助けて貰ったあの日は緊急事態だったし勢いに押されたけど、冷静になったらやはり短パンは遠慮しておきたい。
「だが長いと着替えにくいだろう?」
「じゃあせめてハーフパンツにならないか?」
「ハーフパンツか……。それはそれで悪くないかも」
イーサンは俺を上から下までジロジロと見た挙げ句にそう言った。
どれだけ見られても邪な気配を感じないのは、イーサンが中身には興味のない男だからだ。
奴はあくまでも対象をどれだけ着飾れるか、どれだけ魅力的に見せられるかに全精力を傾けている。
俺はちょっとだけ興味が湧いて、「中身には興味がないのか?」と訊いてみた。
「興味? 相応しい格好をさせること以外にか?」
不思議そうに訊かれて俺は思わず苦笑した。
それ以外に何があると言わんばかりのイーサンの態度はいっそ潔い。
「それにしても、あんたがこんなに話せる奴だとは思わなかった」
ポツリと言ったイーサンの顔を見上げる。
俺の事を前から知っていたような口ぶりだ。
「俺の事を知っていたのか?」
「九尾化しているのは知らなかったけどな」
イーサンが苦笑しながら教えてくれたところによると、俺は防具職人たちの間で随分と評判が悪いらしい。
わざわざ防具を付けなくても俺の御守りを手首に付けるか首から下げれば効果が得られる。
装着する人自身の魔力量に魔法の威力が左右されるという欠点はあるものの、値段の安さとお手軽さは自分達を廃業に追い込むのではないかと随分と危惧されたらしい。
「いやちょっと待ってよ。俺が一人で作っているんだから全ての冒険者に行き渡る筈は無いし、そもそも消耗品だし、ちゃんと職人に作って貰った防具の方が信頼出来るって言う奴もいっぱいいるだろう?」
「わかってる。俺は自分の仕事に自信があるし、その人自身に合わせた防具を作れるからな。余り心配はしていなかったが――それでも、相容れないだろうとは思っていたんだ」
職人とは相容れない。それは俺が職人としては認められない、受け入れられないって事だ。
ショックでうるっときた俺を見てイーサンが慌てる。
「どっ、どうしたっ!?」
「俺は……職人を凄いと思ってる。それなのに相容れないとか言われちゃうと、じゃあ俺はなんなんだって……単なる異世界の知識に頼ったチートかって……うぅぅ」
「思っていたって言っただろう! 俺は、お前のことを凄い魔法使いみたいに思っていたんだよ! 魔物の毛を編み込むなんて手の掛かることをしているとは思ってなかったし、もっとちゃちゃっと魔法を付与出来ると思っていた。簡単に考えていた事を反省してるんだ。悪かった、許してくれ」
頭を下げられて俺はすんっと鼻を啜った。
凄いことを出来ると褒められるよりも、努力を褒められる方が嬉しい。
俺はニコッと笑ってある物を差し出した。
「硬化液で釦を作ったんだ。こっちの世界で釦って言うと木か石だろ? 女の人の服にはもっとキラキラしてる方が良いと思って」
「硬化液か!」
それは思い付かなかったと悔しそうに言うイーサンに、俺は魔法陣を封入する事で魔法も付与する事が出来ると自慢した。
「黒い釦は作れるか?」
「作れるけど、魔法陣の効果は余り発揮出来ないよ?」
「それでもいいから真っ黒い釦を一揃い作ってくれないか? いざという時には指で千切って使えるようにしたい」
「えっ、なにそれ夢がある」
俺には釦を千切って投げるという発想が無かった。
投げられるなら煙が出る魔法を付与して目くらましとして使ったり、強く発光させて魔物の気を引いたりと使い道が増えるかもしれない。
俺は夢中になって幾つもの試作品を作った。
ダンジョン攻略に出発するまで余り時間はなかったけれど、イーサンと協力して沢山の防具や装備が出来た。
最近は寒くなってきたこともあって、思わず魔物の毛を編み込んだ腹巻きなんてものまで作ってイーサンに笑われた。
「言っておくけどこれは温かいし、勇気百倍の魔法陣を編み込んでいるから新人冒険者には絶対にいいぞ?」
「でも赤はない」
イーサンに首を振られてそんなにおかしいだろうかと手にした腹巻きを見る。
赤い色にしたのは俺にとって温かいものと言ったら真っ先にリッドの髪色が思い浮かぶからだ。
赤銅色の派手な髪なんて全く馴染みがなかったのに、今ではその手触りも匂いも直ぐに思い出せる。
「どうしようかなぁ。幾ら伸縮性があると言っても、こっちの人に合わせて作ったから俺にはデカ過ぎるんだよな」
そう思って持て余していたら、後ろからヌッと手が伸びてきて腹巻きを奪われた。
「だから素材をそのまま使ったんじゃつまらないだろ? 例えば役に立たないと思われているような弱い素材だって関節部分に使用するとか、裏張りに使えば着心地も良くなる」
「動きやすさとか着心地って大事だよなっ! こっちの装備が部分鎧とか篭手とかガッチガチに固めるものばかりで気になってたんだ」
