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㉚裸族が爆誕してしまった−1

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 謁見の間でなんかメチャクチャでっかい椅子に座った王様は、俺が思っていたよりも若かった。
 まだ三十代半ばに見える。
 隣に並んだ王妃様も三十そこそこの若さに見えた。それに二人共座っている所為かそれほど大きく見えない。
 エーリリテ姫の方がずっと貫禄があったな、と思う。

「勇者、カイト・クロカー。そなたにこの国での使命を果たして貰いたい」
「承ります」

「迷い人、ユート・キシ。同時期に同郷のものが現れたのも何かの縁。勇者を助けてやって欲しい」
「はい。微力ながら務めさせて戴きます」

「A級冒険者、リッド。よしなに頼む」
「お任せ下さい」

「それでは北の新たなダンジョンを討伐した暁には、三人には望みのままの報償を与える。なんとしてもあれを潰して欲しい」
 割りと切実な感じで王様が言ったので、S級ダンジョンてのは俺が思うよりももっとヤバイものなのかもしれない。
 先輩に押し付けちゃって大丈夫なのかな、と不安になるが今更どうしようもない。
 俺たちはこの後の激励の宴に参加してサクッと帰る予定だった。
 ところが宴の後でどうしてもお礼が言いたいと言うエーリリテ姫の誘いで部屋に招かれ、行ったら王様が待ち構えていたので俺は思わず責めるような視線を姫に向けてしまった。

「ユーリ。いえ、ユートでしたね。陛下のお子たちに守護神器を与えて下さってありがとう。お陰で健やかに成長しています」
「それは良かったです。でももうおわかりでしょうけど、あれは魔力の強さに比例して魔法の威力が上がります。普段は殺意にしか反応しませんが、お子たちが自分で奮えるようになったら――暫く取り上げた方が良いかもしれません。それか正しい使い方をよくよく教えて下さい」
「うむ、しかと承りました」
 しっかりと頷いてくれたエーリリテ姫を見て、これなら大丈夫そうだと俺は安心した。
 その横で首振り扇風機のごとくウンウンと頷くだけの王様がとても鬱陶しい。
 俺は王の存在をまるっと無視して帰ろうとした。
 けれど慌てて引き留められてしまう。

「これ、わたしを無視するでない。ユート、わたしにも神器を作ってくりゃれ」
「え、神器なんて作れませんよ」
「子らには作ったではないか!」
「いやいやあれはあくまでもオモチャなので」
 へらへらと笑ってやり過ごそうとする俺に、王様は縋り付く勢いで欲しいと言った。

(何かって事は、別に恐ろしい武器だとか無敵の鎧なんてものを求めてる訳じゃねーんだな?)
 好奇心や過度の期待で膨れ上がっている王様を見て俺はニヤリと笑った。
 この王様に合うのは伝説級の武器や魔道具じゃない。
 俺が冬になったら着ようと思っていたアレがいい。
 アレならば丁度手持ちにある。
 俺は荷物を取ってくると断って部屋を出て、人から見えない場所で卵の密室に入って用意してきたうちの一つを手に取った。
 自分が着る為に考え、王様に渡せるようにアレンジしていたもの。それはゴールデン・シープという魔物の毛で魔法陣を編み込んで作った人をダメにする着る毛布だった。

「なんだ、随分とモサモサしておるの……」
 そう言いつつマントだけ外して服の上から毛布を身に纏った王様はカッ! と目を見開いた。

「ふわふわぁ……すっごく柔らかくて、滑らかで温かいのじゃっ!」
 ふふん、そうだろうそうだろう。俺の知識を振り絞って苦労して作ったんだぜ? 前の世界で使っていた人をダメにする着る毛布を超えていると自負してるぜ。

「王様、それは前を閉めたら人からは素晴らしい服を着ているように見えます。つまり素肌にその気持ちのよい毛布を着て人前に出てもオッケーです。勿論、対物理防御結界、魔法防御結界、呪詛返しも付いてます。その上、着ているだけで快適な温度が保たれます」
 俺は立て板に水のごとく滔々と説明して素肌の上に直接着ることを勧めた。俺の勧めに従って着替えた王様は、両手で口を押さえ感動の息を洩らす。

「すっごい気持ちいい……。すべすべ、モフモフ、柔らかくって温かい。着心地サイコー。解放感がすっごい! ハァ……もう手放せぬ!」
 スリスリと袖に頬擦りをして自分を抱き締めて感触を楽しむ王様を見て、裸族爆誕だなとほくそ笑んだ。

「陛下、そんなに素晴らしいのならちょっと私にも着させて下さいませ」
 エーリリテ姫が羨ましそうにそう要求したが、すっかり着る毛布の魅力に取り憑かれた王様は脱ぐのが嫌だとごねた。

「ちょっとだけです!」
「嫌じゃ。そなたはこれを着たらきっと返してくれまい。これはわたしのものじゃっ!」
 大人げなくも喧嘩を始めた二人を見て俺は呆れる。
 そんな事で喧嘩をするなんてバカな二人だ。
 この毛布には他の使い方もあるというのに。

「エーリリテ姫、それは大きく開いて敷布のように使っても良いんですよ。そうすると二人で使う事が出来ます」
 俺の言葉の意味を理解して、エーリリテ姫と王様がごくりと喉を鳴らした。

「それでは早速――確かめなくてはなりませんね」
「では私たちは下がらせて戴きます」
 素早く退出した俺たちに、翌日の昼過ぎに『最高でした』というエーリリテ姫の言付けが届いた。
 良い仕事をしたぜ。
 そうドヤ顔で調子に乗っていた俺にリッドが思わぬ事を言い出した。
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