上 下
90 / 181

㊴九尾化がバレておかしな野郎が増えました-2

しおりを挟む
「ギルマスは……」
「言っておくけど俺は妻帯者だからな」
「嘘っ!」
「嘘なもんか。結婚を機に引退する冒険者ってのは多いからな。俺もその口だ」
「へぇ……」
 やっぱり危険な仕事をしないでくれって奥さんに言われちゃうのかな。
 俺だってリッドが手の届かないところで危ない事をしていると思ったら、凄くしんどかったもんな。
 そうすると一緒に冒険できる冒険者同士で付き合うのも悪くないのかもしれない。
 今回のダンジョン攻略で恋が芽生えちゃったりして。って、そんな訳無いか。

「そうだ。何人か女冒険者も参加するんだが、お前の作ったブローチが欲しいって騒いでいたぞ」
「あ、ミレイユさんが宣伝してくれたんだぁ」
「お前はまた売れそうなものばかり、次から次へとよく思い付くな」
「呆れないでよ」
 俺は矛先を躱すようにヘラヘラと笑った。
 ブローチを作るのはとても繊細な作業が必要で、神経をすり減らすけど時間はそれ程かからない。
 材料費も安いし、作ろうと思えばそれなりに数は作れる。

「ブローチなら直ぐに納品できるよ。ダンジョン攻略に役立つなら格安で卸すけど――」
「幾ら何でもタダ同然じゃ駄目だ。価格は俺が決めるからな」
「はいはい、わかったよ」
 まあ、C級以上ならそこそこ稼いでいるから法外な値段でなきゃ構わないだろ。
 ああいうのって一つずつ集めても楽しいしな。

「そうと決まったら早速――」
「おいっ、待てよその格好で帰る気か?」
 ギルマスに呼び止められて俺は自分の格好を見下ろした。
 あ~、幾ら男だからって下を履かずに歩き回っちゃ拙いよな。
 よし、お尻の所に穴を開けよう。
 俺がパンツにハサミを入れようとしたら、ちょっと待ったと声が掛かった。

「ちょっと待ったぁああああっ!」
 暑苦しそうな男が叫びながら俺のハサミを取り上げた。

「あんた適当に穴を開けようとしてるだろっ!」
「え、そうだけど悪い?」
 俺は器用だけど洋裁に嗜みはねえ。ついでに言えば服のセンスも無いし興味も無い。
 小物だけは楽しいから作るけどな。

「適当に開けたりしたら、尻が丸見えになるぞ? きっと誰も指摘しないでありがたく拝むぞ?」
(えっ、マジか!?)
 慌てる俺の耳に余計な事を言うなという野郎どもの怒りの声が聴こえる。

(本当だ。危うく尻丸出しのアホみたいな格好で出歩く所だったぜ!)
「注意してくれてありがとう。でも履かないのも拙いよな?」
「当たり前だっ! 俺に任せろ! 最高のショートパンツを作ってやる!」
 いやいやいや、なんでロングパンツをわざわざ短くするんだよ? 意味がわからないよ。

「俺の世界では成人した男は短いズボンなんて履かないんだけど」
「でも半獣人はよく履いているぞ?」
「えぇぇ、そうなの?」
 それが常識だと言われたらよそ者の俺は従わざるを得ない訳だが――。
 俺はチラリとリッドの方を見た。いつの間にか俺の直ぐ後ろで話を聞いている。

「どう思う?」
 一応お伺いを立てたら物凄く難しい顔で熟考した挙げ句に重々しく頷いた。

「俺がいる時だけ許可する」
「お前の許可がいんのかよ……」
 俺は呆れたが、取り敢えず許しは貰えたので男に頼む事にした。
 男は俺の前で器用にパンツに穴を開け、縁がほつれないように太い針でザクザクと縫った。