「ただ強ければ良いってもんじゃないのに、大概の防具作り職人はそこをわかってない」
「でもさぁ、丸出しってのもそれはそれで拙いんじゃないの?」
俺はイーサンが俺の為に作ってくれた短パンを手にそう言った。
ギルドで助けて貰ったあの日は緊急事態だったし勢いに押されたけど、冷静になったらやはり短パンは遠慮しておきたい。
「だが長いと着替えにくいだろう?」
「じゃあせめてハーフパンツにならないか?」
「ハーフパンツか……。それはそれで悪くないかも」
イーサンは俺を上から下までジロジロと見た挙げ句にそう言った。
どれだけ見られても邪な気配を感じないのは、イーサンが中身には興味のない男だからだ。
奴はあくまでも対象をどれだけ着飾れるか、どれだけ魅力的に見せられるかに全精力を傾けている。
俺はちょっとだけ興味が湧いて、「中身には興味がないのか?」と訊いてみた。
「興味? 相応しい格好をさせること以外にか?」
不思議そうに訊かれて俺は思わず苦笑した。
それ以外に何があると言わんばかりのイーサンの態度はいっそ潔い。
「それにしても、あんたがこんなに話せる奴だとは思わなかった」
ポツリと言ったイーサンの顔を見上げる。
俺の事を前から知っていたような口ぶりだ。
「俺の事を知っていたのか?」
「九尾化しているのは知らなかったけどな」
イーサンが苦笑しながら教えてくれたところによると、俺は防具職人たちの間で随分と評判が悪いらしい。
わざわざ防具を付けなくても俺の御守りを手首に付けるか首から下げれば効果が得られる。
装着する人自身の魔力量に魔法の威力が左右されるという欠点はあるものの、値段の安さとお手軽さは自分達を廃業に追い込むのではないかと随分と危惧されたらしい。
「いやちょっと待ってよ。俺が一人で作っているんだから全ての冒険者に行き渡る筈は無いし、そもそも消耗品だし、ちゃんと職人に作って貰った防具の方が信頼出来るって言う奴もいっぱいいるだろう?」
「わかってる。俺は自分の仕事に自信があるし、その人自身に合わせた防具を作れるからな。余り心配はしていなかったが――それでも、相容れないだろうとは思っていたんだ」
職人とは相容れない。それは俺が職人としては認められない、受け入れられないって事だ。
ショックでうるっときた俺を見てイーサンが慌てる。
「どっ、どうしたっ!?」
「俺は……職人を凄いと思ってる。それなのに相容れないとか言われちゃうと、じゃあ俺はなんなんだって……単なる異世界の知識に頼ったチートかって……うぅぅ」
「思っていたって言っただろう! 俺は、お前のことを凄い魔法使いみたいに思っていたんだよ! 魔物の毛を編み込むなんて手の掛かることをしているとは思ってなかったし、もっとちゃちゃっと魔法を付与出来ると思っていた。簡単に考えていた事を反省してるんだ。悪かった、許してくれ」
頭を下げられて俺はすんっと鼻を啜った。
凄いことを出来ると褒められるよりも、努力を褒められる方が嬉しい。
俺はニコッと笑ってある物を差し出した。
「硬化液で釦を作ったんだ。こっちの世界で釦って言うと木か石だろ? 女の人の服にはもっとキラキラしてる方が良いと思って」
「硬化液か!」
それは思い付かなかったと悔しそうに言うイーサンに、俺は魔法陣を封入する事で魔法も付与する事が出来ると自慢した。
「黒い釦は作れるか?」
「作れるけど、魔法陣の効果は余り発揮出来ないよ?」
「それでもいいから真っ黒い釦を一揃い作ってくれないか? いざという時には指で千切って使えるようにしたい」
「えっ、なにそれ夢がある」
俺には釦を千切って投げるという発想が無かった。
投げられるなら煙が出る魔法を付与して目くらましとして使ったり、強く発光させて魔物の気を引いたりと使い道が増えるかもしれない。
俺は夢中になって幾つもの試作品を作った。
ダンジョン攻略に出発するまで余り時間はなかったけれど、イーサンと協力して沢山の防具や装備が出来た。
最近は寒くなってきたこともあって、思わず魔物の毛を編み込んだ腹巻きなんてものまで作ってイーサンに笑われた。
「言っておくけどこれは温かいし、勇気百倍の魔法陣を編み込んでいるから新人冒険者には絶対にいいぞ?」
「でも赤はない」
イーサンに首を振られてそんなにおかしいだろうかと手にした腹巻きを見る。
赤い色にしたのは俺にとって温かいものと言ったら真っ先にリッドの髪色が思い浮かぶからだ。
赤銅色の派手な髪なんて全く馴染みがなかったのに、今ではその手触りも匂いも直ぐに思い出せる。
「どうしようかなぁ。幾ら伸縮性があると言っても、こっちの人に合わせて作ったから俺にはデカ過ぎるんだよな」
そう思って持て余していたら、後ろからヌッと手が伸びてきて腹巻きを奪われた。
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