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㉖懐かしい人との再会はなかなか厄介だった−2

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「先輩っ!」
「うぉっ!? 岸? なんでお前が此処にっ!?」
 まさかの会社の先輩だった。

「先輩も酔っ払って落ちてきたんですか?」
「よっぱ……? なに言ってんだ。俺は営業廻りの途中で、車がスリップして――」
「こりゃあ迷い人じゃなくて勇者転生の方かもな」
 急に口を挟んできたギルマスの言葉に驚く。

「勇者転生? つまり先輩は死んだって事?」
「ひらったく言えばそういう事だ」
 先輩可哀想、と駆け寄ったらちょっと待て説明しろと怒鳴られた。それからそのちっこいのは何だ説明しろとも迫られた。
 ハァ、めんどくせ。この人って融通が利かねえしなぁ。

「こいつは俺の眷属みたいな魔物で、ここは簡単に言うと異世界です。男の平均身長は百九十センチ、女の人でも百八十センチくらいある。でもって魔物がいて、魔法を使えて、どういう訳だか言葉も文字も理解できる。俺は酔っ払って迷い込んだだけの何の使命も加護も魔力もない一般人ですけど、先輩はギルマスが言うのが本当なら勇者って奴みたいですよ。良かったっすね」
 ニカッと笑ったら良くないと怒られた。

「俺は勇者って性格じゃ無いんだよっ! 気が小さいし、楽しみは新しい文房具をテーブルに並べて眺めながら酒を飲む事くらいだしっ!」
 あ~、そうだった。この人って仕事中毒だったんだよね。
 だったらやっぱりちょっと可哀想だな。

「先輩、この世界の文房具は余り発展していませんよ」
「……マジか」
「残念ながら」
 だって魔道具の方が発達してるからね、永遠に書けるペンが一本あればそれで済んじゃうし。
 貴族の道具なら少しは凝った物があるかもしれないけど、それだってきっと魔道具だからね。

「文房具は大してありませんけど、魔道具も楽しいっすよ? 先輩が勇者なら自分で魔物を狩れるじゃないですか。そうしたらお金も手に入るし、でっかいけど胸も立派なお姉さん達に可愛がられて――」
「俺はお前が好きだった」
「…………はぁああああ!?」
 俺は唐突な先輩の告白に吃驚して口をガボーンと開けた。

「男同士だし、お前がノーマルなのはわかっていたから言うつもりは無かった。でもお前が失踪して、こうやって再会出来て、しかも俺は元の世界で死んだんだって言う。だったらもう遠慮しない! 俺はお前が好きだ!」
 待って待って先輩は確かに親切だったけどでも俺の事を邪険にしてたじゃん。
 優しくされた覚えなんて無いんだけどっ!

「今どき優しくされたら懐くのなんてお前くらいだ。相変わらず頭がお花畑だな」
(あんたこそ相変わらず辛辣ぅ~! だから俺はあんたが苦手なんだよっ!)

「あ~、ちょっといいか?」
 ギルマスが申し訳なさそうに会話に割って入ってきた。
 幾ら身を縮めてもデカイので、先輩がギョッとする。

「あんたはどうやらユートの知り合いみたいだな?」
「そうだ。岸の元同僚だ」
「そうか。でもってこいつに好きだとか何とか言ってたが……こいつには旦那がいるぞ? しかもA級冒険者の、独占欲の激しい過保護な旦那だ」
「岸ッ! 結婚したのかっ!?」
 慌てて俺を振り向いた先輩の顔は潰れて辛そうだった。
 あ、この人ほんとに俺の事が好きだったんだな。

「結婚は、してねぇけど……一緒に暮らしてます」
 まあ一緒に暮らすようになった経緯は出来たからじゃないけどな。
 でも今はもう出ていく気なんてこれっぽっちもないし、リッドと離れる気もない。

「だって相手は巨人だぞ!?」
「そうだけど、薬を使えば繋がれるし」
「つなっ!?」
「俺はあいつに新しい扉を開かれちゃったんです」
「岸ィィィ! 騙されてるぞぉぉぉ!」
 いや、強引ではあったけど別に騙されてはねえって。
 あいつは俺の準備が出来るまでずっと待っていてくれたしな。

「あのな、お前はアホの子だから騙されてても気付かないんだって」
「アホの子って言わんで下さいよ!」
 失礼だな。でも、ほらやっぱりって言われそうだから詐欺師に引っ掛かりそうになった事は言わないでおこう。

「お前が男もいけるなら、俺は諦めない。きっと目を覚まさせてやる!」
 あらら……。な~んか思い込んじゃったよ。
 そう言えばこの人って、思い込みも激しいんだった。

「それで少しは落ち着いたか?そろそろ魔力量を測って登録してもいいか?」
 マイペースなギルマスに声を掛けられて先輩の魔力測定が行われた。
 結果はAクラス超えのA+だった。

「ちっと勇者にしては物足りねえけど、ま、間違いはないだろう」
 なんかギルマスの態度が素っ気ないような気がするけど、兎に角先輩は勇者と認められてギルドに登録された。

「クロカワ・カイト、三十歳、男。属性は勇者。職業は商人で持ち物は聖剣のみ」
「うわっ、先輩、それ何処で手に入れたんですか?」
 リッドの持っている魔剣よりも立派でちょっと羨ましい。

「剣なんて知らん!」
「転生する時に一緒に降ってくるらしい。それがあるから勇者だって認めたんだ」
 魔力が多いだけなら単なる才能に過ぎん、とギルマスが言った。
 それでもやっぱり羨ましいと俺は思う。

「ハァ……俺なんて、会社に行くときのカバン一つだったのに。最初から武器があったらあんな苦労しなくて済んだよな~」
「ユート、そうしたらリッドの命も守れなかったな?」
「……今のは本気じゃないよ。ただの愚痴」
「リッドには黙っておいてやる。一つ貸しだからな」
「チッ!」
 俺は舌打ちをして、次の納品は無茶を言われそうだと覚悟した。

「岸、その男と随分と親しいんだな?」
「止めてくれ! 俺はリッドの敵に回る気はない!」
 先輩の言葉を聞いてギルマスが慌てて叫んだ。
 幾らリッドだってそのくらいはわかっている筈だ。
 多分、わかってると思う。

「お前を奪った男に会うのが益々楽しみだな」
 キラリと眼鏡を光らせた先輩を俺は困ったように見る。

「先輩、リッドに会う気なんですか? でもあいつ、怖いですよ?」
 俺はリッドがイイ奴だって知ってる。あいつの手も視線も言葉も俺を絶対に傷付けないって知ってる。
 でも知らない人から見たら鬼のように強くて怖い冒険者だ。

「俺は勇者なんだろう? ならば巨人の手からお前を取り戻すのは俺の役目だ」
(あ~、聞く耳を持ってくれないや。ちょっとこの状況に酔ってるのかもしれない。まあ、明日になれば頭も冷えるだろ)
 俺は先輩を留置場に泊めてくれるようにギルマスに頼んだ。
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