「あんた名前は?」
「イーサン。普段は工房でオーダーメイドの装備を作っているが、大掛かりな遠征には付き合うこともある。俺の特技はその場での修復とリメイクだからな」
「へぇ~、色んな仕事があるんだな」
 ちょっとしたトロール並みに大きな男だけど、生産職と聞いたら親しみが湧いた。
 俺はこっちの真っ当な生産職とは殆ど付き合いがないのでとても興味がある。

「なあ、ショートパンツが良いって事は、動きやすいとか熱が籠もりにくいとか理由があるのか?」
「可愛いからだ」
「趣味かよっ!」
 俺は思い切り突っ込んでおいて頭を抱えた。
 どうして俺の周りにはこんな変態ばかりなんだろう?

「出来たっ! さあ履いてみてくれ!」
 俺は嫌で嫌で堪らなかったが、頼んだ手前そうも言えずにショートパンツを履いた。
 尻に開いた穴のサイズは丁度良く、尻尾を出しても苦しくないしかといって尻が見える事もないようだった。

「おお、流石プロ、一ミリの狂いもねえ――」
「ウォオオオオオ! 見えないけどイイッ!」
「尻は見えないけど最高ォ! 似合ってるっ!」
「カワイィィィィィ! 尻は見えないがっ!」
 口々に吠える野郎どもを俺は半眼で見つめる。
 こいつらどんだけ尻が見たいんだよ。

「フッ、わかってくれて嬉しいぜ」
 イーサンが照れたように鼻の下を指で擦った。
 コイツもコイツでなんだかなぁと思う。

「ユウ、その格好は目に毒だ」
 リッドが片手で目を押さえながらよろけてそう言った。
 元祖変態がこの格好を見て黙っている筈がなかったんだよな。

「家に帰ったら着替えるから――」
「いや、着替えなくていい。そのままで」
「……」
 本当に変態で嫌になる。
 嫌になるけど俺も穴から指を挿れられたらなんてちょっと想像してしまう。

「服を汚すなよ?」
 そう囁き返したらギュッと腕を掴まれた。
 逃さないとばかりにしっかりと握られて恥ずかしい。
 俺たちはその日着衣エロという新たな扉を開いたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

配信ボタン切り忘れて…苦手だった歌い手に囲われました!?お、俺は彼女が欲しいかな!!

ふわりんしず。
BL
晒し系配信者が配信ボタンを切り忘れて 素の性格がリスナー全員にバレてしまう しかも苦手な歌い手に外堀を埋められて… ■ □ ■ 歌い手配信者(中身は腹黒) × 晒し系配信者(中身は不憫系男子) 保険でR15付けてます

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

同僚がヴァンパイア体質だった件について

真衣 優夢
BL
「僕はヴァンパイア体質なんだ。基本は人間なんだけどね」 朝霧令一は、私立アヤザワ高校の生物教師。 人付き合い朝霧が少し気を許すのは、同い年の国語教師、小宮山桐生だった。 桐生がカミングアウトしたのは、ヴァンパイア体質という、特殊な人間の存在。 穏やかで誰にでも優しく、教師の鑑のような桐生にコンプレックスを抱きながらも、数少ない友人として接していたある日。 宿直の夜、朝霧は、桐生の秘密を目撃してしまう。 桐生(ヴァンパイア体質)×朝霧(人間)です。 ヘタレ攻に見せかけて、ここぞという時や怒りで(受ではなく怒った相手に)豹変する獣攻。 無愛想の俺様受に見せかけて、恋愛経験ゼロで初心で必死の努力家で勢い任せの猪突猛進受です。 攻身長189cm、受身長171cmです。 穏やか笑顔攻×無愛想受です。 リアル教師っぽい年齢設定にしたので、年齢高すぎ!と思った方は、脳内で25歳くらいに修正お願いいたします…。 できるだけ男同士の恋愛は男っぽく書きたい、と思っています。 頑張ります…! 時にコミカルに、時に切なく、時にシリアスな二人の物語を、あなたへ。

処理中です...